■ 分院に関する一般的な回答は?
コンサルタントや税理士、会計士に相談すると、次のような助言があると思います。 分院を開設する目的を明確にすることが大切です。 次に、分院の事業計画を作り医療法人として事業が成り立つかどうかを数字で確認することをお勧めいたします。 敷金、内装工事、医療機器などの設備投資やリース、人員体制などをできるだけ具体的に出し、資金が回るかどうかを確認し資金が不足するようであれば金融機関からの借り入れも検討が必要です。 この回答で間違いはないと思いますが、私どものほうでは下記のような提案をしました。
■ この相談に対する私どもの回答は?
今回の相談では具体的な事業計画書がありましたので、数値的な分析と数値には現れない分析を実施しました。 この時の回答のポイントを下記にまとめました。 [事業計画書など数値から掴める分析] 1) 分院開設から2年間 赤字累計 ▲4,240万円
1年目 ▲3,640万円 2年目 ▲600万円 3年目 500万円 4年目 1,500万円 5年目 2,200万円
2) 損益分岐点 人数 開業から2年程度で損益分岐点に達する計画であるが、最悪を想定して運転資金を見積もることがポイントです。 3) シミュレーションの数値は厳しめに! 事業計画の内容を見ると駅前に立地するビルということで家賃は割高でした。 また、人件費については定期昇給や法定福利費の金額が少ないため再度、検討するようお伝えしました。 事業計画書において、くれぐれも気をつけていただきたいことは、売上計画、設備投資額、経費を甘めに考えないことです。 事業が成り立たないのであれば、撤退することをお勧めいたします。 厳しめの数字でチェックをしていただくようお伝えしました。 [数値では掴めない分析] 1) 事務長等の人員管理をコンサルタント会社に一任できるということになっているので、人の採用や退職など管理面での軽減メリットもありますが、すべての人員管理をコンサルタント会社に任せることはできません。 とくに分院長を含めて医師のマネジメントは医師である理事長でしかできません。 本院の評判をも下げられるリスクもあるので分院の院長管理はかなりの負荷がかかります。 弊社のクライアント様にも分院クリニックを転売・閉院せざるを得ない状況になっている事例も増えています。 2) 経営状況が外部のコンサルタント会社にガラス張りになる等デメリット面もあるので十分、検討していただくことを提案しました。 3) 総合的な分析(経営資源の視点)
- 人(ヒト)
医師の雇用面と管理負担増(医師にやる気になってもらうのは難しい)。
- 物(モノ)
賃貸物件の家賃が割高(現在の倍はかかる)。
- 金(カネ)
内部留保で賄える。 本院のブランド力で黒字化はできる。
- 情報
外部のコンサルタント会社に経営状況を握られる。
※上記の経営資源の視点に加え、「医師として経営者としてどのようにありたいか?」を再度、ご検討いただくことをご提案しました。 上記の報告をした結果、理事長は「医療法人には十分な内部留保があり、分院についても私自身が診療にも関われば継続的な利益は見込めましたが、分院長を含めた医師のマネジメントの負荷が倍増することで本院の診療がおろそかになり、本院でこれまで築いた患者さんとの信用をなくすリスクを受け入れることはできない。 分院展開はせず今のクリニックをもっと患者さんに喜んでもらえることができるクリニックにしたい」ということで、分院展開はしないという決断に至りました。
■ 分院展開しなかった結果
10年後の経営会議で理事長は、
『10年前、分院展開をしたクリニックは、例外なく分院長のマネジメントに苦戦して、分院は思うような利益も上がっていない情報を聞いています。 医師のマネジメントは考えていた以上に難しい。 10年前、規模を追求するより医療の質を上げることで患者さんに喜んでもらえることをやっていく決断をしたことは結果的に良かったと思う。』
と話されました。 規模拡大は経営者としての一つの成功の証と思いますが、広げた屏風は倒れることもあるので、大きな決断の前には客観的なデーを分析するとともに理念やミッションを実現できる規模についてご検討いただくことをお勧めいたします。
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