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m3コンシェルジュ 内田 弘

リスクマネジメント・ラボラトリー

内田 弘

皆さま、こんにちは。 m3コンシェルジュ、株式会社リスクマネジメント・ラボラトリーの内田 弘です。

開業への道」では、開業を迎えるまでに、多くの選択の岐路に立たれたドクターが、どの道を歩まれ成功されたのか、また失敗されたのかをシリーズでお伝えしています。

診療所を開業される際の大きなお悩みの一つが「スタッフの確保」と言われています。 開業前に募集してすぐに良い人材を確保できれば良いのですが、なかなか難しいのが現状です。 そこで、開業前に一緒に働いているスタッフを「引き抜く」ということをお考えになる先生がおられます。

「気心のしれた優秀なスタッフに開業時から手伝ってもらえたら」と考えるお気持ちはわかるのですが、実際にはトラブルの種を作ってしまうことにもなりかねません。

そこで、今回は「スタッフを引き抜くときの注意点」について取り上げます。

執筆は病医院の経営支援に特化した部署を設けて25年以上の実績をもち、開業された先生方を強力にサポートしているTOMA税理士法人、TOMA医療コンサルタンツグループの西條 玲子税理士にお願いしました。

それでは、どうぞ。

開業への道 第5回
今の職場のスタッフを引き抜くときの注意点

開業への道 第5回

今の職場のスタッフを引き抜くときの注意点

こんにちは。 「TOMA税理士法人」、「TOMA医療コンサルタンツグループ」の西條 玲子です。

5回目の今回は、クリニックの開業時から重要な担い手であるスタッフの確保について、どのようなことに留意したら良いか、について紹介したいと思います。


■ ソレダメ失敗事例

開業を控えた分院長のAドクター。 ある医療法人で5年ほど分院長としてお世話になりましたが、この分院の近くに開業することが決定しました。 これまで院長として地域密着で真摯に診療してこられたこともあって、「開業場所が分院のそばなら患者が来てくれる!」との自信もありました。

加えて、A先生はスタッフからもとても信頼があり、分院長に就任してからスタッフとのトラブルもほとんどなく離職率も高くない状況が続いていました。

そこで、共に働いてきたスタッフの一人である看護師に、「近隣で開業することになった。 ぜひ、一緒に新しいクリニックでがんばってみないか?」と誘ってみました。 看護師もAドクターの診療への思いに共感していたため、退職してAドクターの新クリニックで働くことになりました。


■ 理事長への相談なしに

順調にスタートしたように見えましたが、実際は相当もめることになりました。

その大きな原因は、

  1. 経営者である医療法人の理事長にほとんど相談なく独立開業を決めてしまったこと
  2. その独立開業先が分院と診療圏が重なるため、患者の多くが開業先に移ってしまったこと
  3. 有能なスタッフの一人である看護師を引き抜いて雇用してしまったこと

の三つにあります。

すべては事前に理事長に相談し、地域で共存していく連携体制をとる方向で話し合っていれば理事長を怒らせずに問題なく済んだことかもしれません。

Aドクターは医療法人の分院長「管理者」ですから、その医療法人において「理事」(=役員)となっているはずです。 つまりは道義的な振る舞いも当然のことながら、「理事」としての行動にも問題があります。


■ 医療法の改正

先般、医療法の改正があり、医療法人における理事の法的な位置づけが明確になりました。

たとえば、

  1. 退任予定の理事(医師)によるスタッフの引き抜き
  2. 退任予定の理事(医師)が開業予定の案内を患者に配布する
  3. 理事(医師)が別の医療機関に患者を誘導する 等々

このような行為は忠実義務違反、競業・利益相反取引制限違反として、損害賠償責任を追及される可能性が出てきました。

今回の事例も、開業にあたってはよく聞くケースですが、新医療法下では最悪の場合、元の勤めていた先から損害賠償で訴えられることになるかもしれません。 開業にあたっては、お世話になった医療機関と、どうやって連携をとっていくかということも念頭におく必要があります。

余談ですが、現在、勤務先で理事として、いわゆる名義貸しのような行為をしている場合も要注意です。 理事の損害賠償責任リスクが増大しているとも言われており、理事ではあるが特段何もしていないなどの場合は理事としての「任務懈怠」と判断されてしまうこともあるかもしれません。

身に覚えのある方は今のうちに専門家に相談してみてはいかがでしょうか?

m3コンシェルジュ 内田 弘

いかがでしたでしょうか?

開業前の職場のスタッフを「引き抜く」場合など、影響を考慮して関係者と調整しておくことが重要のようです。 また、新医療法下での理事の責任など、今まで以上に注意すべき点も出てきています。

開業を成功させるためには適切なアドバイスをもらえるブレーンが不可欠ですね。

次回は、「奥様の関わり方」に焦点を当てていきますので、次回も楽しみにお待ちください。

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