皆さま、こんにちは。 岡本雄三税理士事務所の稲熊 修です。 従業員を承継する場合、メリットやデメリットも含めて慎重に検討する必要があります。 メリットとしては次のことが考えられます。
- 看護師、理学療法士、視能訓練士などの専門職を採用する場合、新規募集の採用と比べると比較的容易に人材の確保ができる。
- 患者さんと顔見知りであるため、先生が変わったとしても安心してもらえる。
- 開院前に行う、「医療機器の取り扱い研修」などがスムーズに進む。
また、デメリットとしては次のことが考えられます。
- 既職場ルールがそのまま引き継がれてしまうこともあり、新しい試みが期待できなくなる。
- ある程度の勤続年数がある方であれば給与は昇給しており、同じ条件で雇用する場合、新規採用と比べて人件費が高騰してしまう。
- 年齢の高い方が多ければ、新しい医療機器に慣れるまでに時間がかかったり、苦手意識を持ってしまったりすることがある。
次に採用から開院までの流れに沿って、ポイントを具体的にお伝えします。
■ 専門職採用の現状
有効求人倍率とは、有効求人者数に対する有効求人の比率を意味します。 仕事を探している人が100人いて、100人分の求人があれば、有効求人倍率は1.00倍となります。 厚生労働省の発表(2018年7月31日 職業安定局雇用政策課)では、2018年6月度の有効求人倍率は1.62倍で、1974年以来の高水準となっています。 看護師の世界で見てみますと、有効求人倍率は他の職種や平均と比べても非常に高い水準となっており、4年から5年前の時点で有効求人倍率が3.00倍を超え、現在も高い水準を維持しています。 求人を募集する場合、開院時の折り込み広告、無料のハローワークや有料の求人サイトなどのインターネット媒体、人材紹介会社などを活用しますが、売手市場であるため、募集をしても応募が少ないということも十分考えられます。
■ 面接の実施
従業員を承継して雇用となれば、「全員を雇用する」のか、「一部を雇用する」のかを決めなくてはなりません。 まず、従業員一人ひとりと面接をし、働き方について、細かくヒヤリングすることが重要です。 特に以下の項目はしっかり把握する必要があります。 1. 仕事に対する考え このクリニックで継続して勤めたい理由や仕事に対する考えをしっかりと確認してください。 また、先生や奥様が描くクリニックのイメージにマッチするかも重要となってきます。 例えば、受付はクリニックの顔なので、高度な接遇ができる従業員を配置したいなどです。 2. 勤務時間帯 パート従業員の場合はシフトを組む上で、勤務してもらう時間帯と月々の収入希望額の確認が必要です。 また、扶養の範囲内で働きたいなど、収入の上限があるのかも確認が重要です。 後々、勤務してもらいたい時間と、働きたい時間との間でミスマッチが起き、退職につながることもあり、人材の確保に悩むことになります。 3. 現在の仕事内容 現在の仕事内容を確認してください。 誰が何を担当し、どのような業務を行っているのか、従業員同士がどのような関係にあるか、把握が重要です。 4. 賃金についての希望 採用を決めるにあたり、現状の賃金と採用後の希望額を確認してください。 事前に情報があれば、条件の提示がし易くなります。
■ 雇用契約の締結
従業員を引き継いだとしても事業主は変わりますので、新たに労働条件を明示しなくてはなりません。 一般的には雇用契約書や雇入れ通知書にて、労働条件を書面で明示する方法で行います。 以下の6項目は必ず明示しなくてはなりませんので、事前に内容を決めておく必要があります。
- 労働契約の期間
- 就業の場所と従事する仕事内容
- 始業・終業の時間、時間外勤務の有無、休日、休暇について
- 賃金の支払方法、締日と支払日
- 退職に関する事項
- 昇給に関する事項
■ 開院前の研修
開院前の従業員研修は、医薬品卸業者や医療機器メーカーが2週間から3週間ほどで行うことが多いようです。 院内見学から始まり、レントゲンなどの院内検査機器、電子カルテなどの操作方法や接遇を学びます。 最後に患者対応を含めたシミュレーションを行います。 新規採用で未経験者が多い場合は、この研修が非常に重要なものになります。 従業員を承継した場合は、新規採用に比べて全員が一定の経験者となりますので、比較的スムーズに行えることが期待できます。 以上のように従業員を承継して採用する場合は、メリットもデメリットもありますので、慎重に検討していくことが重要となります。 次の最終回は、事業承継における就業規則の整備について、お伝えします。
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