1. 第三者との承継
第三者との承継は事業の売却という意味合いが強くなります。 この場合の譲渡金額は承継時の「資産価額」から「負債価額」を除いた額です。
さらに資産の中には「営業権」というものも考慮します。 「営業権」とは企業の長年にわたる伝統や社会的信用、ブランド力、技術、営業ノウハウなど、無形の財産的価値を有する事実関係のことを指し、一般的には「のれん代」とも呼ばれています。
診療所の「営業権」は直近の事業年度における平均診療報酬額の2,3ヶ月分を価額として評価する場合が多いですが、実は決まった評価基準はありません。 なぜならば診療所の経営は、院長個人の力量によるところが極めて大きいからです。
つまり、その地域の患者さんは、「前の院長であるからこそ、その診療所に通っていた」、「新しい院長に変わってしまっては、そうした患者さんは他の診療所に流れてしまう可能性がある」、銀行はそう判断してA先生の事業計画の中の「営業権」を担保として認めなかったため、開業資金が不足してしまったのです。 このような事態を防ぐためには買取監査を実施する、などリスクヘッジが必要です。
2. 親族間での承継
親族間での承継の場合は承継時の「資産価額」から「負債価額」を差し引いた金額が、承継の対象である診療所の価値となります。 この場合は同時に借金も引き継ぐ可能性があることに注意しなくてはなりません。
また、土地や建物も譲り受けるのか、借りるのか、によって状況が変わります。 もし借りるということであれば、将来先代に相続が発生するときの対策を考慮する必要がありますし、譲り受けるのであれば贈与税の対策について考えなくてはなりません。 また相続人が複数いる場合にはトラブルを避けるために遺言書を作成しておく等の遺産分割対策も必要になってきます。
診療所の財産、譲受人、譲渡人の状況により一概に言えませんが、贈与税対策としての生前贈与や、相続税対策として小規模宅地等の評価減の特例や、相続時精算課税制度を利用することによって、スムーズな承継が可能となります。
3. 承継の手続き(遡及申請)
個人立の診療所の場合、承継の手続きとしては、これまで診療していた医師がいったん廃止届を出して、新たに承継した医師が開設届を出すという流れになります。 同時に届け出た場合には一ヶ月は保険指定を受けられず、保険診療ができなくなります。
このような空白期間を作らないようにするためには、地方厚生局に「遡及申請」を提出する必要があります。 地方厚生局のホームページには指定期日の遡及の取扱いについて、以下の記載があります。
(以下関東信越厚生局のホームページから引用)
http://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/
shinsei/shido_kansa/hoken_shitei
/shiteibi_sokyu.html
次の場合は、例外的に、指定期日を遡及して指定を受けることができます。
- 保険医療機関等の開設者が変更になった場合で、前の開設者の変更と同時に引き続いて開設され、患者が引き続き診療を受けている場合。
- 保険医療機関等の開設者が「個人」から「法人組織」に、又は「法人組織」から「個人」に変更になった場合で、患者が引き続き診療を受けている場合。
- 保険医療機関が「病院」から「診療所」に、又は「診療所」から「病院」に組織変更になった場合で、患者が引き続き診療を受けている場合。
- 保険医療機関等が至近の距離に移転し同日付で新旧医療機関等を開設、廃止した場合で、患者が引き続き診療を受けている場合。
(注1) 開設者変更の場合は、開設者死亡、病気等のため血族その他の者が引き続いて開設者となる場合、経営譲渡又は合併により、引き続いて開設者となる場合などを含みます。
(注2) 至近の距離の移転として認める場合は、当該保険医療機関等の移転先がこれまで受診していた患者の徒歩による日常生活圏域の範囲内にあるような場合で、いわゆる患者が引き続き診療を受けることが通常想定されるような場合とし、移転先が2km以内の場合が原則となります。
承継の場合は1に該当いたしますが、詳細につきましては事前にご確認ください。 |