■ スタッフの雇用条件トラブル
多くの開業された先生の悩みのひとつに、スタッフ雇用条件トラブルがあります。 一人のトラブルが他のスタッフへ影響を及ぼすこともあります。
スタッフの雇用条件・トラブル防止のために院長先生が確認しておいていただきたい点について、2019年、2020年に改正になった点を中心にお話しさせていただきます。
■ 労働条件通知書の作成・交付
スタッフを採用する際には労働条件通知書(雇用契約書)を作成、交付しなければなりません。 更に、特に重要な次の6項目については、労働者に対して書面を交付しなければなりません。
- 契約はいつまでか(労働契約の期間に関すること)
- 期間の定めがある契約の更新についてのきまり(更新があるかどうか、更新する場合の判断のしかたなど)
- 労働者がどこでどんな仕事をするのか(仕事をする場所、仕事の内容)
- 仕事の時間や休みはどうなっているのか(仕事の始めと終わりの時刻、残業の有無、休憩時間、休日・休暇、交替制勤務のローテーション等)
- 賃金はどのように支払われるのか(賃金の決定・計算・支払いの方法、締め切りと支払いの時期)
- 労働者が辞めるときのきまり(退職に関すること(解雇の事由を含む))
これら以外の労働契約の内容についても、使用者と労働者はできる限り書面で確認する必要があると定められております。
労働基準法の改正により、2019年4月から労働条件明示の方法について、労働者が希望した場合にはファクシミリの送信、電子メール等の送信(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより、書面を作成することができるものに限る)により明示することが可能となりました。
■ 36協定の締結・届出(時間外・休日労働がある場合)
労働基準法では、労働時間は原則として、1日8時間・1週40時間以内とされています。 これを「法定労働時間」といいます。
1日8時間以上・1週40時間の「法定労働時間」以上働いてもらう場合、つまり残業してもらう場合には、36協定が必要になります。
また、休日は原則として、毎週少なくとも1回または、4週につき4回以上与えることとされています(法定休日)。
法定労働時間を超える時間外労働(残業)や法定休日における労働をさせる場合には、
- 労働基準法第36条に基づく労使協定(36(サブロク)協定)の締結
- 事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長への届出
が必要です。
労働基準法の改正により、2019年4月1日から(中小企業においては、2020年4月1日から)、時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも、年720時間、単月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間(休日労働を含む)を限度に設定する必要があります。
■ 最低賃金額を上回る賃金の支払い
使用者は労働者に対し、各都道府県で定められた最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。
各都道府県の最低賃金:
厚生労働省「最低賃金が、ことしも変わります。」 https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/pdf/saiteichingin.pdf
■ 割増賃金の支払い
原則、1日8時間または週40時間を超えて労働した場合は、通常賃金の25%以上の割増賃金を支払うことが必要です。
例えば、1日8時間の所定労働時間を超えて1時間の残業を行い、合計9時間の労働をした場合、時給1,000円であれば、8,000円 + 1,000円 × 1.25 = 9,250円がその日の支給額となります。
法定休日(週1日または4週につき4日の休日)に労働した場合は、35%以上の割増率になります。
■ 労働者名簿及び賃金台帳の正確な記載
事業場ごとに作成する必要があります。
■ 就業規則の作成・届出(労働者10人以上の事業場)
就業規則について、使用者が気をつけるべき事項には以下のようなものあります。
- 常時10人以上の労働者を使用する事業場は必ず就業規則を作成し、労働基準監督署に届出なければなりません。
- 就業規則に必ず記載しなければならない事項は、次のとおりです。
- 始業、終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務の場合の就業時転換(交替制)に関する事項
- 賃金に関する事項
- 退職に関する事項
- 就業規則の作成、変更をする際は、必ず労働者代表からの意見を聴かなければなりません。
- 就業規則の内容は法令や労働協約に反してはなりません。
- 就業規則は、作業場の見やすい場所に掲示するか備え付ける、労働者に配布するなどの方法により周知しなければなりません。
労働基準法では、常時使用する労働者が10人未満の場合には、就業規則の作成や届出の義務はありません。
しかし、作成義務がなくても就業規則を作成し、労働者に周知することで、権利義務関係を明確にでき、労働条件を画一的に処理できるほか、労働者の定着促進やモチベーションの向上に期待できます。
助成金の申請に当たって求められる場合もありますので、ぜひ作成をお勧めします。
■ 定期健康診断の実施
その結果についての医師等からの意見聴取 健康診断は、労働者の雇い入れの際及び1年以内ごとに1回定期的に実施しなければなりません。
健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者に対する、就業上の措置(配慮等)について、医師または歯科医師からの意見を聴かなければなりません。
■ 正社員と非正社員との間の不合理な待遇差の解消
詳しくは、厚生労働省「同一労働同一賃金取組手順書」をご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/pdf/000467476.pdf
■ 年次有給休暇
労働基準法では、一定の要件を満たした労働者に対して、年次有給休暇を与えることを使用者に求めています。
使用者は、労働者が雇い入れの日から6か月間継続勤務し、その6か月間の全労働日の8割以上を出勤した場合には、 10日の年次有給休暇を与えなければなりません。
ただし、パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者については、年次有給休暇の日数は所定労働日数に応じて比例付与されます。 比例付与の対象となるのは、所定労働時間が週30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下または、年間の所定労働日数が216日以下の労働者です。
労働基準法の改正により2019年4月から、使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対し、毎年5日、時季を指定して有給休暇を与える必要があります。
出典: 厚生労働省「事業主の方から多く寄せられる労務管理に関するご相談と回答について」
https://www.mhlw.go.jp/content/000517016.pdf
■ まとめ
スタッフ雇用条件トラブル原因の多くは、ルールが院長先生とスタッフで共有できていないことが多い様です。 ちょっとした行き違いから不信、不安になり、信頼関係が崩れてしまうものです。
特に有資格の医療スタッフは、多くのところで募集しており、隣家の芝生は良く見えてしまい、転職を考えてしまいます。 面倒くさいと思わずに雇用条件だけではなく、院内マナーも含めた社内のルールの明文化をお勧めします。 |