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クリニック経営を数値で読み解く

借入金の上限についてく

m3コンシェルジュ 森島 祥哉

リスクマネジメント・ラボラトリー

森島 祥哉

1. 開業時の借入金は売上高の1.5倍まで

クリニックを健全に経営するためには、借入金の金額を意識的にコントロールすることが必要です。 これは開業時に限ったことではありません。 例えば、あった方が良いが無くても何とかなるような医療器械を開業当初から買い揃えたり、使用頻度があまり高くないと予想されるような高額機器を購入したりといったことの積み重ねにより借入金額がどんどん膨らんでしまうというのは、自分で自分の首を絞めることにつながります。

そこで適正な借入金額の上限を考えた場合、通常「売上高の1.5倍以内」が目安だと思われます。 新規開業の場合ですと、2~3年経過して経営が安定したときの売上高の1.5倍以内を目安にします。 以下のとおり、理由はとてもシンプルです。

売上高と同額の借入れをしたと仮定します。 仮に、借入金の金利を2%、売上高に対する医業利益を5%とします。 医業利益だけを見ると黒字ですし、金利も高くないため、一見悪くない経営に思えます。 しかし、ここで事業全体の収支を表す経常利益を考えてみます。 支払利息は売上高(この場合、=借入金)の2%になります。

もしも、それ以外の医業外収支が無いとすれば、経常利益は〔医業利益(5%) - 支払利息(2%)〕 = 3%となります。 先ほどの5%という数字と比べると、借入金とその金利が大きな影響を及ぼしているのがわかります。

今度は、売上高の1.5倍の借入れをした仮定とします。 すると、経常利益は〔医業利益(5%) - 支払利息(2% × 1.5)〕 = 2%とさらに下がり、ほとんど経常利益が出ない経営となってしまいます。

実際には、金利以外に医業外収支がまったく無いということはありません。 しかし、2%という低い金利であったとしても、「売上高の1.5倍」が借入れできる限度額といえます。

2. 貸借対照表(B/S)の見方

1.のような利益の観点以外に、財務の観点も大切です。 財務状況を表す貸借対照表(Balance sheet ; B/S)を見てみます。 B/Sは、年度末などのある時点において、資産の状況がどうなっているか、またその資産を調達・購入するための資金がどこから出ているかを表したものです。

平均的なクリニックの貸借対照表モデル 【図1】平均的な診療所の貸借対照表モデル


【B/Sの見るべきポイント】
  1. 純資産(自己資本+繰越利益剰余金)が総資産に占める割合
    いわゆる「自己資本比率」です。 クリニックの自己資本比率は10%以上が望ましく、5%が下限といわれています。 当初用意した自己資本を赤字が上回り、純資産がマイナスになった状態を「債務超過」といいます。 新規開業初年度や2年目は、院長へ給与を支払うと赤字になってしまうことが多いため債務超過に陥りやすく、経営的に厳しい時期であるといえます。
  2. 負債の額とそれが総資産に占める割合
    当然、負債は少ない方が良いです。 上述のように純資産を理想的な10%以上に確保しようと考えると、総資産に占める負債の割合は70~80%が上限となります。
  3. 流動資産と流動負債との比較
    流動資産が流動負債より大きいことが望ましいです。 流動資産とは、いざというときに数ヶ月以内に動かすことができる現金や売掛金(レセプトで請求中の金額)を指します。 一方、流動負債とは、1年以内に返済が必要な買掛金(仕入れの未払い分)や短期借入金を指します。 この関係が逆転し、流動負債が流動資産を上回ってしまうと、年度末や賞与支払時期に資金繰りに追われてしまい、前向きな経営に集中できなくなります。
m3コンシェルジュ 森島 祥哉

いかがでしたでしょうか?

先生方のゴールは、開業後の順調な医院経営になるかと思いますが、その前にある開業までにもすべきことは山のようにありますね。

一つ一つ決断するのは先生方ご自身ですが、それを先生方ご自身で正確に判断するための物差しを、中立な立場かつ必要なタイミングでアドバイスしてくれる専門家選びも重要事項といえるのではないでしょうか。

リスクマネジメント・ラボラトリーでは今回の開業塾のメイン講師である河村会計事務所の他、各種医院経営のスペシャリストとの連携を密にして、クリニック経営を積極的にサポートしています。

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