■ これまでの経過と「持分あり医療法人」の問題点
平成18年(施行平成19年)の第5次医療法改正において、医療法人のほとんどを占める「社団医療法人」について、設立が平成19年4月1日以前の医療法人と、設立がそれ以降の医療法人という2つの医療法人が存在することになりました。 前者は「持分あり医療法人(経過措置型医療法人)」、後者は「持分なし医療法人」です。 「持分あり医療法人」の場合、出資者は出資割合に応じ、その時点での医療法人の財産価値を持つと判断され、これゆえ相続時、下記のように問題となる事案が多く発生していました。
■ 「持分あり医療法人」 相続時の問題点
医療法人は配当ができないため、利益が法人に残りやすい構造です。 当初、出資金1,000万円でスタートした医療法人の利益の蓄積が長年の間に5億円、10億円となることも、規模が大きな法人では、珍しいことではありません。 仮に、設立時の出資者2名、Aさん出資金額600万円 Bさん400万円でスタートした医療法人が、数十年の間に利益を蓄積して、現在の財産価値が10億円の場合、Bさん死亡時、Bさん出資分の価値は、医療法人価値の40%、4億円となり、Bさんの遺族はこの金額を医療法人に請求することが可能です。 これは「持分の払戻請求」といわれ、この請求が医療法人の資金繰りを急激に悪化させ、事業継続を困難にする要因となっています。
■ この問題を解決する手段と税務の壁
この問題を解決する手段として、出資者全員が持分を放棄して、「持分あり」から「持分なし」に移行することが考えられます。 そのようなことができれば、出資者に相続が発生した場合でも「持分の払戻請求」が無く、医療法人の存続を脅かされる心配はなくなりますが、相続リスク解消のために「出資持分の払戻請求」を放棄するということは、出資された先生方が「これまで積み上げてきた財産の放棄」という、とても大きな決断が必要となります。 しかし、このような大きな決断をしてもなお、そこには「相続税法第66条第4項」という、もう一つ大きな問題が残っています。
この場合、医療法人は数億円の贈与税を負担することになり、医療法人の資金繰りに大きな影響が出てきます。 この対策として、厚生労働省は平成26年に「持分なし医療法人への移行計画の認定制度」を出し、その中で、「相続税法第66条第4項」の贈与税を課せられない「認定医療法人」への移行促進とその要件を出しました。 その要件は、「相続税法施行令第33条第3項(*1)」に準拠した
- 理事6人 監事2人以上
- 役員の親族1/3以下
等、医療法人にとって、簡単にクリアーできない要件のために、平成28年9月時点で「認定医療法人」の認定件数61件、移行完了は13件にとどまっています。 (*1): 上記(参考: 国税庁URL)のとおり、「相続税法第66条第4項」の贈与税を課せられないためには、通常、「相続税法施行令第33条第3項」に沿う必要があります。
■ 今回の「平成29年度税制改正大綱」について
今回の税制改正大綱においては、これまでの経過を踏まえ、厚生労働省が地域医療の担い手である医療法人の存続を中心に据え、財務省と協議を重ねた結果、「持分あり」から「持分なし」に移行する際、贈与税が免除される「認定医療法人」の要件緩和(役員数・親族要件等)が明記されました。 (詳細は下記「添付2」をご参照ください。)
[ご参考]
- 「平成29年度税制改正大綱」該当箇所全文: 「添付1」
- 「医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特別措置の延長等」: 「添付2」
(「平成29年度厚生労働省関係税制改正事項の概要」抜粋)
「 添付2」は「 添付1」の内容を具体的に記載しています。
「平成29年度税制改正大綱」を含む「平成29年度税制改正関連法案」は3月27日に参議院で可決、成立しました。 具体的な認定要件・実施時期など詳細はこれからとなりますが、平成19年から平成28年まで、あえて贈与税を払い「持分あり」から「持分なし」へ移行した医療法人は513法人にのぼっております。 相続リスクを抱える医療法人にとり、今回の改正は大きな前進であり、これにより「認定医療法人」の活用が進み、「持分なし」への移行を希望する医療法人が増えるものと予想されます。
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