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【もうひとつの開業手法である事業承継】 第2回
医療法人クリニック事業承継のポイント
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皆さま、こんにちは。 岡本雄三税理士事務所の瀬谷 亮太です。 医療法人クリニックの事業承継は、買い手側は個人クリニックの事業承継と同様の利点がありますが、個人クリニックの事業承継とは手法が異なります。 医療法人には大きく分けて、「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人(基金拠出型医療法人)」があります。 2回目は、「医療法人クリニック事業承継のポイント」をお伝えします。
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■ 持分あり医療法人の事業承継
医療法人の譲渡では、出資持分を譲渡して理事長を交代します。 譲渡の方法は、次の二通りの方法があります。
- 直接売買契約による方法
買い手が医療法人の社員に就任した後、売り手は出資持分の譲渡を行います。 この場合、医療法人が法人格ごと買い手に移転します。 売り手は売却益に対して譲渡所得税が課税されます。
- 社員と出資者の交代による方法
売り手は退社により出資持分に応じた払い戻しを受けます。 この場合、売り手は出資額を超える部分は配当所得が発生し、課税されます。
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■ 持分なし医療法人の事業承継
平成19年4月1日以後に設立される社団医療法人は、金銭等の出資によらず、拠出により設立されています。 これらの事業承継では、医療法人は理事長を交代し、前理事長に退職金を支給することになります。 また、以下の特徴があります。
- 解散時に持分に応じた払い戻しはできない
- 基金の相続評価は額面額のため、内部留保に相続税がかからない
- 解散等の場合には、残余財産が国等に帰属される
■ 持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行
持分あり医療法人は、内部留保が出資持分の評価に反映されるため、出資持分の評価が高額になり、買い手や相続人に大きな負担がかかります。 このため、持分あり医療法人から持分なし医療法人に定款変更し移行することは、相続税・事業承継対策となりえます。 厚生労働省は「持分なし医療法人」への移行促進策の案内を出しております。 今なら、3年間限定(平成29年10月1日から平成32年9月30日まで)の認定制度で税制優遇措置や低利の融資などを受けられます。 厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000180870.pdf
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■ さいごに
第5次医療法改正(平成19年4月1日施行)により、医業経営の透明性や効率性の向上を目指し、公立病院等が担ってきた分野を扱う医療制度創設を目的として、医療法人の制度改革が行われました。 医療法人は株式会社のように出資者に利益の配当をすることはできません。 そのため、平成19年3月以前に設立された持分あり医療法人は、利益が長年積み上げられる傾向にあり、出資者の死亡により相続税が大きな負担になったり、出資持分の払い戻し請求により医療法人の存続が脅かされたりすることになりかねません。 第三者へ譲渡する場合でも出資持分が高額となり、通常の新規開業よりもコストがかかってしまうことがあります。 まずは、税理士事務所をはじめとするコンサルタントに依頼し、承継スキームを検討することが、失敗しないポイントになります。 次回は、従業員の承継について、お伝えします。
<参考>
- 『Q&A 診療所の新規開業ガイドブック』 TKC医業・会計システム研究会/株式会社TKC出版
- 『医療・介護経営のポイントと改善アドバイス』 総合医業研究会/株式会社ビジネス教育出版
- 『開業医のためのクリニックM&A』 岡本雄三/株式会社幻冬舎
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