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m3コンシェルジュ 高橋 睦

リスクマネジメント・ラボラトリー

高橋 睦

皆さま、こんにちは。 m3コンシェルジュ、株式会社リスクマネジメント・ラボラトリーの高橋睦です。

「開業」を考えたとき、すぐに「事業承継」が思い浮かぶ先生は少ないかと思いますが、「事業承継」もひとつの候補としてお考えになってみてはいかがでしょうか。

昨今の医療を取り巻く現状を見ると、少子高齢化が進み、後継者不在に悩む院長も増加傾向にあるようです。 競争相手の多い都心部ではなおさらです。

「事業承継による開業」は今後、さらに注目される開業手法ではないでしょうか。

今回は「もうひとつの開業手法である事業承継」(全4回) の1回目として、「個人クリニック事業承継のポイント」をお届けします。

執筆はm3.comに掲載されており、医療機関・介護施設の税務・経営コンサルティングを専門としている岡本雄三税理士事務所の深谷 健史氏にお願いしました。

それでは、どうぞ。

【もうひとつの開業手法である事業承継】 第1回
個人クリニック事業承継のポイント

【もうひとつの開業手法である事業承継】 第1回

個人クリニック事業承継のポイント

皆さま、こんにちは。 岡本雄三税理士事務所の深谷 健史です。

当事務所は医業専門(クリニック、調剤薬局、介護施設等)の税理士事務所として、これまで数多くの開業を志す先生方をお手伝いしてきましたが、最近ではクリニック経営が軌道に乗るまでの時間が長くなってきていると実感しています。

特に、一から全てを用意する新規の開業は、高騰する初期投資や周知不足により伸びない患者数など、さまざまなリスクが顕在化しています。 事業承継による開業は、新規開業とは違ったメリットがあり、ぜひご検討をしていただきたいと思います。

1回目は、「個人クリニックの事業承継のポイント」を、税務面中心にお伝えします。

 

■ 個人クリニックの事業承継について

個人クリニックの事業承継とは、売り手側は「資産売却」というかたちでクリニックを譲渡することができ、買い手側は下記に挙げるメリットがあります。

  • 新規開業に比べ初期コストが安くて済む
  • 患者とのつながりごと経営を引き継げるので、事業としての立ち上がりが早い
  • 従業員の人材確保ができる

 

■ 承継する相手と内容について

事業承継の際に重要なことは、「誰を後継者にするのか(誰に譲渡するのか)」という点で、大きく分けて2つあります。

1. 親族間での事業承継

親子間での事業承継がメインになります。 前院長が生前のうちに承継するのか、あるいは亡くなった後に相続として承継するのか、これらのポイントを以下にまとめてみました。

【生前のうちに承継する場合】

(1) 資産(土地、建物等)の引き継ぎ

  • 売買(譲渡)
    前院長(親)は土地、建物の売却益に対して譲渡所得税が課税されます。 新院長(子)は建物の減価償却費を必要経費に算入できます。
  • 贈与
    土地、建物を受贈する新院長に対して贈与税が課されます。
  • 賃貸
    前院長と新院長が別々の生計の場合、新院長が支払う賃貸料は必要経費に算入されます。 賃貸料を受け取る前院長は、不動産所得として収入になります。

一方で、前院長と新院長が同一生計の場合は、親族間での支払う賃貸料は必要経費に算入されませんので、前院長が受け取る賃貸料も収入にはなりません。

(2) 負債の引き継ぎ
銀行等、債権者の同意を得れば引き継ぐことが可能です。 一般的にはそのまま引き継ぐことが多いようです。 この場合、借入金の利息は事業所得の必要経費に算入することができます。

(3) 従業員の引き継ぎ
従業員との雇用関係は原則として引き継がれません。 継続して雇用する場合は、新院長と従業員との間で新たに雇用契約を結び直す必要があります。


【相続による承継の場合】

相続発生時点での相続税評価額で、相続税を支払い、承継することになります。 生前のうちに承継する場合と違い、突然の承継になる可能性もあります。

その場合、クリニックに関連する財産(土地、建物)が確実に新院長に相続されるように準備することや、相続税の納税資金についても、預貯金や生命保険等で準備しておくことが必要になります。


2. 第三者との事業承継

いわゆるM&Aでの事業承継にあたります。

(1) 資産(土地、建物等)の引き継ぎ
親族間とは違い、贈与や相続といった引き継ぎ方法はなく、売買(譲渡)もしくは賃貸のどちらかになります。 売買価格としては、「固定資産の時価」に「営業権(のれん代)」を加えた価格になるのが一般的です。

(2) 負債の引き継ぎ
負債については、引き継がない場合が多いようです。

(3) 従業員の引き継ぎ
親族間での事業承継と同様です。

営業権(のれん代)について
クリニックの将来性や収益性を加味した部分で、固定資産の時価を上回る部分になります。 この営業権は減価償却資産として計上し、5年間で償却します。

また、事業承継を進めるにあたり、いくつかのステップを経なければなりません。

ステップ1 売り手を見つける
第三者との事業承継においては、売り手、買い手ともに、相手がいないと始まりません。 売り手の院長、買い手の医師の個人的なつながりから相手を見つける場合もありますが、やはり広範囲のネットワークを持つ、専門業者やコンサルタントに依頼することが多いようです。

ステップ2 代理人を立てる
売り手、買い手ともに代理人を立てて交渉することが基本になります。 事業承継においては、数多くの合意事項が発生するため、客観的に進められる代理人の存在が欠かせません。

ステップ3 コンサルタントに依頼する
交渉がまとまった後は、後継クリニックの診療開始に向けてさまざまな準備作業が必要になります。 手続きに関しては新規開業と同じく、書類等の提出も多く複雑なため、税理士事務所を始めとしたコンサルタントに依頼することが、失敗しないポイントになります。



個人クリニックの事業承継について、少し身近に感じていただけたでしょうか?
次回は、医療法人の事業承継について、お伝えします。

<参考>
  • 『Q&A 診療所の新規開業ガイドブック』 TKC医業・会計システム研究会/株式会社TKC出版
  • 『医療・介護経営のポイントと改善アドバイス』 総合医業研究会/株式会社ビジネス教育出版
  • 『開業医のためのクリニックM&A』 岡本雄三/株式会社幻冬舎
m3コンシェルジュ 高橋 睦

いかがでしたでしょうか?

「事業承継による開業」は「新規開業」と比べて、他にもさまざまなメリットがありそうですね。

「開業をする」=「経営者になる」ことですので、経営者として判断することになります。 経営者としての「聞く耳」を持っていただくこと、「相談する相手」を身近に置くことも重要ですよね。

今回執筆をお願いした岡本雄三税理士事務所では、開業支援だけではなく、税務、労務、医療経営に関するアドバイスもしております。

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