■ ライフプランの実現とコンセプトマップ
私も開業を志す先生とお会いする機会が何度もありますが、闇雲に物件探しをされている先生が実に多いと感じます。 拘り過ぎて土地・物件購入が過剰投資になり、必要な医療機器の予算が不足するなど、当初のコンセプトからかけ離れてしまい、その後の経営やライフプランに苦労される方がいらっしゃいます。
開業時期(年齢)によって住宅購入とお子様の私大医学部入学などが重なり、資金計画で生活費を軽視したため、教育費の支払いが足りず困っている先生にお会いすることがあります。
「収益はそこそこで」とか、「医療はビジネスではないから」、などとおっしゃる先生もいらっしゃいますが、先生やご家族のライフプランが実現できない開業計画では地域への貢献どころではありません。
やはりライフプランが実現できる開業計画が立てられるのかどうかが、まずは重要なポイントとなります。 ではライフプランが実現できる開業計画はどのように立てればよいのでしょうか。
講師の河村税理士は開業準備の3つのポイントを上げました。
- 何よりも経営理念・コンセプトの明確化を
- 立地設定は、with コロナを前提に
- 当初はローコストオペレーション、運転資金を多めに
その中でもまずはコンセプトを明確にするために「コンセプトマップの作成」をお勧めしているそうです。
コンセプトマップで
・診療理念 ・開業動機 ・開業時期 ・希望時期 ・リミット ・理由 ・退職時期 ・強みと弱みの整理 ・診療コンセプト・ターゲットとする患者層 ・診療所名 ・コンセプトを実現するために導入する医療器 ・診療科目 ・物件の形態 ・開業エリア ・地域性 ・差別化戦略 ・医療器 ・サービス ・診察時間 ・曜日 ・理想とするスタッフ像
を明確にすることで、ライフプランの実現可能性も見えてきます。
■ コロナ禍の開業事情
先への不安もあり、2020年の第一波の時は開業を延期する方が多かったようです。 人流の変化と同じように開業の相談数も変化していたようですが、最近はあまり気にされていないようで、開業支援の企業も例年通りで多忙のようです。
セミナーでは、そんなコロナ禍でも開業後まもなく好調な立ち上がりのクリニックの例が紹介されていました。
内視鏡の専門開業のケース
内視鏡室の換気環境を考慮してクリニックを設計した結果、近隣の「内視鏡室の換気環境の悪いクリニック」から多数の紹介があり、好調なスタートとなった。
私の周りを見渡しても、2020年5月開業の心療内科は順調に患者数が増加しています。 また、コロナ禍では患者数の減少が顕著だった耳鼻咽喉科でも2020年5月開業でロケットスタートしているクリニックもあります。
ところが既存のクリニックで患者数が戻らないという相談もありますので、それぞれの状況(科目や立地、コンセプト等)によって状況は全く異なることがわかります。
つまりコロナ禍によって、以下のような医療経営の特性が如実に現れてきました。
- 病気のニーズと購買ニーズは違うので景気の動向がリンクしない
- 真の受療率は、コロナの影響で明確になった
- 公益性の強い事業だけに、国や自治体の動向に左右されやすい
これから開業を計画される場合はこのような医療経営の特性を、より考慮した計画が重要です。
■ 第三者承継の事情
実態はまだまだ新規開業が多いようです。 若い先生を中心に選択肢の一つとして第三者承継を探されているが、決してメリットばかりではありません。 開業時のご年齢によって選択肢は変わります。
クリニックの歴史とともに患者層も高齢化している場合など、先生と患者層とのマッチングもポイントになりますので、むしろ50代以降の先生の方が第三者承継を選択すべきかもしれません。
既存患者により開業後の不安は幾分か緩和されますが、開業準備においては、新規開業以上に大変な面もあります。 クリニックの譲渡価格や契約書の内容が適切なのか、など判断に専門性が必要で、経験豊富な弁護士・税理士・コンサルタントの選定が重要となります。
何より大変なことは双方の想いをまとめる力・人間力も備えたパートナーが見つかるかも承継を成功させる要素です。 やはりこれからの開業はコンセプトありきで進め、新規・第三者承継の両方を検討する必要がありそうです。
セミナーではこのほかにも第三者承継のポイントとして
- コンセプト重視で選択
- 承継の場合の患者数は3割減で事業計画を作成
- 専門家をどう使いこなせるか検討
- 承継はご縁、開業時期のタイミングが計りにくいため、より一層ライフプラン計画が必要
などが強調されていました。
■ パートナーの選定
パートナーとなる専門家の選び方について近藤氏のレジュメから「探し方とポイント」をご紹介します。
- 自分一人で重要な付き合う相手を決めない
- ホームページや書籍などに書かれていることを鵜呑みにしない
- 大手や有名であることを選択の基準にしない
- 複数の候補から選択する
- 損得勘定より直観・フィーリングを大切にする
- 契約・業務内容を事前に明確な文書で確認する
- 慌てず時間に余裕を持って意思決定する
ライフプランやコンセプトを理解してくれるパートナーの選定が開業の成否に大きな影響があることは間違いありません。 ここに書かれた基準がすべてではありませんが、開業を視野に入れている先生方は頼れるパートナーを探すことから始めていただきたいと思います。
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