医療法の一部を改正する法律(平成 29 年法律第 57 号)により、良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成 18 年法律第 84 号)が施行されました。 平成26年に「持分あり医療法人」から「持分なし医療法人」への計画的な移行に取り組む医療法人を国が認定し、税制優遇などにより移行を促進してきましたが、今回の改正では、その認定制度の延長と併せて、認定要件や医療法人への贈与税課税について見直され、平成29年10月1日より施行することとなりました。 対象となるのは平成19年3月31日までに設立された、持分のある「経過措置型医療法人」です。 医療法人の出資持分については、財産権である一方、出資者の死亡に伴う相続税・贈与税の課税や払い戻し請求などが病院経営上の課題となっていましたが、今回は、持分なし医療法人への移行の判断をするうえで重要である出資持分の評価方法について確認していきます。
■ 平成29年度税制改正における評価方法の見直し
医療法人の出資持分の評価は、取引相場のない株式の評価方法に準じて行いますが、平成29年度税制改正において、取引相場のない株式の評価方法について、通達の一部が改正されたため、出資持分の評価額に影響を与えることとなります。 そもそも取引相場のない株式の評価は、原則として(表2)のとおり、会社規模に応じた評価方式に基づき評価しますが、今回の改正は大きく、(1)評価に当たっての会社規模区分の見直し、(2)類似業種比準価額方式(業務内容が類似した上場会社の株価を基に、1株当たりの配当、利益、純資産を比較し算定する方式)の計算方法の見直し、の2点です。
■ 医療法人の出資持分の評価方法とその影響
1. 会社規模区分の見直し
医療法人の規模の判定は「小売り・サービス業」の基準によることとなりますが、改正により、従業員が70人以上の場合には大会社に該当することとなりました。(表1) 「平成27年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」より一般病院の100床当たり常勤換算従業者数は145.1人であるため、おおよそ50床ほどで大会社に該当することとなります。 足元の年度で利益が計上されている場合には、類似業種比準価額方式の評価額が純資産価額方式の評価額より低くなる傾向にあるため、類似業種比準価額を原則とする大会社の範囲が拡大することは評価を低くする効果が期待されます。 しかし、一方で上場会社の株価を計算基礎としているため、株価が上昇すると評価が高くなるという外部要因の影響を受けることとなります。
2. 類似業種比準価額方式の見直し
類似業種比準価額方式は、これまでの利益金額の比準が大きかった評価方法と比較し、損益の影響を受けにくくなりました。(利益金額と簿価純資産価額の比重が3:1から1:1へ改正) 比準要素である利益金額と簿価純資産価額の比重は、平成12年の評価通達改正前において株価に与える影響は利益金額と簿価純資産価額が等しい(1:1)とされていましたが、平成12年改正時に、上場会社の株価に近似する評価額を導く比重として検証が行われたことで、これらの比重が3:1とされた経緯がありました。 今回の改正では、再度検証が行われたことにより、実際の株価と評価額との乖離が少ない比重は1:1であるとされました。 これまでより、単年度利益という比較的コントロールしやすい要素の比重が少なくなったため、改正前より短期的な節税策による利益圧縮効果が見込まれない他、より法人の財産状況が評価額へ反映されることとなるため、純資産価額が大きい医療法人の出資持分の評価額への影響が大きいと考えられます。(表3・表4) なお、利益が大きく、純資産が小さい法人は改正前より評価額が低く抑えられる可能性がありますが、一方、利益が小さく、純資産が大きい法人は改正前より評価額が高くなる可能性があります。(事例)
■ 対策
医療法人の事業承継を円滑に行うには、出資持分の評価が低いタイミングを見計らって後継者への生前贈与や譲渡を行うことなどが有効です。 出資持分の評価引き下げについては、法人の規模に応じ適用される評価方法を確認したうえで、対象となる類似業種比準方式や純資産方式へ効果的な手法を選択することがポイントとなります。 具体的には、1. 役員退職金の支給 2. 生命保険への加入 3. オペレーティング・リースの活用 4. 役員報酬の増額 など、従来の対策が考えられますが、今回の改正を鑑みると単年度での対策ではなく、中長期的な業績や評価を見越した対策が重要となります。 また、認定医療法人や社会医療法人等の持分なし医療法人への移行も重要な選択肢となるでしょう。 なお、今回の改正は平成29年1月1日以後に取得した財産の評価から適用されるため、改正前の評価方法で相続税対策や事業承継を検討していた医療法人においては改めて評価を行うことが必要です。 (表1) 会社規模区分の見直し
改正前
改正後
出典元: 国税庁のホームページより作成 https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hyoka/170515/pdf/04.pdf
(表2) 規模別評価方法 ※医療法人が比準要素数1の場合、株式保有特定会社などの一定の会社に該当する場合には、特定評価会社の評価方法に準ずる。 (表3) 類似業種比準価額の計算方法 ※類似業種の株価 国税庁「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等(平成29年分)」 ※類似業種の株価Aは課税月、その前月、その前々月、前年平均、前2年間の平均のうち最も低い価額を選択 (事例) 前提: 出資金5,000万円、直前期利益金額1億円、純資産価額20億円、大会社に該当 (※1) 1口50円当たりの出資口数 50,000,000円÷50円=1,000,000口 出資1口当たりの利益金額 100,000,000円÷1,000,000口=100円 (※2) 出資1口当たりの純資産価額 2,000,000,000円÷1,000,000口=2,000円 (表4) 純資産価額の計算方法 ※評価差額に対する法人税等相当額 = (相続税評価における純資産価額-帳簿価額における純資産価額)×37%
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