こんにちは。 税理士法人エイアール税理士事務所の原 知子です。 最近、後継者のいないクリニックを承継希望する医師の相談も増えてきており、クリニックの承継のお手伝いをする機会が増えています。 今回はデータから見るクリニック(開業医)の承継ニーズと私どもの実務経験から、クリニックの事業承継に関するポイントをお伝えしたいと思います。
■ 承継のご相談が多い理由
承継のご相談の多い理由は、「開業医の高齢化かつ後継者未定の開業医が非常に多い」ということがわかります。
データ1 開業医の高齢化 (母集団=90,443人)
開業医の年齢階級別構成割合 70歳以上 25.3%(22,882人) 60歳~69歳 16.5%(14,923人) 50歳~59歳 24.0%(21,706人) 49歳以下 34.2%(30,932人)
(出典: 医療施設動態調査 「厚生労働省年齢階級、施設の種別にみた医療施設に従事する医師数及び施設の種別医師の平均年齢」)
- 60歳以上の占める割合が40%超となっている
- 開業医の平均年齢が58歳(地域によっては60歳超)で高齢化してきており、承継を考える時期にきている
データ2 院長が勇退を希望する年齢 (母集団=106人)
80歳以上 1.9%(2人) 75~79歳 6.6%(7人) 70~74歳 30.2%(32人) 65~69歳 44.3%(47人) 60~64歳 17.0%(18人)
(出典: 弊社クライアントアンケートデータ)
- 65歳~74歳の間に勇退を考えている開業医の先生方が74.5%
- 多くの先生方は65歳~74歳の間で勇退を検討されている
このデータから読み取ると、現在の平均年齢58歳、勇退希望年齢65歳~74歳ということになり、今後5年~10年の間に多くの先生方が勇退されるということになります。
データ3 後継者の有無 (母集団=106人)
後継者が確定している 8.5%(9人) 後継者未定 91.5%(97人)
(出典: 弊社クライアントアンケートデータ) なんと9割以上のクリニックの後継者が決まっていない状態です。
データ4 希望する承継者 (母集団=97人)
第1位: 親族・知人に承継 34.0%(33人) 第2位: 子供に承継 24.7%(24人) 第3位: 後継者なし廃業 23.7%(23人) 第4位: 第三者へ承継 15.5%(15人) 第5位: その他 2.1%(2人)
(出典: 弊社クライアントアンケートデータ)
- 必ずしも自分の子供に承継を希望しているのではない
- 後継者なし廃業という選択肢を考えている先生方も25%近くいる
後継者なし廃業という選択をお考えの先生方については、第三者で承継してもらえる医師が現れると第三者承継をお考えになるのではないか。 私も廃業をご検討されていたクリニックの第三者承継を年3~5件、サポートしております。
■ 承継開業を希望する医師が承継前に確認すべき5つのポイント
ポイント1 承継条件を確認する
譲渡価格、コンサルタントへの手数料、職員の承継など承継にまつわる諸条件を明確にしておく。
ポイント2 承継する資産・負債の選定を行う
貸借対照表に掲載されている資産について勘定科目の明細書、減価償却資産の明細書、保証金の金額を示す賃貸借契約書など根拠書類を提示してもらうこと。 負債についてまずは資産と同じく勘定科目の明細書を提示してもらい簿外負債となるリース契約、役員、職員の退職金規程なども提示してもらい承継する負債を選定していく。 また、医療法人を承継する場合は定款、役員社員名簿、役員退職金規程、決算届など医療法人に関わる書類に必ず目を通していただきたい。 この確認及び資産負債の選定作業は信頼のおける税理士やコンサルタントに協力してもらいながら進めていただくことをお勧めいたします。 くれぐれも任せきりにしないで理解するレベルになるまで報告を受けてください。 承継後、知らなかったでは済まされません。
ポイント3 承継する資産の現物確認と動作確認を行う
承継する資産の現物確認と動作確認を専門業者に実施してもらう。 例えばレントゲンの動作確認を専門業者へ依頼して、問題がないかどうか書類で提出してもらう。 私どものサポート事例で、エコーやレントゲンの動作に問題があったことがありましたので、承継前に必ずチェックしていただくことをお勧めいたします。
ポイント4 施設基準などの承継
医療法人立のクリニックを承継するのにあたり患者(カルテ)、診療報酬の施設基準、医療機関の名称や、これまで提出した書類の確認と承継後の「診療報酬の施設基準」の届出など、どのような書類をいつまでに提出するかご検討ください。 また、名称の変更をするのであれば定款変更になるので、管轄の都道府県庁へ必ず事前相談をしてください。 個人立のクリニックでは開設者の変更が伴うので管轄の保健所、厚生局へ必ず事前相談しておくことをお勧めいたします。
ポイント5 「言った言わない」をなくすために書面を残す
話し合いをした内容は聞き洩らしなどないように記録しておく。 承継の諸条件がまとまれば、契約書、覚書を締結することをお勧めします。 以上です。 昨今、開業セミナーにお越しいただく先生の開業スタイルに必ず、「第三者承継」の選択があります。 譲りたい側からすると、長年連れ添ったスタッフや患者さんに対して、1日でも長く診療するスタンスを貫く先生が多いので、高齢化が進んでいるのかも知れません。 しかし、譲り受けたい側としては、盛業中のクリニックで、診療方針が一致している医院が理想だと思います。 このマッチングが非常に難しいのですが、譲る側も譲り受ける側も一度、「第三者承継」を考えてみてはいかがでしょうか。
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