2018年の台風21号のニュースはまだ記憶に残っている方も多いと思います。 凄まじい暴風のため、窓ガラスの破損や車の横転、タンカーが橋げたに衝突、建設現場の足場が倒壊、マンションの駐輪場の屋根が基礎ごと飛ばされるなど、とても恐ろしい光景でした。 このような自然災害が起きた場合、多くの被害を受けるのが、一番大きな資産価値を持つ自宅の建物です。 暮らしの拠点でもあり、大きな資産でもあるので、損害が発生した場合の損失は甚大です。 火災保険の補償範囲は広く、次にあげるように、大きくわけると、「災害」と「災害以外の盗難・事故など」に分かれます。 (下記「表1」をご参照ください。)
「表1」
<火災保険の補償範囲>
災害
1. 火災・落雷・破裂・爆発 2. 風災・雪災・雹(ひょう)災 3. 水災
災害以外の盗難・事故など
4. 建物外部からの物体の落下・飛来・衝突など 5. 漏水等による水濡れ 6. 騒擾(そうじょう)・集団行動等に伴う暴力行為 7. 盗難による盗取・損傷・汚損 8. 不測かつ突発的な事故(破損・汚損など)
<地震保険の補償範囲>
9. 地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災・損壊・埋没・流失
この中で、自然災害の場合、特に気を付けていただきたいのは、 2. 風災・雪災・雹(ひょう)災 3. 水災 の2つの補償です。 この2つの補償だけで保険料の50%を占めます。 保険金支払いも高額で、支払い頻度も高い補償といえます。 したがって、自然災害対策は、まずこの補償をきちんと考えることが大切です。 初めに注意していただきたいのは、「2. 風災・雪災・雹(ひょう)災」では、免責の設定方法が保険会社によって違うという点です。 事故時の自己負担として『免責』がありますが、風災・雪災・雹災の場合、「20万円フランチャイズ方式」と「免責方式」の2種類に大別されます。 これを勘違いして契約をされている方も多くいます。 簡単に違いをご説明すると、次のようになります。 ・ 「20万円フランチャイズ方式」 損害額が20万円以上にならないと補償されない (事例) 5万円の損害が発生した場合 ⇒ 支払い保険金0円 19万円の損害が発生した場合 ⇒ 支払い保険金0円 21万円の損害が発生した場合 ⇒ 支払い保険金21万円 ・ 「免責方式」 自分で免責金額を決められ、損害額から免責金額が引かれる (免責金額の例) 0円、3万円、5万円、10万円 (事例) 20万円の損害が発生した場合(免責3万円の場合) ⇒ 20万円 - (免責)3万円 = 支払い保険金17万円 また、風災・雪災・雹(ひょう)災の事故については、次のような明確な規定もありますので、すべての損害が補償の対象になるかどうかは、事故の状況によって変わります。
風災とは: 台風、旋風、竜巻、暴風等をいい、洪水(こうずい)、高潮等を除きます。 雪災とは: 豪雪の場合におけるその雪の重み、落下等による事故または雪崩(なだれ)をいい、融雪水の漏入もしくは凍結、融雪洪水(こうずい)または除雪作業による事故を除きます。 雪災の事故による損害が1回の積雪期において複数生じた場合であって、おのおの別の事故によって生じたことが普通保険約款の規定に基づく確認を行ってもなお明らかでない時は、これらの損害は、1回の事故により生じたものと推定します。 さらに、 風、雨、雪、雹(ひょう)、砂塵(さじん)その他これらに類するものの吹き込みによって生じた損害については、建物または屋外設備・装置の外側の部分(建物については、外壁、屋根、開口部等をいいます。)が風災、雹災または雪災の事故によって破損し、その破損部分から建物または屋外設備・装置の内部に吹き込むことによって生じた損害にかぎります。
では、ここでクイズを出したいと思います。 皆さんの加入されている火災保険は、次のケースの事故では補償されるのでしょうか? 次の5つの問いを読んで、少し考えてみてください。 (1) 枝木が飛んできて自宅の窓ガラスが割れた (2) 自宅の屋根瓦が飛んで、隣の家の車に当たってへこんだ (3) 2階の雨どいがあふれ、自宅の中に水が漏れてきた (4) 河川が決壊し、自宅の1階が水に浸かった (5) 裏山が土砂崩れを起こし自宅が埋まった いかがでしょうか? 答えとしては、「どのケースも支払い対象です!」と、いいたいところですが、実は違います。 一つずつ見ていきたいと思います。 (1) 枝木が飛んできて自宅の窓ガラスが割れた この場合は、「風災」に該当しますのでお支払いできます。 先ほどの免責の設定「20万円フランチャイズ方式」と「免責方式」の違いで支払金額が変わります。 (2) 自宅の屋根瓦が飛んで、隣の家の車に当たってへこんだ このケースでは、自宅の屋根瓦は風災の対象になります。 では、隣の車の損害は賠償する必要があるのでしょうか? この場合は、相手の損害を賠償する必要はありません。 自然災害が直接の原因となって被害を受けた場合に関しては、自然に責任を追及することができないためです。 立場を逆にした場合、もし瓦が飛んできてご自身の車が損害を受けた場合でも、相手に賠償請求をすることはできません。 この場合は、ご自身の自動車保険の車両保険で補償することになります。 (3) 2階の雨どいがあふれ、自宅の中に水が漏れてきた このケースでは、雨どいが破損していた場合は、雨どいの損害は補償されます。 ただし、吹き込み雨や漏入による損害は補償されないため、単に水が漏れてきただけの場合は、事故と見なされません。 しかし、この水漏れの結果、家財や畳などに損害が発生した場合は、前述の表1の「8. 不測かつ突発的な事故(破損・汚損など)」による損害が認められるケースもあります。 (4) 河川が決壊し、自宅の1階が水に浸かった (5) 裏山が土砂崩れを起こし自宅が埋まった (4)(5)については、自然災害の水災に該当します。 水災は風災と違い、水災認定基準があります。 水災に関しては、次回のメールマガジンで詳しく解説します。 これらのように、自然災害の風災だけを取り上げても、いろいろと規定があり、とても難しく感じられた方もおられると思います。 実際、損害保険の難しいところは、事故が起きても必ず補償されるものではなく、対象外となるケースもあるということだと思います。 クリニックにおかれましては、住宅専用の火災保険とは異なり、店舗向けや企業向けの火災保険に加入することになります。 住宅の場合は、建物と家財を検討するだけで済みますが、クリニックの場合は、設備、什器、商品、休業損害、賃貸物件であれば借家人賠償責任なども検討する必要があり、保険の対象が大きく広がると同時に保険金額も多額になります。 リース品との区別を付ける必要もでてきます。 画一的でパターン化された火災保険の内容では、補償の見落としや、掛けすぎもわかりませんので、知識と経験に裏打ちされた専門的アドバイスが必要となります。 保険をアドバイスする側としては、契約者の考える『損害への備え』について金銭的な価値観を共有し、その価値観を、補償と特約と免責をうまく組み合わせて保険金という形にして、保険料とのバランスを取る必要があります。 ご希望の補償内容と、保険料のバランスが取れない場合は、補償を限定したり、免責額を大きくしたりする提案はしますが、必要な補償を削ってまで保険料を下げると、損害が発生した場合に十分な補償を受けることができないことになりかねません。 ただ、損害保険の保険料は、同じ補償内容でも保険会社によって異なるため、複数社の提案内容を吟味するだけでも保険料が下げられるケースもあります。 一度、ドクターの保険に知識を持った専門家や、災害アドバイスに強いファイナンシャル・プランナーに、火災保険の内容をチェックしてもらうことをお勧めします。
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