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全3回シリーズ「院長先生の相続・事業承継」
第2回目 「個人クリニックの相続・事業承継」
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リスクマネジメント・ラボラトリー
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皆さま、こんにちは。 m3コンシェルジュ、株式会社リスクマネジメント・ラボラトリーの佐々と申します。 「院長先生の相続・事業承継」シリーズ第2回目は「個人クリニックの相続・事業承継」です。 執筆は、東海3県を中心に500件超の医療機関を支援している医療特化の会計事務所、税理士法人ブレインパートナーの上條税理士です。 先般出版された「院長先生の相続・事業承継・M&A」より、あるドクター親子の会話形式で事例をお届けします。 それでは、どうぞ。
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■ 開院援助と相続対策
- 父
「開業しようと思っているんだって? 母さんから聞いたぞ。」
- 息子
「医者になって20年、そろそろとは思っているけど、土地建物や資金のことを考えると二の足を踏んでいる状態だよ。」
- 父
「土地なら隣町の休耕田を使っていいぞ。 あそこなら場所も広さも眼科にちょうどいいだろ。 それに建物の資金だって出してやるよ。 いつかは相続するんだから必要な時に使ったほうがいいんじゃないか。」
- 息子
「ありがとう! 助かるよ。」
- 父
「ああ、かまわんよ。 でも、ちょっと待てよ。 私の名義で建てるというのもありかもしれないな。」
- 息子
「どういうこと?」
- 父
「ほら、二丁目のアパートだが、賃貸物件を建てると現金でもっているよりも相続税が安くなるっていわれて建てたじゃないか。 私が建てて、おまえに貸せば相続税が安くなるんじゃないかな。」
- 息子
「ふーん、そういうものなんだね。 どちらにしても、土地と建物を用意してくれるのは本当にありがたいよ、おやじ。」
クリニック開業の際、ご両親から資金提供の提案をしてもらうことができれば大変助かります。 ご両親も、出来る限り応援したいのではないでしょうか? 開業資金提供の方法には、資金そのものの贈与、建物の贈与も考えられますが、贈与税額の方が相続税より高額になることが多いため現実的ではありません。 実際には、「資金の貸付」の場合と「親名義の建物を賃貸借」の場合が考えられます。
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■ 資金の貸付の場合
他人にお金を貸すのと違い、親子間の金銭の貸し借りの場合、どうしても「ある時払いの催促なし」になりがちです。 また、親子間で書面を交わすのも大げさな気がして、口頭だけで契約をすませることもよくあります。 しかし、そのような金銭の貸付は、「あげた」も同然なため、民法上は許されても、税法上は「贈与」とみなされ、贈与税の対象となる可能性があります。 それを防ぐためには、誰がみても明確に「貸借」である以下の準備が必要です。
- 「金銭消費貸借契約書」を交わす(確定日付を取ることが望ましい)。
- 貸付金額、返済期間、返済方法、返済期日、利息、契約日を記す。
- できる限り自筆署名、押印をする。
- 契約書通りの返済を現実に行う(銀行口座間での取引が望ましい)。
- 開業後、借入残と返済金額について、正確に記帳する。
このように、他人から借りるのと同じようにしないと、なかなか貸し借りとはみなされません。 利息については、銀行の利息等を参考に設定してください。 無利子でもかまいませんが、利息部分について、子どもは「払わなくてもよい = 経済的利益を受けた」となることから、みなし贈与として課税される恐れがあります。 なお、利息がある場合、生計一親族の場合はその利息を経費にできませんが、生計が別である場合は経費として算入できます(親は利息を雑所得として申告する必要あり)。 無利息とするか有利息とするかについて、この点も考慮に入れてください。 また、親から子への貸付残高がある状態で、親に相続が発生した場合は、その残高は相続財産となることにも注意が必要です。 なお、貸付というかたちで減った財産を返済というかたちで戻すため、子への財産移転を相続対策として用いたい場合には効果が低くなります。
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■ 建物賃貸借の場合
親がクリニックの建物を建設し、子に貸し付けることは、相続対策として有効といえます。 現金が建物に置き換われば、建物の評価は年とともに減価するため、相続税評価額が減額でき、相続税負担を減らす効果があるからです。 子がクリニックなどの事業用に使う建物を親が建てた場合、親に相続が発生すると、生計を同じくする親族であれば小規模宅地の特定事業用宅地の特例が適用できる可能性があります。 この特例は適用できる土地の面積に制限があるため、クリニックの宅地の評価が、どの土地よりも高額になる場合には検討するとよいでしょう。 生計を別にしている親子の場合には、賃貸料を子が親に支払えば、相続税対策の効果はアパート建設の場合と同様、貸家建付地評価となり、要件を満たせば貸付事業用宅地等での小規模宅地等評価減の適用が可能です。 ただし、賃料収入により親の所得税が増額し、金銭のかたちで親の財産が増加します。 無償の場合は使用貸借契約となり、これらの評価減の適用はありません。 賃貸借の場合は、生計が一か別か、有償か無償かによる違いをよく把握して、借りる際には賃借料をどうするか、判断したほうがよいでしょう。
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■ 個人医院の相続対策の基本
開業時にクリニックの資産について誰がどのように資金を工面して所有するのかを適正に判断することは、ご家族やご親族の資産(財産)承継を円滑に進める上で非常に重要なことなのです。
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