前回までは(第1回、第2回)法人化を前提としたメリット・デメリットについて解説しました。 今回は前回までとは少し視点を変えたお話をしたいと思います。 現状すべての医療機関が法人化をされているわけではありません。 なぜメリットの多い医療法人にされないのでしょうか。 一つは税の負担が大きくとも、「財産権がなくなる」、「個人と法人の財布が分かれる」、「社会保険料の増加」などのデメリットを考慮し、あえてされないケース。 そして、もう一つが医療法人化を目標に開業したにもかかわらず、思うように収入が上がらずに法人化どころではないというケースです。 開業して数年間は院長がアルバイトをしていたという話はよく聞きます。
■ 開業しても3割は思うような収入が上がらない!?
「一昔前に開業した医院の収入と比べると」という前提をつけ加えると3割は決して高い数字ではないように思います。 最近は、開業すれば自然と患者が来るということはなく、意識して患者を集めなければならないという考えが一般的になっています。 参考までに一般内科で法人化をする場合の収入と利益の目安を表にまとめました。 診療科目等による違いはありますが、簡単な目安としてご覧いただければと思います。 以上の表からも、思うように収入が上がらない例としては、2年目からの数字が伸びていないということになります。
■ 集患対策の8割は、開業前で決まる!
患者数は、「立地で決まる!」と言っても過言でありません。 しかし恵まれた立地が見つかったとしても、競合医院を回避することは困難です。 競合の少ない場所で開業ができたとしても、後に開業される医院が現れる可能性は充分にあります。 当然ながら、激戦区での開業では、集患対策が必要不可欠になります。 開業の資金計画を見ていますと、集患に必要である広告宣伝費が100万円ほどの計画を見かけることがあります。 先生方のスタイルに合わせ、開業資金の配分にできるだけ多くの集患対策費(広告費)を捻出するために、優先順位をつけて購入金額の交渉・中古機器の導入・医院の設計の見直しを勧めます。 広告宣伝費に300~500万円は投資できると理想的ではないでしょうか。 開業前に上手く宣伝ができず、患者数が軌道に乗らない医院は2~3年収入が思うように上がらないことが多いです。 目に見えて資金が減り、精神的な負担も大きくなります。 もっと集患対策に手を打っておけばと嘆かれ相談を受けることもあります。
■ 必要不可欠な集患・増患対策とは?
1. 場所選び 充分すぎるほどの診療圏調査を実施 一般的には、希望のエリア、開業スタイル(戸建て・モール・ビルテナント)などが決まると診療圏調査を実施します。 診療圏調査は、各メーカーや門前予定の調剤薬局などに依頼できます。 診療圏調査のソフトにも、新しいデータもあれば古いデータもあり、また競合医院の強度(どれくらいシャア率があるのか)などさまざまですので、複数の違う診療圏調査を依頼します。 何より、データも重要ですが、そのエリアを先生ご自身で探索し、地域の特徴を感じることが大きなポイントです。 ご自身の診療科目が求められるエリアか、年齢帯ごとの人口数は将来どのように推移するか想像力を働かせることです。 2. 内覧会の実施と充実 歯科業界では、当たり前になっている内覧会(開業前の院内を近隣の住民へご披露するイベント)も最近は医科業界でも増えてきました。 来場者からさまざまな声を聞けるチャンスでもあり、認知度アップのみならず開業前の改善点にも繋がります。 最近は戸建ての開業であれば上棟式の際に餅まきを開催し、内覧会と含め2回イベントを実施するケースもあります。 専門業者に依頼もできますが、先生ご自身・ご家族やスタッフも積極的に企画、集客に参加されることを特にお勧めします。 地域住民の皆さまと直にコミュニケーションを取ることで、新規の医院に親近感を覚えていただけるようです。 3. ホームページ(HP)の制作 HPは新規患者のための動機作りとしては、重要な役割を担います。 スマホ対応は当然ながら、小児科・耳鼻科はネット予約・待ち時間の表示と充実されています。 当然これまでの医院と比較されますので競合医院と同じか、あるいはそれ以上の差別化は必須です。 検索順位を上げる対策や、開業前のスタッフ募集・内覧会の告知にも役立てるために開業前に稼働させておくことが重要です。 名刺やロゴマーク・看板の制作も必要になるので、開業前の充分なスケジュールを立て6カ月前から準備されることをお勧めします。 親子間での承継の場合もこの機会に新規制作・リニューアルをお勧めします。 HP制作は、動機づけが巧みな作り込みをできる専門家に依頼することです。 価格の違いではなく、文章や画像、HPの構成に論拠が言えるかどうかを見極めてください。 4. 増患のための接遇向上! 集患でもっとも効果が大きいのが「口コミ」です。 来院された患者の満足度をいかに高めるかが口コミ作りの要素にもなります。 おもてなし日本では、どこへ行っても当たり前のように充分な接遇を受けています。 また医療機関でも近年は接遇に力を入れていますので、少しでも待遇が悪ければ比較されマイナスな風評を受けることがあります。 先生も含めスタッフの接遇教育には力を入れることをお勧めしています。 開業時のみならず定期的な研修を実施し、医院の良き風土を作っていきます。
■ すべては「事業計画」から始まる
このように集患対策を行っていくうえでも開業資金の配分、開業後の広告宣伝費やスタッフの研修費も必ず事業計画があってこそ判断できるものですが、皆さまは事業計画についてどのようなイメージをお持ちでしょうか? 「税理士等の専門家が作成してくれる資料で、融資を受ける際に必要なもの」という認識の方が多いのではないでしょうか? 事業計画書は、「税理士等の専門家の協力を得て院長が作成する資料」で、融資を受ける際だけではなく「経営判断を下す際にも必要なもの」と考えます。 開業後は否が応でも医院の経営と向き合わなければなりません。 開業前は何度でも見直せますので、経営的な数字に慣れる意味でも、綿密な事業計画を作成することをお勧めいたします。 また事業計画はあくまで開業前に必要なものという考え方が多いですが、開業後にこそ必要な資料だと考えています。 例えば計画ほど収入が上がらなかった場合、綿密な事業計画を立てていると、その原因を探ることができます。 収入が上がらない要因は
- 単価が少ない
⇒ 検査の件数はどうか?
- 患者数が少ない
⇒ 予定通りの診療圏から来院されているのか? ⇒ 在宅の患者数が少ないのか? 外来か? 等
実態と計画を比較することで必然的にどのような対策が必要かの判断がつきやすくなります。 また不測の事態にも慌てず準備して対応できます。
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