こんにちは。 税理士法人エイアール税理士事務所の原 知子です。 クリニックの院長より診療費を支払わない患者さんへ対処する仕組みを作りたいというご相談をいただきました。 今回は診療費を支払わない患者さんへの対処法についてポイントをお伝えします。
■ 診療費を支払わない患者さんへ対処するポイント
- 未払い治療費があることで直ちに診療拒否はできない(正当な事由による診療拒否とはならない)。
- 未収金回収はクリニック全体(組織対応)で金額、時効などの法律的な知識を共有し、各部署と連携して回収を促進させる。
- 「治療費の支払いのお知らせ」等、文書作成の仕組み作りと院内で統一した電話催促で未収金回収を促進させる。
■ 未収金のある患者さんに対して診療を拒否することは可能か?
直ちにはできないといわざるを得ません。 いわゆる「医師の応召義務」として、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」(医師法 第19条第1項)と規定しており、診療報酬の未払いがここにいう「正当な事由」にあたるかが問題になります。 この点、昭和24年の旧厚生省の通知では、「診療報酬が不払いであっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない」としています。 急を要する診療でなければ診療拒絶をしても問題になる可能性は低いが、治療すべき緊急性があれば救急外来でなくても診療の応召義務があるので注意が必要です。
■ 未収金の回収にあたり、クリニック内で気をつけること
1. 回収担当者の負担を軽減する
回収は院内の担当者に精神的な負担が相当かかります。 未収金の問題を担当者だけの問題とすることなく、クリニック全体の問題とし、担当者を固定しないようにするべきです。 院長は十分な理解をし、周囲の者も愚痴を聞いてあげるなどの配慮が必要です。 給与面で特別手当を支給しているところもあり、実状に合わせて配慮が必要です。
2. 未収金に関する法的知識を持つ
診療費の未収金の時効は3年であること。 未収金によっては弁護士と相談して「支払督促の申立」等の裁判上の手続きを行う必要があります。
3. 未収金はクリニック全体で視覚化・共有化を
各部署の未収金情報の視覚化・共有化を図り、クリニック全体を巻き込み、連携して回収促進させる。
■ 文書作成の仕組み作りと統一した電話催促で未収金回収を促進
「治療費のお支払いのご案内(1回目、2回目)」、「示談契約書」などがワードやエクセルなどのソフトを活用して簡単に作成~郵送する仕組みを作り、電話で未収金回収を促進させることをお勧めしております。 下記に電話催促を行う際のポイントをまとめました。
<電話のかけ方の注意点(マニュアル事例)>
- 顔が見えない分、対面のときより1トーン明るめに話す。 ただし、声は高くなりすぎないように。
- 語尾をのばさない。
- 略語・専門用語は用いない。
- 相手の話すスピードに合わせる。 (早めの人にはテンポよく(早口ではなく)、ゆっくりめな人にはゆっくりと。)
- 適度な相槌。 (安易に相槌を打ちすぎると、かえって話を真剣に聞いていないように聞こえるので、回数を加減する、変化をつける、など工夫をする。)
- 「でも」「ですが」「しかし」「お言葉を返すようですが」などを用いない。
- 患者さん本人を確認してから、名乗り、話を進める。
- 患者さんのお話(払えない理由など)をよく聞く。
- 相手の話し方・言葉遣いによっては、杓子定規な敬語より、少し親しい話し方のほうが、相手が話しやすい場合もある。 (「左様でございますか」 ⇒ 「そうですか」)
<電話で確認する事項(マニュアル事例)>
- 電話連絡は、手紙請求からはわからないお話の内容や患者さんの返事のニュアンスなどを確認できるので注意して聞く(録音も検討する)。
- 電話連絡におけるやりとりは、後日、重要な資料となるため、要点だけでなく、最大限、相手の言葉遣いどおりに記録する(録音も検討する)。
- 電話をかけた際に、回答を求められても、即答しない。
- 電話連絡では、A.滞納の理由、B.支払期日(○○頃ではなく、具体的に期限を特定する)、C.支払い原資の3点を確認する。
- 丁寧な言葉遣い・対応を心がけながらも、本気で未収金の回収に努めていることを相手に伝える(決めた支払期日の前後には必ず連絡し、忘れていないことを知らせる、など)。
- 連絡がない相手を放置しない(こまめに連絡をとる)。
上記のポイントや事例をご参考に自院に合った診療費を支払わない患者さんへ対処する仕組みを作っていただきたいと思います。
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