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m3コンシェルジュ 宮地 孝郎

リスクマネジメント・ラボラトリー

宮地 孝郎

皆さま、こんにちは。 m3コンシェルジュ、株式会社リスクマネジメント・ラボラトリーの宮地です。

皆さまは「一人医師医療法人」という言葉をお聞きになられるでしょうか?

昭和60年の医療法改正により設立要件が緩和され、医師一人でも法人形態となることができるようになった制度です。

医師一人でも設立ができるので「一人医師医療法人」と呼びますが、法的には正式な名称ではなく通称とされています。 この後は便宜上、医療法人と記載してまいります。

現在、厚生労働省の年次推移によると平成28年43,237件から平成29年には44,020件と年々増加しています。 開業されると必然的に、医療法人化へ向かうことが考えられます。

では制度が始まってから増え続ける医療法人には、どのようなメリットがありこの制度を目指すのでしょうか。

今回は、川庄公認会計士事務所の坂本氏より、「開業準備から医療法人化を意識する」と題してお話させていただきます。

【開業準備から医療法人化を意識する】 第1回

【開業準備から医療法人化を意識する】
第1回

こんにちは川庄公認会計士事務所の坂本です。

弊社の顧問先様も、個人開業医(個人事業)よりも医療法人組織のほうが圧倒的多数となっています。 開業されて数年経つと意識し始める医療法人化ですが、結果的に「あと1年早く法人化しておけばよかった!」とお話される方が多くいらっしゃいます。

では、なぜそのような声が上がるのでしょうか?

医療法人に限らず法人化の大きな理由は、「個人と法人の税率差」が大きな理由としてあげられます。

開業後、徐々に収入が安定すると重くなっていく税金。 少しでも税負担を避け後継者の医学部進学や老後資金形成のために資産を増やしたいところです。

 

■ 勤務医から開業医へ

先生が開業されると、勤務医時代に受け取っていた給与から診療報酬という売上に変わります。 個人に課せられる税金は所得税といいますが、所得税の計算では給与 = 給与所得、診療報酬 = 事業所得というように所得を区分して計算します。

  • 勤務医時代
    給与 ⇒ 給与所得
  • 個人開業
    診療報酬 ⇒ 事業所得

給与所得は一般的には、お勤め先の年末調整で完結します。 給与を受け取った際にあらかじめ税金が引かれていますので、年末は最終調整のみとなります。

一方、事業所得は診療報酬から必要経費を差し引いた利益をご自身で計算し申告・納税となります。

顧問税理士がいるとはいえ、収入・経費を管理しなければいけませんので、税金の仕組みを少し理解しておく必要があります。

 

■ 個人・法人の税率

所得税は累進課税となっています。 最高税率が45%、地方税は一律10% 全体で最高55%となります。 医療法人は法人税が課せられますが、全体でも最高税率は約28%程度です。

※所得税の税率(国税庁)と当社顧問先平均 実効税率
?所得税の税率(国税庁)と当社顧問先平均 実効税率

このように、所得が大きくなればなるほど個人と法人の税率差も倍近くになります。

年間7,000万円の診療収入で比較した場合
個人開業と医療法人では約350万円の税の軽減効果が表れます。
(必要経費4,000万円、院長給与(理事報酬)1,800万円にて計算)

厄介なのが地方税です。 前年の利益に対して課税され納税する時期が所得税と違います。 開業され申告納税を数年経験した先生方からは「所得税納付後の地方税を意識していなくて、かなりきつかった。」という声をよく聞きます。

税負担が重くなる前に、医療法人となり最高税率を回避できるように事前に意識しておくことが必要になってきます。

 

■ 医療法人開設に要する時間

早めの意識をお勧めする理由として、医療法人が稼働するまでに時間を要することがあげられます。

認可の必要のない一般的な株式会社等では、いつでも法人化が可能ですが、医療法人の場合には設立認可を受けるために、県の医療審議会にて承認されなければなりません。 福岡県の場合は、この医療審議会の開催が年に2回しかないのです。

過去の例から見ても稼働できるまで約半年から1年の時間を要しています。 その間は個人事業として所得税・地方税が課税されるので、できるだけ早い準備が必要です。

この他にも医療法人によるメリットとデメリットがあるので、確認してみたいと思います。

[メリット]

  1. 院長も厚生年金へ加入となるため社会保障制度を利用できる。
    個人事業時代には国民年金のみなので、老後資金に不安があるところですが、医療法人であれば勤務時代のように給与となりますので、厚生年金の加入となります。 その他にも遺族年金・障害年金など上乗せになるので社会保障制度は厚くなります。
  2. 院長もご勇退時には退職金を受け取れる。
    医療法人から院長個人への退職金支給が可能となります。 退職金とは一生のうちに何度も受け取れるものではないので、退職所得は税制上、優遇されています。
  3. 事業承継がスムーズ。
    平成19年の医療法改正により、それ以後の設立は持分のない医療法人のみとなりました。 持分とは出資金・株式のようなもので相続税の対象となるものですが、出資持分がないということなので、相続税がかからず事業承継ができるということです。
  4. 介護事業への展開。 介護事業は法人組織でないと、できないものも多くあります。

[デメリット]

  1. 持分がなく相続税がかからないことはメリットですが、反対に医療法人に承継者がなく解散となってしまった場合は、医療法人の残余財産は国へ帰属することとなっています。
    予期せぬ解散となると財産が個人へ返ってこないことがあります。
  2. 医療法人の財産は医療以外には使えない。
    投資など元本が保証されていないものには使ってはいけないことになっています。
  3. 医療法人は医療以外の業務をすることができない。
    毎年決算報告書を県庁に報告する義務があり、業務を監督されています。

開業準備中から医療法人化はあまり意識されないですが、いずれは医療法人化を必ず意識されます。

先生が開業され、個人時代にやれるだけの税金への対策(開業費の償却、専従者給与、減価償却方法の変更など)を尽くしても利益が2,000万円以上となれば、その時は医療法人化を検討する時期かもわかりません。

そのタイミングを計ってくれるのはほとんどが顧問の税理士です。 医療業に精通した税理士なら確定申告の報告だけではなく、その報告時に今年の経営計画を一緒に立て、その時がくるタイミングを見極めてくれるはずです。

m3コンシェルジュ 宮地 孝郎

いかがでしたでしょうか?

開業準備中に、法人化は、まだまだ先の話しと考えられるかと思いますが、「もっと早くしておけば・・・」との声があるように、事前に意識することが重要かと思います。 また最近は第三者の医院を引き継ぐ第三者承継も多くなっています。

個人開業医院か医療法人を承継するかの判断ができるためにも、知っておく必要もあるのではないでしょうか。


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