■ 医師国保(医師国民健康保険組合)
個人立の診療所の場合、従業員が5名未満の場合には社会保険(健康保険)の加入義務はありません。 この場合には医師国保に加入することができます。
医師国保は給与の大小にかかわらず、一律の保険料掛金となります。 また事業主負担がありませんので、経営者からすると負担は少なくなります。 加入条件や、保険料については各都道府県によって異なりますので、ホームページなどでご自分の住所と照らし合わせてご確認ください。
たとえば、東京都医師国民健康保険組合では下記のように加入条件を定めております。
(以下「東京都医師国民健康保険組合のホームページから引用」)
http://www.tokyo-ishikokuho.or.jp/member/
02_kanyu/01.html
医療・福祉の事業または業務に従事する東京都医師会会員である医師、及び当該医師が開設し、または管理者である東京都の区域の医療機関及び福祉施設に勤務する者で、下記の地区内に住所を有することが必要です。
東京都(島しょを除く)、神奈川県、千葉県、埼玉県及び茨城県(取手市、利根町、龍ケ崎市、守谷市、常総市、つくばみらい市、つくば市、牛久市、阿見町、土浦市)の区域に住所のある方。
これは開業時に限ったお話ではありませんが、よくご相談をいただくのは「この度5人目の従業員を雇うことになったが、医師国保に残ることはできるのか?」というご質問です。
医師国保は従業員が5名未満の診療所を対象としています。 開業時には4名でしたが、中途で従業員を採用し5名以上となった場合には社会保険(健康保険と厚生年金)への加入義務が生じるので注意が必要です。
ただし、各都道府県によっては例外を設けている場合もあります。 たとえば、先述の東京都医師国民健康保険組合では下記のように定めております。
(http://www.tokyo-ishikokuho.or.jp/member/
04_qa/index.html#s7)
本来、個人の診療所で常勤の従業員が5人以上になると従業員については、社会保険と厚生年金の強制適用となるため医師国保を喪失して社会保険へ移っていただくべきところですが、社会保険(健康保険)の適用除外の手続きをして厚生年金の取得手続きをしていただければ、医師国保に残ることは可能です。
もちろん、そのままの形で残ることはできず、一定の要件の下で手続きが必要となります。 また、都道府県により取り扱いも異なりますので、各都道府県の医師国民健康保険組合で確認してください。
■ 社会保険
法人での開業、または個人立でも従業員が5名以上での開業の場合社会保険(健康保険と厚生年金)への加入義務が生じるのは上記「医師国保」の項目でも述べた通りになります。 この場合、事業主は保険料を一部負担する義務が生じますので注意が必要です。
それでは事業主にとってどの程度の負担増となるのでしょうか?
その答えの前に、冒頭より社会保険の中でも健康保険と厚生年
金に注目してお伝えしておりましたが、社会保険には健康保険と厚生年金のみならず下記の4種類が含まれます。(広義の社会保険とも言われます)
- 健康保険
- 厚生年金
- 雇用保険
- 労災保険
この中で労災保険は従業員を一人でも採用した場合に加入が義務付けられています。 また雇用保険は一週間の所定労働時間が20時間以上で31日以上雇用する見込みがある場合には加入が義務付けられています。
したがって、従業員が5名以上であるのか、法人であるのかを問わず雇用保険と労災保険の保険料について、事業主は一定の割合で保険料を負担する義務があります。 法人、または個人立で従業員が5名以上の場合に加入が義務付けられているのは健康保険と厚生年金となります。(狭義の社会保険とも言われます)
ご参考までに、東京都で雇用した従業員(介護保険の保険者に該当しない)で標準報酬月額が30万円の場合の金額は下表の通りです。
東京都「平成27年度(10月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表より」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/
hokenryouritu/h27/h270901/13tokyo-h2709-2.pdf
この場合ですと30万円の給与に対し、実に14%弱の負担額となっております。 医師国保と異なり、所得に応じた掛金負担となるため、給与額が大きくなれば事業主の負担割合や従業員の天引き額も大きくなることに注意が必要です。
(各都道府県の料率は https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3
/cat330/sb3150 を参照ください)
■ まとめ
以上のように開業される場合の形態や、従業員の人数によって加入する保険の種類は異なります。 本来、社会保険(健康保険と厚生年金)の加入義務があるのに加入を怠っていると過去に遡って保険料を徴収されることがありますので、加入摘要条件をしっかりと把握しておくことが重要です。
また、事業主の負担増ばかりがデメリットとして注目されがちですが、厚生年金にしっかりと加入できるということが、優秀な従業員を採用するのには有利ですし、採用した従業員の定着化にも貢献できるという利点もあります。
医師国保に加入するのか、社会保険に加入するのか、どちらが自分の診療所の経営状況に合っているのか、後から「しまった!」とならないよう、十分な検討が必要です。 |