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【本音の開業体験談 それぞれの開業スタイル】 第3回
親子間承継開業編
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こんにちは。 川庄公認会計士事務所の坂本です。 子の立場としては生まれ育った環境なので、最初からそのつもりというお考えの方もいらっしゃるでしょう。 親としてもそのつもりで今まで頑張ってきたとお考えの方も多いかと思います。 以前からよく見かける形態ですが、やはりそう簡単に進まないケースも多いようです。 引き渡す側(親)、引き受ける側(子)両面から興味深い体験談をお聞きしてきましたので、今回は「親子間承継」についてお伝えいたします。
■ 親子間承継 A: 【親】の立場として
平成30年4月に承継 医療法人 無床の内科クリニック
Q ご子息へ承継されようと思ったきっかけは?
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息子が「医学部に進学する」と言い出した時にはイメージしていました。 無事に医師になってくれた時には、本当にうれしかったです。 しかし当時は、教育資金の捻出に苦労したことはよく覚えていますがそれを励みにできたことも事実です。 具体的には、息子が医師として経験を積んでいく中で「将来は継ぐ気はあるか」とそれとなく聞きました。 息子もそのつもりでいるようだったので、その時から承継に向けて準備をはじめたように記憶しています。
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Q どのような準備からはじめられたのですか?
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最初は、顧問である会計事務所の担当者に相談しました。 その時点では個人経営でしたので、医療法人へ組織変更を検討されてはどうかと提案がありました。 承継には、「診療の承継」「経営の承継」「資産の承継」があると聞きました。 「診療の承継」については、個人経営のまま承継できるとは聞いていましたが、「経営の承継」については、徐々に時間をかけて承継していきたいと考えていました。 勤務医師(診療のみ)→ 院長 → 理事長と段階を追って計画しました。 あくまでも私の場合ですが、「経営の承継」「資産の承継」は、法人化の方が効率的だったかと思っています。
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Q 現在は院長を交代されていかがですか? また理事長交代の時期は、どのようなタイミングでお考えですか?
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現在は診療を全般的に任せています。 交代してからは、くやしいですが患者さんが増えてきているようです。 若い院長で活力があり、最新の医療という面では、もう敵いません。 私自身は自由になる時間が増えて充実しています。 今後は「経営の承継」が残っています。 息子もまだまだ子供が小さいので、子供の手が離れるまでは、経営のサポートをしていくつもりです。 その時期が来れば理事長も交代し、すべての承継を終え引退する予定です。 それまで息子嫁にも助けてもらえればと思っています。
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Q 親子間承継してよかった面はありますか?
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承継するタイミングを柔軟に動かすことができたことです。 実は息子が承継する意思を示してくれたものの、当時所属していた医局の関係ですぐには承継できませんでした。 結果的には予定していた時期から1年半ぐらい待ったと思います。 もし親子同士でなかったら、お互いに気が変わるのではないかと不安に感じていたかも知れません。
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Q 注意された点はございますか?
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スタッフは年長のベテランが多く、息子を子供の時から知っている者ばかりです。 息子の立場としては大変やりにくいだろうと思い、診療をさせていく中でスタッフにはゆくゆくは院長になる者だという意識を私の方から浸透させていきました。 私自身も息子としてではなく一人の医師として気遣ったつもりです。 また取引業者の方たちに対しても、息子に権限を与え意思決定をさせました。 ― 後継者育成は、事業承継の課題です。 今回の事例では法人化を活用し、時間をかけて育成された点。 スタッフ(従業員)との関係性も課題の一つです。 リーダーとしての意識付けに注視されていた点も円滑な承継のポイントです。 何より息子を一人の医師から開業医・経営者へ育てている親子間承継ならではの絆のようなものを感じました。
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■ 親子間承継 B: 【子】の立場として
平成10年承継 個人で承継開業 有床の眼科医院
Q 承継されたきっかけを教えて下さい。
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私の父は昔ながらの医師で当然のように息子はクリニックを継ぐものだと決めていたようです。 私は子供のころからそのように育てられたので当然、継ぐつもりでいましたが、ある日突然、父が日にちまで指定して「自分はその日で引退する」と言い出しました。 準備期間はあったのですが、妻にも協力を得ながら慌てて承継する準備を進めていったことを覚えています。
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Q 突然のことでご苦労があったのではないでしょうか?
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父の一方的な性格はわかっていましたが、妻が大変だったようです。 父は診療だけではなく、帳簿(経理)や業者との折衝もすべてを自分で行っていました。 母はノータッチでした。 診療面は私が父から引き継ぎ、その他の業務は妻が引き継ぎをしました。 私は父と違い診療に関することしかできないので、妻がよくやってくれたと感謝しています。
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Q 奥様はその当時のことをどのようにおっしゃっていますか?
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責任が重大で大変だったと言っていました。 しかし今振り返ると引き継いだ後は、完全に任せてくれて父は一切口出しをしませんでした。 緊張感や責任感が続く中で、父からも干渉を受けると、とても精神的に耐えられなかっただろうと言っています。 妻も私もそのことは本当によかったと思っています。 その甲斐あって妻はこれまでの業務を見直し、妻のやりやすいように簡素化していくことができました。
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Q 先生ご自身は急な承継だったのですが、どのように取り組みましたか。
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不安でしたが任せられた以上、「自分なりにやりたいようにやる」と開き直りました。 当時の医業行政の流れに乗って、院外処方・無床化・コンタクトレンズの販売へと大きく展開できました。 父が築いてくれた財産のおかげで積極的に投資できました。
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Q 現在のお父様との関係はいかがですか?
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非常に良好です。 仕事に関することに干渉されなかったことが大きな要因だと思います。 父は引退後、趣味の株式投資・資産運用に時間を使うことで充実した引退生活を過ごしているようです。
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― ありがとうございました。 思い切った決断で、承継後に充実したセカンドライフを送れたようです。 今回の例では子への承継には「お金」を残すことで大きな事業投資ができたこともポイントです。 二つの例ともに、円満な承継のケースですが、お互いに相手のことを思っての行動が重要だったのではないかと思います。 親と子の関与濃度はさまざまですがそれぞれの想いを感じる親子間ならではの体験談でした。 親子間承継での開業をお考えの先生方は、一度お父様の「想い」を聞いてみられてはいかがでしょうか。
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