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m3コンシェルジュ 佐久間 洋

リスクマネジメント・ラボラトリー

佐久間 洋

昨年より連載した「クリニック開業時の『しまった』事例」はご好評につき、続編を連載することになりました。 続編の第一回は「医院承継による開業」についてお届けします。 執筆は「TOMA税理士法人」のヘルスケア事業部の方々にお願いしました。

TOMA税理士法人のヘルスケア事業部は「医療・介護の経営支援」に特化した部署を設けて25年以上、病院・医院、施設を取り巻くあらゆる問題に対応した経営&税務のコンサルティングを提供しております。

「続・クリニック開業時の『しまった』事例」 第1回
医院承継による開業

「続・クリニック開業時の『しまった』事例」 第1回

医院承継による開業

皆さま、こんにちは。 TOMA税理士法人ヘルスケア事業部です。 今回は、続・クリニック開業時の『しまった』事例」第1回、「個人立の医院での承継開業の失敗事例」をお伝えします。

そろそろ独立開業を考えていらっしゃった勤務医のA先生。 ゼロからのスタートではなく、ある程度軌道に乗っている診療所を譲り受けたいと探していたところ、ある診療所の承継話が飛び込んできました。

譲渡額などの条件のみならず、一日当たりの多数の来院患者をそのまま引き継げるのは魅力的と、早速詳細を打ち合わせ、引き継ぎまでのスケジュールを確認しました。 しかし、銀行が取得予定の「営業権」には融資できないと、事前審査で融資を渋ったのです。 結局融資は予定額の半額でとどまり、A先生は資金繰りに奔走することになってしまいました。

最終的にはなんとか資金調達できたものの、金利などの借入条件はあまりよいものではありません。 なぜ、銀行はA先生に融資を渋ったのでしょうか?

1. 第三者との承継
第三者との承継は事業の売却という意味合いが強くなります。 この場合の譲渡金額は承継時の「資産価額」から「負債価額」を除いた額です。

さらに資産の中には「営業権」というものも考慮します。 「営業権」とは企業の長年にわたる伝統や社会的信用、ブランド力、技術、営業ノウハウなど、無形の財産的価値を有する事実関係のことを指し、一般的には「のれん代」とも呼ばれています。

診療所の「営業権」は直近の事業年度における平均診療報酬額の2,3ヶ月分を価額として評価する場合が多いですが、実は決まった評価基準はありません。 なぜならば診療所の経営は、院長個人の力量によるところが極めて大きいからです。

つまり、その地域の患者さんは、「前の院長であるからこそ、その診療所に通っていた」、「新しい院長に変わってしまっては、そうした患者さんは他の診療所に流れてしまう可能性がある」、銀行はそう判断してA先生の事業計画の中の「営業権」を担保として認めなかったため、開業資金が不足してしまったのです。 このような事態を防ぐためには買取監査を実施する、などリスクヘッジが必要です。

2. 親族間での承継
親族間での承継の場合は承継時の「資産価額」から「負債価額」を差し引いた金額が、承継の対象である診療所の価値となります。 この場合は同時に借金も引き継ぐ可能性があることに注意しなくてはなりません。

また、土地や建物も譲り受けるのか、借りるのか、によって状況が変わります。 もし借りるということであれば、将来先代に相続が発生するときの対策を考慮する必要がありますし、譲り受けるのであれば贈与税の対策について考えなくてはなりません。 また相続人が複数いる場合にはトラブルを避けるために遺言書を作成しておく等の遺産分割対策も必要になってきます。

診療所の財産、譲受人、譲渡人の状況により一概に言えませんが、贈与税対策としての生前贈与や、相続税対策として小規模宅地等の評価減の特例や、相続時精算課税制度を利用することによって、スムーズな承継が可能となります。

3. 承継の手続き(遡及申請)
個人立の診療所の場合、承継の手続きとしては、これまで診療していた医師がいったん廃止届を出して、新たに承継した医師が開設届を出すという流れになります。 同時に届け出た場合には一ヶ月は保険指定を受けられず、保険診療ができなくなります。

このような空白期間を作らないようにするためには、地方厚生局に「遡及申請」を提出する必要があります。 地方厚生局のホームページには指定期日の遡及の取扱いについて、以下の記載があります。

(以下関東信越厚生局のホームページから引用)
http://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/
shinsei/shido_kansa/hoken_shitei
/shiteibi_sokyu.html


次の場合は、例外的に、指定期日を遡及して指定を受けることができます。
  1. 保険医療機関等の開設者が変更になった場合で、前の開設者の変更と同時に引き続いて開設され、患者が引き続き診療を受けている場合。
  2. 保険医療機関等の開設者が「個人」から「法人組織」に、又は「法人組織」から「個人」に変更になった場合で、患者が引き続き診療を受けている場合。
  3. 保険医療機関が「病院」から「診療所」に、又は「診療所」から「病院」に組織変更になった場合で、患者が引き続き診療を受けている場合。
  4. 保険医療機関等が至近の距離に移転し同日付で新旧医療機関等を開設、廃止した場合で、患者が引き続き診療を受けている場合。
(注1) 開設者変更の場合は、開設者死亡、病気等のため血族その他の者が引き続いて開設者となる場合、経営譲渡又は合併により、引き続いて開設者となる場合などを含みます。

(注2) 至近の距離の移転として認める場合は、当該保険医療機関等の移転先がこれまで受診していた患者の徒歩による日常生活圏域の範囲内にあるような場合で、いわゆる患者が引き続き診療を受けることが通常想定されるような場合とし、移転先が2km以内の場合が原則となります。

承継の場合は1に該当いたしますが、詳細につきましては事前にご確認ください。

■ まとめ

承継による開業には前述した以外にもいくつか気をつける点があります。 たとえば、承継のタイミングが合わないと、患者さんが一気に他の医療機関に流れてしまったり、古参の従業員が突然退職し退職金額を全額負担することになってしまったり、承継後の権利関係でのトラブルが発生したり、など注意すべき点は多岐にわたります。

しかし、医院承継による開業には、

  1. 開業までの準備期間を短縮することができる。
  2. 医療機器、建物等を引き継ぐことにより、通常より安価に開業できる。
  3. 地域住民の認知度が高い状態で開業できる。

等のよい点も多くあります。

承継をスムーズに行うためには、それ相応の期間と準備が必要になります。 事前に専門家にしっかり相談されることをお勧めいたします。

m3コンシェルジュ 佐久間 洋

いかがでしたでしょうか?

承継での開業は全くの新規に比べると多くの場合は有利な条件でスタートできます。 ただし、この記事の内容でもわかるように、新規開業とは注意すべき点も異なります。 場合によっては以前の医療過誤の問題まで引き継いでしまうケースもあり、医師賠償責任保険の確認なども必要です。

新規開業も同様ですが、開業後も含めてしっかりサポートが受けられ、さらに承継開業の経験も豊富な顧問税理士を探してみるのがよいかもしれません。


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