今回は「クリニックならではの人事労務 前編」として、<承継開業のメリット、デメリット>をお伝えいたします。
■ 承継開業のメリット
人事労務の観点から見た場合、承継開業するメリットは、今働いている従業員をそのまま引き継ぐことができる点です。 新たに自分で雇い入れることも可能ですが、看護師は現在完全な売り手市場であり、医師の皆さまが抱えている大きな問題となっています。 実際に、ハローワークや求人チラシ、インターネットなどの媒体で募集しても全く反応が無いと言うこともあります。 看護師の求人を検索するとたくさんのクリニックで募集をかけていることが分かります。 その他にも紹介会社を利用する方法もありますが、紹介手数料として年収の20%程度がかかります。 クリニックでは、看護師の他にも受付や会計事務を担当する医療事務員や、整形外科ではリハビリを担当する理学療法士なども必要になります。 看護師ほどではありませんが、このような従業員もすぐに確保できるという状況ではありません。 以上を踏まえると、従業員をそのまま引き継げる点は魅力であり、従業員間でのチームワークもできている分、新体制下でスムーズに診療がスタートできる確率も高くなります。
■ 承継開業のデメリット
従業員を引き継ぐことで雇用関係や給与面でのデメリットもあります。 実際にあった事例をご紹介します。 承継開業を進めていたクリニックの従業員に職場の雰囲気を壊すような人物がいました。 この件については前院長も頭を悩ませており、新院長にその旨は伝えられていました。 クリニックを引き継ぐ間、新院長もその従業員の動向を気にしていましたが、改善されることはありませんでした。 結果として、その従業員は話し合いのうえ、退職となりました。 今回のケースでは事前にトラブルを防ぐことができましたが、もしもこの従業員を新院長が引き継いでいたら、その後トラブルになった可能性もあります。 給与面では、何年も在籍している従業員を引き継ぐ際には、引き継ぎ前の給与水準が高いこともあるため、人件費がかさんでしまう場合や、新体制下での給与面の折り合いがつかず退職してしまうこともあります。
■ 承継開業の「労務リスク」を防ぐ方法
従業員を引き継ぐ前から抱えていた労務トラブルであったとしても、承継後新院長になってから表面化した場合には、新院長が対応しなければなりません。 あらゆる労務リスクを事前に防ぐ方法としては、前院長や前事務長からの聞き取りや、雇用を継続する従業員との個別面談を通じてリスクを洗い出すことが必要です。 前院長との間で慣習的に行われてきたことであっても、法的に不備があった場合には、新院長がリスクを負うことになるので、注意が必要です。 (参考文献:岡本雄三(2015)「開業医のためのクリニックM&A」(P43-46.P133-137)幻冬舎メディアコンサルティング)
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