■ クリニックの事業継続計画BCPとは
クリニックの事業継続計画BCP(Business Continuity Plan以下BCPと言います)とは、2011年3月11日に発生した東日本大震災の様な大規模地震、大型台風、大洪水などの大規模自然災害や、新型インフルエンザなどが発生した際に、低下する業務遂行能力を補う非常時優先業務を行うための計画で、遂行のための指揮命令系統を確立し、業務遂行に必要な人材・資源、その配分を準備・計画し、タイムラインに乗せて確実に遂行するためのものです。
このBCPの考え方の基本は、事業をできるだけダメージを少なく継続、復旧するために、リスク管理の立場から日常から、「不測の事態」を分析して、自らの施設や体制の脆弱な点を洗い出し、その弱い部分を事前に補うよう備えておくことです。
言い換えれば、クリニック機能維持と早期に原状を回復するための準備態勢、方策をまとめた計画です。
BCPの進め方としては、
- 方針
- マニュアル・プラン・アクションカードの策定
- 教育・研修・訓練
- 実践
- 実践・訓練の検証
- 対応策の改善
そして、6. の見直しから1. の方針の決定にもどること(いわゆるPDCAサイクルに相当)で、継続計画が改善されてゆく仕組みとなっています。
具体的なことは、次回以降でお話しします。
■ 自然災害発生時用のBCPと新型インフルエンザ流行時のBCPの違い
東日本大震災後には自然災害発生時のBCPが注目されていましたが、新型インフルエンザA(H1N1)流行からは、新型インフルエンザ流行時用のBCPも必要とされてきています。
自然災害発生時のBCPと新型インフルエンザ流行時のBCPは、リスク特性が異なるため、予想される被害や準備すべきことが大きく内容が異なってきますので、自然災害発生時用のBCPがあると言って安心せずに、新型インフルエンザ流行時用のBCPも決めることがお勧めです。
□ 「自然災害発生時」と「新型インフルエンザ流行時」の場合を比較
自然災害発生時の事業継続方針
: 「できる限り事業の継続・早期復旧を図る」
↑↓
新型インフルエンザ流行時の事業継続方針
: 「感染リスク、社会的責任、経営面を勘案し、業務継続のレベルを決める」
患者さんやスタッフの安全が確保できない場合には「診療をしない」決断も必要になる。
自然災害発生時の被害の対象
: 「主として、施設・設備等、社会インフラへの被害が大きい」
↑↓
新型インフルエンザ流行時の被害の対象
: 「主として、人への健康被害が大きい」
自然災害発生時の地理的な影響範囲
: 「被害が地域的・局所的 (代替施設での操業や取引事業者間の補完が可能)」
↑↓
新型インフルエンザ流行時の地理的な影響範囲
: 「被害が国内全域、全世界的となる (代替施設での操業や取引事業者間の補完が不確実)」
自然災害発生時の被害の期間
: 「過去事例等からある程度の影響想定が可能」
↑↓
新型インフルエンザ流行時の被害の期間
: 「長期化すると考えられるが、不確実性が高く影響予測が困難」
自然災害発生時の被害発生と被害制御
: 「主に兆候がなく突発する」「被害量は事後の制御不可能」
↑↓
新型インフルエンザ流行時の被害発生と被害制御
: 「海外で発生した場合、国内発生までの間に準備することが可能」
「被害量は感染防止策により左右される」
自然災害発生時の事業への影響
: 「事業を復旧すれば業績回復が期待できる」
↑↓
新型インフルエンザ流行時の事業への影響
: 「長期間利用客等が減少し、業績悪化が懸念される」
出典: 厚生労働省職場・事業者向けガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/09-11.pdf
今回のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)流行で、「院長先生(家族)やスタッフが感染したので、一定期間の閉院するしかなかった。」、「感染防止のため、診療を午前だけにした。」、「通常通り診療していたが患者さんの数が大幅に減った。」、など経営的に打撃を受けた院長先生もいらっしゃいました。
地域医療機関を守るために、院長先生とスタッフの身体の安全を確保した上で、できる限り診療を継続させ、早急に診療を復旧されることが大切です。
■ ご自身のクリニックにあったBCP策定を
「以前勤務していた病院用のBCPをもらってくれば大丈夫でしょ。」と言っていらしたクリニックの院長先生がいました。
残念ながら病院用のBCPとクリニック用のBCPは同じものではありません。
また、自然災害発生時用のBCPと新型インフルエンザ流行時のBCPの違いがあるだけではなく、各診療科目によっても内容が異なります。
自然災害発生時に外科や整形外科などのクリニックさんのBCPと内科や耳鼻咽喉科などのクリニックさんのBCPが異なります。
同様に、新型インフルエンザ流行時に外科や整形外科などのクリニックさんのBCPと内科や耳鼻咽喉科などのクリニックさんのBCPが異なってきます。
ご自身のクリニック規模、診療科目に合わせたBCPの策定をお勧めします。
■ 新型コロナウイルス感染症にかかる診療報酬上の特別な取扱いが施行されています。(令和2年5月23日現在)
既にご存じの先生も多いと思いますが、老婆心ながら、新型コロナウイルス感染症にかかる診療報酬上の特別な取扱いが施行されています。(令和2年5月23日現在)
新型コロナウイルス感染症にかかるレセプト算定漏れがない様に下記の内容を確認されることをお勧めします。
新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて(令和2年4月10 日事務連絡)
https://www.mhlw.go.jp/content/000621247.pdf
「電話・オンラインによる診療がますます便利になります」
https://www.mhlw.go.jp/content/000621727.pdf
医療機関が電話やオンラインによる診療を行う場合の手順と留意事項
https://www.mhlw.go.jp/content/000624983.pdf
新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて
https://www.mhlw.go.jp/content/000626126.pdf
新型コロナウイルスに関する Q&A(労働者の方向け) 令和2年4月 28 日時点版
http://medsus.sub.jp/2020_kaitei/0428rousaiQA.pdf
<参考文献>
厚生労働省: 病院におけるBCPの考え方に基づいた災害対策マニュアルについて
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000089048.pdf |