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【改正認定医療法人制度の最新情報】 第3回
医療法人関係者への特別な利益の供与と判定されないための予防策について |
皆さま、こんにちは。 AGSグループ、AGSコンサルティング・ヘルスケア事業部です。
認定医療法人制度は、平成26年10月1日から施行され、平成29年9月30日までとされていましたが、医療法改正により、平成32年9月30日まで3年間延長されることになりました。
また、旧制度では持分なし医療法人へ移行しても不当減少要件を満たさなければ医療法人に対する贈与税が課税されることになりましたが、改正後の認定医療法人制度ではその贈与税については非課税とされ、代わりに運営の適正性要件8項目が新たに加えられることになりました。
今回はその運営の適正性要件の中の一つ、「医療法人関係者への特別な利益の供与禁止要件のポイント」をお伝えします。 (前回はこちら)
■ 医療法人関係者への特別な利益の供与禁止要件
「その事業を行うに当たり、社員、理事、監事、使用人その他の当該経過措置医療法人の関係者に対し特別の利益を与えないものであること」
この要件では、医療法人と医療法人関係者等において社会通念上不相当である取引をしてはならないこととされています。 医療法人関係者等とは、主に社員や役員、その親族などが含まれ、次に掲げる者とされています。 |
イ 当該医療法人の関係者
(イ) 当該医療法人の理事、監事、これらの者に準じ当該医療法人が任意に設置するもの又は使用人
(ロ) 出資者(持分の定めのない医療法人に移行した後にあっては、従前の出資者で持分を放棄した者を含む)
(ハ) 当該医療法人の社員
(ニ) (イ)から(ハ)までに掲げる者の配偶者及び三親等以内の親族
(ホ) (イ)から(ハ)までに掲げる者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
(ヘ) (イ)から(ハ)までに掲げる者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者
(ト) (ホ)又は(ヘ)に掲げる者の親族でこれらの者と生計を一にしている者 |
出展元: 厚生労働省「持分の定めのない医療法人への移行認定制度の概要」 P12
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000193986.pdf
また、特別な利益の供与に該当する事例として以下の項目が挙げられています。 |
ロ 医療法人がイに掲げる者に、次のいずれかの行為をしたと認められ、その行為が社会通念上不相当と認められる場合には、特別の利益を与えているものと判断する
(イ) 当該医療法人の所有する財産をこれらの者に居住、担保その他の私事に利用させること
(ロ) 当該医療法人の余裕金をこれらの者の行う事業に運用していること
(ハ) 当該医療法人の他の従業員に比し有利な条件で、これらの者に金銭の貸付をすること
(ニ) 当該医療法人の所有する財産をこれらの者に無償又は著しく低い価額の対価で譲渡すること
(ホ) これらの者から金銭その他の財産を過大な利息又は賃貸料で借り受けること
(ヘ) これらの者からその所有する財産を過大な対価で譲り受けること、又はこれらの者から当該医療法人の事業目的の用に供するとは認められない財産を取得すること
(ト) これらの者に対して、当該医療法人の役員等の地位にあることのみに基づき給与等を支払い、又は当該医療法人の他の従業員に比し過大な給与等を支払うこと
(チ) これらの者の債務に関して、保証、弁済、免除又は引受け(当該医療法人の設立のための財産の提供に伴う債務の引受けを除く。)をすること
(リ) 契約金額が少額なものを除き、入札等公正な方法によらないで、これらの者が行う物品の販売、工事請負、役務提供、物品の賃貸その他の事業に係る契約の相手方となること
(ヌ) 事業の遂行により供与する利益を主として、又は不公正な方法で、これらの者に与えること |
出展元: 厚生労働省「持分の定めのない医療法人への移行認定制度の概要」 P15 |
■ 個別事例 ポイント
それでは、個別事例のポイントとして、さらに細かく見ていきます。
1. 理事長社用車がある場合
施設間の移動が法人の業務として合理的であり、私事に利用していないのであれば特別な利益の供与には当たらないこととされておりますので、運行記録や規程などを備えて、利用状況を明確にしておくなどの準備をしておきます。 通勤利用についても、業務上必要と認められ、かつ、私事に利用することがなければ、特別な利益の供与には該当しません。
2. 法人リゾート会員権等がある場合
福利厚生費の一環として、法人で所有している会員権等がある場合は、利用規程等を定めており、広く職員が公平に利用可能となっていることが必要となりますので、1.と同様に利用状況などを明確にしておきます。
3. 理事長所有不動産を医療法人が賃借している場合
賃料が不相当に高額でないとするためには、不動産鑑定評価書、近隣の類似物件の価格、賃借料、路線価、過去の取引実績等を用いて計算し、その計算根拠について、客観的に説明ができるようにしておきます。
4. 役員社宅がある場合
福利厚生規程に基づき、他の職員と同様の基準で貸与している場合や、救急対応等の業務上の必要性から貸与している場合であれば特別な利益の供与とはされないこととされています。 相当の賃料を賃借人から法人が受領していることが必要です。
5. 定期逓増型生命保険
解約返戻率が低い時期に法人が保険料を支払い、解約返戻率が上がる直前に個人に売却する取引を行った場合は、実質的に医療法人の資金を特定の者に移転させるものであるため、特別な利益の供与に該当します。 ただしさまざまな商品があるため、個別に判断が必要となります。
改正後の認定医療法人制度では同族経営自体は認められましたが、取引についての精査が必要になります。 役員や親族、MS法人間の取引がある場合は、規程を整備したり、客観的な価格で取引がされるようにしたり、留意していかなければなりません。
■ 現在の認定状況
それでは、平成29年10月1日から施行された改正認定医療法人制度ですが、現在どのくらいの申請について認定がされたのでしょうか。
こちらは直接厚生労働省に確認したヒアリングの結果ですが、平成30年8月の時点では、約40件超の医療法人が認定されているとのことでした。
認定の要件を満たせていないと判断された場合は、申請書類を返却されるので、課題を次の決算までに改善してから再度申請をしようとしている医療法人も多いそうです。
制度が3年延長されたとはいえ、要件の確認や改善には時間を要する場合もあるため、ご検討の可能性がある場合は、早めに準備をされることをお勧めいたします。 |