最近は、顧問先を訪問すると聞かないことがないくらい以下のような悩みを聞くことがあります。
- スタッフが辞めることになった。
- スタッフが産休に入ることになった。
- スタッフが言うことを聞いてくれない。
- スタッフ間での連携や協調性に欠ける問題。
など、「急な退職や人材不足」、「勤務態度」の悩みについて相談されることが増えてきました。 どの業種でも人事の悩みは付き物ですが、特に医療機関の場合、この手のご相談が多いのはなぜでしょうか?
■ 2つの理由
理由は2つあるのではと考えます。
1. 労働集約型産業の特徴
医療経営は、労働集約型産業※と言われています。 (※ 労働集約型産業とは、人間の労働力に頼る割合の多い産業。) その人件費率の割合を比較してみると
- 労働集約型産業以外の人件費率
小売業 10~20%
- 労働集集約型産業の人件費率の比較
飲食業 30~40% 医療・福祉業 40~50%(役員報酬含む)
(数値は川庄公認会計士事務所調べ) 医業は経費(支出)の割合が1/3を占めるため、医業経営のほとんどが経費と人件費で占めていることになります。 人件費率が高いと人件費に対する考え方は、とてもシビアになりスタッフ1名における役割にそれだけ多くを期待してしまいます。 2. 管理職経験 勤務医時代は、多くの先生方が病院でご勤務されています。 いわば組織構成が整った企業でご勤務されていました。 看護師には、看護部長。 医療事務スタッフには、医事課の課長あるいは事務長と、先生ご自身が、医師以外のスタッフを管理する業務経験がないままご開業されます。 今回は経営の三要素の1つでもある「ヒト(スタッフ)」の問題について失敗事例から考えてみたいと思います。
■ B医師のケース
1. 【気づいたときには手遅れ?】 B医師は地方の建て貸しの物件で開業しました。 開業スタッフもスムーズに採用が決まり順風満帆にスタート。 開業当初は患者数が少なかったものの、軌道に乗るには3年かかると事前に聞いていたため、焦ることもなくスタッフとのコミュニケーションも円滑でした。 ところが、開業から1年が経ち患者数が多くなり始めた頃に問題が表に出てきます。 2. 【善意が不満に!?】 B医師は、開業当初スタッフとなるべくうまくやっていきたいという思いがありました。 そのため、勤務時間・給与面などできる範囲で融通を利かせ、日常業務で注意したいことがあっても摩擦が生じることを懸念し我慢していました。 また、B医師には人事労務も専門家に相談することもなく、ご自身がインターネットで調べた「雇用契約書」しか揃えていませんでした。 患者数が増え、診療時間内に診察が終わらない日も続き、スタッフへ残業してほしいとお願いしました。 更に、前向きなB医師は待ち時間抑制のための診療時間外でのミーティングや出勤日の調整なども提案しました。 しかし、スタッフからの回答は「No!」でした。 「開業時約束した勤務時間と違う。」「残業はないと聞いていた。」と不満が出る結果となってしまいました。 確かに開業時に、口頭での約束もなく、勤務時間の変更・残業も「雇用契約書」にも記載がありません。 3. 【問題が起こる前に】 このような問題を相談され、弊社では3つの解決策をご提案しました。 解決策1 事前にルールを決めておく 「就業規則」や「雇用契約書」など規定が重要となります。 厳格・明瞭なルールは経営者側のリスクを回避するだけではなく、スタッフとの認識のズレも防ぎ不満抑制にも繋がります。 開業時には、将来的なこともトラブルに備え経験豊富な専門家(社労士)の意見を聞くことをお勧めします。 例えば、試用期間を設けた「雇用契約書」を作成する場合、「試用期間3ヵ月有」だけではなく、次のような文言を入れておくと基準が明確になり、いざというときにお互い納得することができます。 例文) 雇用契約書 解決策2 院長としての立場を明確にする 今回の事例の場合、多少融通を利かせてでもうまくやりたいという弱みをスタッフに見せたのが失敗だったと思います。 アットホームな職場環境も必要ですが、経営者として毅然とした態度でスタッフと一定の距離で接することも必要だったと思います。 解決策3 診療理念を共有する 「院長がどのような医療をしたいか」、「どのようなクリニックにしたいのか」などをスタッフと共有している医療機関では、理念に共感したスタッフの在職率が上がり、理念に共感したスタッフが採用時にも集まりやすい傾向にあります。 今一度、診療理念を掲げ、ミーティング時など理念を確認できる機会を作るのは重要です。
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