最初に結論を申し上げますと
銀行預金のまま < 住宅ローン繰上返済 < 手数料・税引後で借入金利以上の利回りでの運用 ※ ただしリスクあり
とお考えいただくと、よいようです。 つまり、
- 銀行に置いておくくらいなら、繰上返済をする
- リスクはあるが、借入金利以上の利回りで資産運用ができるなら繰上返済はせず、借入は継続したまま手元の資金を資産運用にまわす
- 資産運用のリスクを取りたくない方や、借入金利以上の利回りでの運用が難しいと感じる方なら、無理に運用をせずに繰上返済にあてる
ということです。 計算過程は後述いたしますが、非常にシンプルな結論となりました。 「金利」の性質を考えればある意味当たり前に感じられる結論ですが、シミュレーションをするにあたって、
- 返済金額の多寡によって変わるのではないか?
- 返済時期によって変わるのではないか?
- 変動金利で借入をしていた場合、将来金利が上昇すると、繰上返済が有利になるのではないか?
など、さまざまなことを検討しなければなりません。 しかしながら全てのケースを考慮にいれた結果、最初の不等式でお考えいただければ大丈夫だということが分かりました。
■ 住宅ローン繰上返済の効果
まず、住宅ローンの繰上返済の考え方についてご説明いたします。
【借入条件】 借入額: 5,000万円、返済期間: 35年、金利: 1.5%(全期間固定)、返済方式: 元利均等返済 毎月の返済額: 153,092円 毎年の返済額: 1,837,104円(153,092円 × 12カ月) 総返済額: 64,298,640円(支払利息総額: 14,298,640円)
住宅ローンを組まれたことがある方はご存知かと思いますが、毎月の返済額のうち元金の返済にあてられる部分と利息にあてられる部分の割合は、返済期間中一定ではありません。 ローン返済開始直後には返済額のうちの多くが利息部分に充当していきますが、ローン終盤に近くなっていく程利息部分の割合は減っていき、大半が元本の返済にあてられます。 繰上返済を行なうと下記のようになります。 返済額は青い部分に充当され、赤い部分の利息の軽減効果が生まれます。 つまり繰上返済が同じ金額でも、返済時期が早い方が利息軽減効果は大きくなるということです。 ※ 今回のシミュレーションは繰上返済の際に多くの方が選ばれている「期間短縮方式」を採用しています。 返済方法にはもう1つ「返済額軽減方式」という、毎月返済する額を減らす方法もあるのですが、考え方は「期間短縮方式」と概ね同じであるため割愛させていただきます。
■ 条件を変更しながら比較
繰上返済を行なうと、本来支払うべき利息のうち206万2,353円も軽減することができました。 繰上返済を行なわずに運用を行なうとどうでしょうか。 借入金利と同じ年率1.5%であれば運用成果に対する所得税・住民税(合計で20.315%)を考慮すると、繰上返済の方が得になりました。 年率2.0%での運用になると、税引後利益でも資産運用の方に軍配があがります。 (計算上、損益分岐ラインは年率1.68%程の運用でした) パターン1と比べて繰上返済を早めたシミュレーションです。 利息軽減効果がパターン1よりも大きくなっていますが、運用期間も長く取れる分、資産運用の方も利益を多く取れるようになっており、損益分岐水準はパターン1と同じです。 パターン1と比べて返済金額を大きくしたものです。 それぞれの金額は大きくなっていますが、結果はパターン1と同じです。
■ 「長期」で運用をする意思がなければ返済を優先
冒頭に「住宅ローン繰上返済 < 手数料・税引後で借入金利以上の利回りでの運用」と記載させていただきましたが、こちらが成り立つのは「運用をローン返済の最後まで継続した場合」であることを補足しなければなりません。 例えば上記パターン1の場合、 繰上返済効果 206万2,353円 資産運用25年 利回り年率2.0%の場合 税引後利益 255万2,334円 と記載していますが、この場合では20年経過時点での税引後利益は193万6,135円となり、リスクを取って利回り年率2.0%で20年運用をしたとしても、繰上返済の方が効果が高くなるという結果となります。 長期国際分散投資を実践していくのであれば、利回りは年率2.0%どころか年率4.0~5.0%程は十分期待できる数字であると思いますが、運用の力を信じきれずに途中でやめてしまう可能性がある方は、早々に返済にあてていく方が賢明だといえると思います。 (パターン1の場合、年率4.0%であれば税引後で繰上返済効果を上回る利益となるには約11年の運用期間が必要となる計算です。)
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