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m3コンシェルジュ 宮地 孝郎

リスクマネジメント・ラボラトリー

宮地 孝郎

開業後、大変苦労される先生方が多いことについて前回触れました。

開業後ご苦労される先生方はなぜ、そのような結果になったのでしょうか。 今回は苦労されることになった要因とその後の対策について、前回に引き続き川庄公認会計士事務所の北原さんにお話を伺いました。

開業前にちょっと待った!
失敗事例から学ぶ、開業前後の対策

開業前にちょっと待った!

失敗事例から学ぶ、開業前後の対策

開業する先生方は、「このようにしたい」、「こんな医療がしたい」などのイメージをもっておられます。 ところが全ての先生方の、ご開業がイメージ通りに進んでいくわけではありません。 なぜ、思うようにいかなかったのでしょうか?

順調に経営されているクリニックの要因は「立地に恵まれた」、「専門医としてスペシャリスト」、「先生・スタッフのお人柄」、「競合医院が廃業」など様々です。

ところが、経営がうまくいかないクリニックにはいくつか共通の要因が見られます。 この共通項について、順調にいかなかった事例から考えてみます。

 

■ A医師のケース「甘い事業計画」

1. 【お金がない!】

A医師は駅ビルのテナントで開業しました。 当初の借入は5,000万円。 事業計画も作成し、融資の実行もスムーズでした。 内装や設備投資に3,000万円、運転資金と生活費として2,000万円を確保しており、余力は十分と考えていました。

ところが、2年を待たず資金が枯渇し、結果的に追加融資を受けることになってしまいました。 なぜこのような事態に陥ってしまったのでしょうか?


2. 【甘い事業計画】

開業時に融資を受ける際には必ず事業計画が必要となります。 事業計画は売上(診療報酬)見込、経費の計画などをその根拠とともに作成します。

A医師の場合は、売上見込が非常に甘い計画になっていました。 なぜ「甘い事業計画」になったのか?

事業計画は業者にお任せで、A医師は一切ノータッチでした。 いざ開業してみると、思ったように集患ができず、売上が低迷してしまいます。 また、多くの売上を見込でいたのでスタッフも最初から多めに採用してしまい、売上に対して人件費の割合が非常に高くなってしまいました。

業者によっては「開業資金さえ融資がおりれば構わない」と考える場合もあるので事業計画作成の際には詳細までご自身で把握される必要があると思います。


3. 【日々減っていく預金残高】

売上が低いので、当然毎月の収支はマイナスになります。 「日々減っていく預金残高が大変なストレスだった」とA医師はいいます。 不必要な支出は減らし、増患のためにチラシを配り、再診してもらうよう声掛けをする。

そういった努力も空しく、なかなか売上は上がりません。 いよいよ資金も厳しくなってきたので、追加融資を検討しました。


4. 【追加融資はハードルが高い】

開業の時と違い、追加融資を受ける場合は非常に厳しい審査基準で見られます。 既に実績が出てしまっているからです。 開業の時も事業計画を作りますが、あくまで予測でありそれなりの根拠を示すことができれば金融機関は納得します。

ところが追加融資の場合は、当初の計画と実績の乖離が見えてしまうわけです。 「なぜ計画通りにいかなかったのか?」、「それをどのように改善するのか?」、「新しい事業計画通りにいく根拠は?」など、これらをきちんと説明し、金融機関を納得させることは難易度の高い作業となります。

そのご苦労から業者を通じて弊社に相談されました。 ここから収支改善に向けて我々も関与していきます。

聞くところによるとA医師もいくつもの金融機関に断られ、ようやく融資先が見つかった時には預金残高は100万円を切っていました。

実は追加融資をしてくれたのは、開業時に融資を受けたメインバンクでした。 既に融資を実行した銀行も当然返済してもらわなければ困るので、親身に相談に乗ってくれることが多いです。

メインバンクとは一蓮托生、二人三脚で歩んでいくことになるので担当者の人柄や対応などをしっかり見極めたうえでメインバンクを決定する方が後々困ることは少ないかもしれません。


5. 【ここからがスタート】

追加融資が決定して安堵するA医師。 ですが、ここからが肝心です。 どうすれば収支をプラスに持っていくことができるのか。

まずは必要な売上を把握します。 毎月掛かる固定費、借入返済額(当初借入分)、生活費、これが毎月出ていくお金です。 そこから逆算すると、毎月お金が減らない売上額が見えてきます。

そこから毎月の「目標診療保険点数」を定め、平均単価から割り出した1日当たり「目標患者数」を決定していきます。


6. 【スタッフとの共有】

目標が定まったところで、A医師一人の力で達成することはできません。 一緒に働くスタッフの協力が必要不可欠となります。 全員と面談してもらいワークシェアへの理解を求め、スタッフ一丸となって同じ方向を向いて目標へ邁進できるよう、意識統一を図ります。

その過程で離れていくスタッフもいましたが、そこは割り切るしかありません。 「非常にエネルギーを必要とした」とA医師は振り返ります。 医師ではなく、経営者としての顔をのぞかせた瞬間でした。


7. 【原因究明】

スタッフの協力体制も整い、なぜ計画通りに集患できなかったのか原因究明に取り組みます。

駅ビルの中ではありますが、少し分かり難い場所にあったので看板を出しました。 場所の分かりやすさは重要で、別の医師の話ですが開業したとたんに目の前の幹線道路で長期工事が始まってしまい、通りからクリニックが全く見えなくなり集患に苦労したそうです。

前回のメルマガでも触れましたが、開業地の変更は簡単にはできないので、入念な下調べが必要となります。 また、HPも写真を増やすなどの見直しをして、再診の声掛けも「なぜ再診が必要なのかを丁寧に説明すること」で再診率を上げることができました。

その他にも、「口コミツール」などは有効です。 オリジナルの「会報誌」を作成して、来てくれた患者さんに渡すことで、誰かの目に留まり来院が期待できます。 即効性はないかもしれませんが、地道に続けることで結果的には大きな集患要因となることがあります。


8. 【目指すべき医療へ】

開業4年目の現在では、借入返済も含めて毎月の収支はプラスに持っていくことができました。 ここまで来てようやく、A医師は開業当初思い描いた理想の医療を目指すスタート地点だといいます。

資金の問題を抱えていたころはクリニックの存続に頭がいっぱいで、なかなかそこまで考える余裕もなかったそうです。 「しっかりした経営基盤がなければ、理想も何もあったものではない」と笑っておっしゃいます。

m3コンシェルジュ 宮地 孝郎

いかがでしたでしょうか?

いきなり資金の枯渇というシビアな話になりましたが、「甘い事業計画」はご苦労されている先生方の共通の問題のようです。

当初の計画が甘く、売上が低迷すると、そこからの事業計画の修正はとても難しそうです。 計画修正や追加融資などの必要がない事業計画を立てるためには、計画作成を業者任せにせず、ご自身が関与することも重要のようです。

何事においてもそうですが、リスクを事前に把握しそれを回避する術を身に着けておくことが重要ではないでしょうか。

このような体験をされた先輩開業医は少なくないようです。

特に都市部での開業は、診療圏調査による昼夜の人口・潜在的な患者数をつかみ難い傾向にあります。 事業計画の中に、増患対策費も視野に入れながら開業の事業計画を行っていくことはこの事例からも重要なことだといえます。

今回、福岡では具体的な事業計画例を学ぶ機会として10月22日(日曜)に「クリニック開業塾 福岡 2017 秋」を開催いたします。

この機会に、リスクを回避できる一助になればと思います。 是非、ご参加ください。


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