■ 概算経費のポイント
1.概算経費とは?
医業又は歯科医業で、その年の社会保険診療収入の額が5,000万円以下の場合に認められる保険収入に係る必要経費の計算の特例です。
租税特別措置法の第26条に規定されているため、しばしば「措置法26条」とも言われます。 その年の社会保険収入の額に応じ、以下の速算表により求められた額を概算経費として算定することが可能となっています。
例えば、社会保険収入が3,500万円であった場合、3,500万円×62%+290万円=2,460万円が保険収入に係る必要経費として認められます。 実際は概算経費による所得と実額経費による所得とを比較して、有利な方で申告を行えばいいことになります。
なお、平成25年度税制改正により、平成26年分以後についてはその年の医業・歯科医業収入(自費含む)が7,000万円を超える場合には、社会保険収入が5,000万円以下であっても、概算経費の適用ができないこととなりました。
2.概算経費の計算過程
概算経費は収入額が分かれば経費が決まるという印象が強いのですが、実際には少々計算過程がありますので、同じ収入であれば同じ経費が計上されるというわけではありません。
大まかに言いますと、以下の過程により経費を算定していきます。
(a) 概算経費による経費計上額
上記1.の速算表に従って算出します。
社会保険診療収入×〇%+□万円 = ○○○万円 …(a)
(b) 実額経費を元として、社会保険収入に係る経費として計上される額
(イ)自費のみに係る経費 +(保険・自費共通経費×自由診療割合×調整率)
(ロ)実額経費の全額 -(イ) …(b)
(c) 特典経費 = (a) - (b)
(概算経費の額と、実額経費のうち社会保険収入に係る部分との差額)
上記「特典経費」が、実額経費により計算された所得から控除されることとなります。
ここで特に重要なのは、上記(b)(イ)式にある、「自費のみに係る経費」という部分です。 自費のみに要する経費があるならば、それをしっかりと把握した上で申告することで、納税額が減少する可能性があります。
なおこの他、専従者給与の増減、貸倒引当金繰入額の有無などによっても若干特典経費の額は変動しますが、今回は割愛します。
3.概算経費活用のポイント
以上を踏まえまして、概算経費の活用にあたっては、次のポイントが重要になります。
(a) 自費に係る経費を区分しておくこと
保険収入・自費収入が同額であっても、自費収入に係る経費を区分しているかどうかで所得は変わってきます。 ワクチンの仕入、自費に係る技工代、消費税・事業税を代表例として、自費収入のみに係る経費は探してみればあるものです。
それらの経費をしっかりと把握した上で申告、もしくは会計事務所にその数字を伝えることが必要です。
(b) 専従者給与の検討
専従者給与支給の有無で、概算経費の有利不利が入れ替わってしまう場合もあります。 この場合どうするかは、個々の事例によるところは大きいですが、例えば以下のことを考慮されてはいかがでしょうか。
- 専従者給与支給予定額は、業務内容に比べて多額ではないか?
- 先生と配偶者の可処分所得合計額は、専従者給与支給の有無でどう変動するか?
- 専従者は、「共同経営者」に該当すれば小規模企業共済にも加入できることも考慮する。
なお専従者給与を支給する際には、一定の時期までに所定の届出書を提出する必要がありますので、その点にもご注意ください。
(c) 収入額に注意
社会保険収入5,000万円のラインに加え、近年の税制改正により、保険収入・自費収入合計で7,000万円というラインも加わっています。 このラインに近い場合は、収入をどこまで伸ばせば可処分所得が増えるかといったシミュレーションも必要となってくるでしょう。
■ まとめ
概算経費は簡単だと思われがちですが、実は申告次第で節税効果に差が出ます。 特に自費収入に紐付いている経費が多い医院は、大きな差が出る可能性があります。
知らず知らずのうちに無駄な税金を払っていることもありますので、一度専門家にご確認されてはいかがでしょうか。 |