■ 社会保障の定義
先生から見て、身近な社会保障とは健康保険制度だと思いますが、この制度は戦後間もない頃に規定されました。 1950(昭和 25)年の「社会保障制度に関する勧告」では、
「社会保障制度とは、疾病、負傷、分娩、廃疾、死亡、老齢、失業、多子その他困窮の原因に対し、保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ、生活困窮に陥った者に対しては、国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに、公衆衛生及び社会福祉の向上を図り、もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすることをいうのである。」
と定義づけられています。 引用元: 社会保障制度審議会「社会保障制度に関する勧告」 http://www.ipss.go.jp/publication/j/shiryou/no.13/data/shiryou/syakaifukushi/1.pdf
■ 社会保険とは
社会保障の機能は下記の3つに分類されます。
- 生活安定・向上機能
- 所得再分配機能
- 経済安定機能
誰しも人生の途上で遭遇する様々な危険(傷病・労働災害・退職や失業による無収入等)に備えて、必要なお金やサービスを支給する仕組みです。
- 病気、けがに備える「医療保険」
- 年をとったときや障害を負ったときなどに年金を支給する「年金保険」
- 仕事上の病気、けがや失業に備える 「労働保険」(労災保険・雇用保険)
- 加齢に伴い介護が必要になったときの「介護保険」
このような社会保険を総称として公的保険ともいいます。 では、これらの制度はどの人にも一律に準備、給付されるものでしょうか。 実は、どのような単位で保険集団を構成し、そしてどの団体に属するか、そしてその団体に応じて、どのような給付を行うかは様々です。 ただし、公的な社会保険制度では、法律等によって国民1人1人に加入が義務付けられるとともに、給付と負担の内容が決められています。 開業をすると先生方は、雇用主になるため、労働者ではなくなります。 したがって、労働保険加入は不可能になるため、業務上災害に備えた補償はご自身で備える必要があります。 では、医療保険(健康保険制度)と年金保険についてはどうでしょうか。
■ 医療保険(健康保険制度)
健康保険には以下の集団があります。
- 国民健康保険
自営業者・年金受給者・非正規雇用の労働者
- 国保組合保険
医師・歯科医師・弁護士・美容師等の同業者で設立する組合保険
- 協会管掌健康保険 (旧政府管掌健康保険)
中小企業の正規労働者
- 組合管掌健康保険
大企業を中心に設立された総合型組合
- 共済組合
公務員、私学職員、団体職員
- 後期高齢者医療制度
75歳以上
では、勤務医(協会管掌健康保険)から開業医(医師国民健康保険)へ移行すると、何がどのように変わるのでしょうか。 大阪府を例に主な給付内容をご覧ください。
医師健康保険の最大の特徴は、月々の保険料が安くなることです。 ただし、扶養家族が多い先生には効果は薄く、もしかすると今以上に負担が大きくなる可能性があります。 さらに、通常、国民健康保険には傷病手当の制度はありません。 ただ、都道府県によっては給付が行われる場合があります。 例えば、大阪府は1日あたり5,000円の給付があります。 給付内容も都道府県によっても様々ですのでご確認ください。 しかし、協会管掌健康保険と比較すると劣っているのが現状です。 特に注意していただきたいのはスタッフへの処遇です。 スタッフにも医師国民健康保険組合を採用していると他医院との福利厚生に違いが発生しますので気を付けてください。 あとは自家診療に対する考え方でしょうか。
■ 年金保険制度
年金制度には以下の集団があります。
- 国民年金
20歳以上60歳未満の自営業者、専業主婦、学生等が加入
- 厚生年金
常時雇用される70歳未満の人(医療法人の理事、一般法人の役員を含む)
国公立の病院へお勤めの先生方が加入していた共済年金は2015年10月に厚生年金と統合されました。
月々の納付保険料に差がある分、老齢年金、遺族年金、障害年金に差がでます。 遺族年金では、お子さまが18歳になってから迎える最初の3月に国民年金からは支給がなくなります。 厚生年金では高齢者寡婦加算があるので、保険としては手厚い内容となっています。 障害年金でも対象等級が2級と3級の違いがあり、その差は歴然です。 厚生年金加入者の障害年金を図にしてみました。 勤務医時代は、社会保険制度で不足する部分を自ら備えることがわかりました。 しかし、開業医になると社会保険制度そのものが手薄になります。
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