■ 受託者の候補者がいない場合
前回の内容では、家族信託では受託者が、いかに重要な役割を担っているかを解説させていただきました。
信託の目的を達成するために行動をするのは受託者であるため、家族信託における最重要人物は受託者になります。
しかし、家族構成によっては、家族信託を利用したいが、受託者として適切な候補者がいない、という場合があります。
委託者に子供がいない場合や、委託者に子供がいたとしても、信頼関係が乏しい場合や、障害を持っていて財産の管理を依頼することができない、お子様が未成年である、などの場合です。
法律上は、受託者になるための資格制限などは設けられていないので、家族や親族でなくても受託者となることは可能です。 しかし、受託者には財産を管理する義務が生じるため、易々と第三者に依頼できるものではありません。
現実的には、受託者を依頼できるお子様や親族がいない場合には、家族信託ではなく、信託銀行や信託会社にお金を支払って信託をするか、遺言や任意後見などで対策をとらざるを得なくなります。
つまり、信頼できる受託者が不存在の場合、家族信託という制度は使えないと判断した方が良いことになります。
■ 第二受託者がいない場合
家族信託は、長期にわたる契約になるため、委託者よりも先に受託者が亡くなってしまう場合も想定し、最初の受託者が亡くなった後、その受託者に代わって受託者となる者(第二受託者と言います。)も選任しておくのが一般的となっています。
そして、第二受託者には当初の受託者の相続人(当初の受託者の子供)を設定しておくことが一般的です。
しかし、受託者に子供がいないや、未成年のケースもあります。
このような場合には、子供以外に第二受託者を引き受けてくれる親族などがいれば、その方を第二受託者としますが、そのような方がいない場合には、第二受託者をあらかじめ明確に定められないことになります。
信託法上、受託者が不存在となった場合には、関係当事者によって新たな受託者を選任することと定められていますが、その時には委託者(=受益者)が認知症になっていて意思決定ができない場合も想定されます。
つまり、第二受託者の候補者がいない場合には(あくまでも当初の受託者に万が一のことがあった場合ですが)若干、不安要素を残した形での家族信託となってしまうのです。
ただし、受託者よりも委託者の方がはるかに高齢なケースが一般的ですから、受託者が先に亡くなってしまうケースは確率としては、そこまで高くないと考えられます。
とはいえ、相続・財産管理という最大事の場面です。 若干とは言っても不安要素があってはいけません。 信頼できる受託者・第二受託者の候補者がいてこそ、家族信託は先生やご家族の財産をご要望通りにしっかりと守れることになります。
以上のように、家族信託は受託者や第二受託者の候補者がいない場合、活用するのが難しい(不安要素を抱えた)制度になっています。
もちろん、家族信託ができないからと言って、即、相続対策や資産防衛対策ができないと結論付けられるわけではありません。 逆に「家族信託という制度があるから大丈夫」と決めつけるのも危険です。
問題なく家族信託を遂行していくためには、早い段階で、先生のご家族構成の場合は「家族信託によりどのような対策がとれるのか」「誰を受託者にし、誰を第二受託者にするのか」など、一度、家族信託の専門家に相談をしておくといいでしょう。
ただし、自ら専門家と名乗るものの「実務経験が無い」士業もいます。 新しい制度だけに仕方が無い面もありますが、一方、現在において年間何百という家族信託を組成している士業もいますので、実務経験のある士業に相談することをお勧めします。
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