■ ソレダメ失敗事例 Aドクターの場合
勤務医Aの実家は、3代続く地元では有名な内科診療所です。 Aドクターは、物心ついたときには、この診療所を継ぐものだと思っており、そのような教育も受けてきました。 一浪して医大に入学、いくつかの病院を経て、医局経由で現在の勤務先である○×病院で部長として働いています。 「いつかは実家を継がねば・・・」と思いつつ、毎日が多忙で目の前の診療や業務をこなしており、親からは「いつ戻ってくるのか?」と聞かれることはありましたが、ずっと先送りにしていました。 今、Aドクターは37歳、父は70歳です。 実家の診療所は、3代目の父の代に医療法人化をして、父が理事長、母が理事となっています。 「父が倒れた!」 両親から「早く戻って来てほしい」と言われてはいたものの、決心がつかずにいたところ、父が脳梗塞で倒れ入院したと母から連絡がありました。 診療所は一時閉院しましたが、このことがきっかけでAドクターは診療所を承継する決意をし、動き始めます。 せっかくやる気になったところですが、もうそのときには診療所の財務はひどい状況になってしまっていました。 復帰した父も高齢となり、若いころのようには診療に意欲がわかず、来院患者数は毎年10%減少し、一時閉院したこともあって患者減少に拍車がかかりました。 そして数年前から、いわゆる債務超過になってしまっていたのです。 新規開業ではないため創業融資も受けられず、債務超過、無担保により銀行融資先も見つからず、医業しか経験したことのなかったAドクターは、「資金を集めることが、こんなにも大変なことなのか」、「もっと早く決断していればこんな状況にはならずに済んだ」と悔やんでいました。 実際、この診療所は軌道に乗るまでに3年以上かかることになります。
■ 成功事例 Bドクターの場合
勤務医Bの父は、医療ビルで一般内科・消化器内科の診療所を経営していました。 Bドクターの家系は代々医師を職業としており、親戚にも医師が多く、Bドクターにとっては、開業医である父の診療所の跡継ぎとなることは当然のことでした。 Bドクターは、実家を継ぐものと考えていましたので、まずは父の診療所において、非常勤として月に数度、外来担当をすることにしました。 しかし、ここで大きな懸念事項が出てくることになります。 それは、診療科は父と同じだったものの、自分の診療方針や治療計画、投薬の考え方などがあまりにも父と違っていることでした。 「このまま跡を継いだ場合、父も、患者さんも、自分にとっても幸せなのだろうか、やっていけるのだろうか・・・」と悩むようになったのです。 そんな折、現在勤めている勤務先にほど近い開業物件のお話がありました。 自分の足でもその物件について調べ、また、専門家とも詳細に詰めた末に、Bドクターは一大決心をしました。 父の経営している診療所を継がず、この勤務先に近い物件を前提に、新規開業しようと決意したのです。 父の経営している診療所が入っているビルはもともと父の所有でテナント収入があります。 仮に父が引退したとしてもそのあとの使い道はいくつかの選択肢があることがわかったことも決断の要因となりました。
■ さて、何が違ったのでしょうか?
まず、ソレダメ事例の場合はすでに財務状況が相当悪くなっていたにもかかわらず、それを全く知らずに、決断のタイミングを逸してしまったことで、融資も受けられずに資金繰りにご苦労されることになりました。 このような場合、資金、もしくは資金に代えられる動産・不動産などがないと、最悪、倒産してしまう可能性もあります。 ご実家を承継するかどうかを考えられているドクターはその診療所の決算書、申告書に興味を持ち、決断のタイミングをはかることが重要です。 また、成功事例のほうも、単純に承継しなかったことが良かったわけではなく、Bドクターが多方面から検討し、かつ、勤務医時代から事前にご興味を持たれ、準備をされていたことが勝因と言えます。
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