■ クリニックの承継方法
実家の承継方法は概ねこの3つのパターンにまとめることができます。
A. 個人経営のままでお子様に承継
B. 基金拠出型医療法人社団を設立してお子様に承継
C. 経過措置型医療法人社団をお子様に承継
いずれの方法であっても先代の培ったクリニックの地盤を受け継ぐことになりますので、多くの場合は新規で開業するよりは不安要素は少なく、未来も想像しやすいスタートになることは言うまでもありません。
医療の内容についての親子間の世代間ギャップなども言われますし、軌道に乗るまでの先代のサポートは必須ですが、ベースとなる患者層の存在や蓄積された資金などは大きなアドバンテージです。
ただし、承継のパターンによってはいろいろな問題が発生することも事実です。
A の個人事業でクリニックを承継する場合、
クリニックを一度閉院し、あらためて開設届の手続きをして開業することになります。 事業承継後継続して診療を行いたい場合には保険医療機関指定申請などの手続きを間違いなく行うことが重要となります。
クリニックの土地や建物を先代が所有されている場合は土地、建物を「贈与してもらうのか?」「賃貸するのか?」なども考える必要があります。
医療機関としての財産(医療機器・不動産など)は譲渡してもらうのは贈与または相続してもらうのかなどの検討も必要です。
B の基金拠出型医療法人を設立してお子様に承継する場合、
定款に基づく医療法人の理事、社員の変更だけで現存のクリニックを閉院せずに承継できますので、個人での事業承継のような複雑な手続きとはなりません。
このパターンのメリットとしてはお子様が理事長に就任し、現理事長は理事長を退任しても、理事として理事報酬を得ることができること、また、基金拠出型医療法人は持分がありませんので、設立時に拠出した基金の拠出金額でお子様に譲渡(売却)、贈与、相続することができること、などが挙げられます。
C の経過措置型医療法人をお子様に承継する場合、
基金拠出型医療法人と大きく異なるのはその持分の考え方となります。 持分は税法などで決められた評価方式によって計算し、算定された持分の評価額でお子様に譲渡(売却)、贈与、相続することになります。
経過措置型医療法人の多くは、現理事長の努力で大きな収益を上げ、資産も大きくなっており、その結果持分の評価額は思った以上に高額になっています。 この持分の評価額が大きくなればなるほど贈与税や相続税の負担が重荷となりますし、将来の財産分割の際の足かせとなってきます。
多くの経過措置型医療法人はこの持分に対する対策がなされていません。 この問題の存在については認識されておられても、「どのような対策が有効なのか分からない。 兄弟仲は良いから分割の問題はおきないだろう。 相続税は何とかなるだろう。」など、と問題を先送りにされている先生方も見られます。
経過措置型医療法人の持分対策には決定的な方法もなく、時間が必要な場合が多いので、経過措置型医療法人を経営されている場合は少なくとも現在の持分評価額を算定しておくことは重要です。
■ 承継する側・される側双方のライフプラン
また前院長(理事長)の報酬が先々問題になるケースも散見します。
先代の貢献は理解するものの、現実問題として現院長のライフプランを優先せざるを得ないという状況も考えられます。
とはいっても先代も生活には収入は必要です。 承継後、先代が報酬をクリニックから得続けるのか、貯蓄や退職金を原資に生活を考えるのか、など事前に話し合う必要があります。
ここでは説明を省きますが、日本の所得税下では退職金は大きな優遇が得られます。 医療法人を承継する場合には退職金の活用なども考慮すべき項目です。
|