こんにちは。 「TOMA税理士法人」、「TOMA医療コンサルタンツグループ」の西條 玲子です。 3回目の今回は、クリニックの開業だけでなく、あらゆる事業の設立後に命運を大きく左右する「事業計画と融資」についての失敗事例と成功の要因を紹介したいと思います。
■ ソレダメ失敗事例 Aドクターの場合
Aドクターは現在、開業準備中です。 開業コンサルタントから「自己資金はいくらまでなら出せるか?」と尋ねられたので、「貯金もほぼなく、親からの援助もあまり期待できない。」と返答しました。 Aドクターのご家族はお子様が二人、小学生と中学生でどちらも私立へ進学しており今後も教育費が相当かかることが予想されます。 また、首都圏の高層マンションに居住し、美食家、ゴルフが大好き、先物投資も大好き、奥様は専業主婦という状況で、これまでこつこつとお金を貯めるような生活をしてこられなかったようです。
1. コンサルタントにお任せ
数年前に開業した先輩ドクターから、資金は銀行借入れで賄ったという話を聞いたことに加え、開業コンサルタントが「銀行融資に強い」ということでしたので、融資関係は全て開業コンサルタントに任せて安心していました。 「自己資金はほぼない」と開業コンサルタントに返答をすると、ほどなく、その開業コンサルタントと顧問税理士が事業計画書を作り、見せてくれました。 そこには、7年分の収入と経費、返済の計画が載っていました。 Aドクターは専門外の数字が苦手だったことと、このコンサルタントを信頼し任せていたため、特に疑問もなくそのまま融資の交渉をお願いしました。 その事業計画書は1年目には△がついていて赤字のようでしたが、7年間のうちには十分に利益が出て、その利益に減価償却費を足し、税金を引き、借入れを完済できるように記載されていました。 コンサルタントと顧問税理士のつてで、融資を受ける銀行もすぐに見つかり、事業計画書どおり借入期間7年・利率1%前半、融資金額も予定どおりという好条件で借入れができました。
2. 開業後・・・ 開業して1年。 預金口座に残高が足りなくなってきました。 顧問税理士からは追加融資を受けるか、返済期間の延長を銀行に交渉する必要があると助言を受けました。 なぜ、このようになってしまったのでしょうか?
■ 失敗事例からみる成功要因
結局、このAドクターは開業して1年を過ぎたところで借入れた金額が底をつきました。 この時はなんとか親戚からの融資を受けて廃院を免れましたが、元本返済をして生活費も賄えるようになったのは、開業から5年ほど経過してからでした。 ここで、失敗理由を挙げてみます。
1. 開業コンサルタントや顧問税理士にお任せ
この事例の問題点は事業計画の策定そのものを数字のプロだからと開業コンサルタントや顧問税理士に任せきりにしたことではないでしょうか。 収入の根拠である診療単価、患者数はもちろんのことですが、内装、医療機器、不動産の賃料、リース、支払利息、給与・・・など、事業計画の基本となる金額はご自身でも把握が必要です。 開業コンサルタントや顧問税理士がいる場合にも無理な計画ではないか、精緻に策定されたものかどうか、綿密な打ち合わせが必要です。
2. 生活費も計画にいれる お子様の進学状況、奥様の状況、お住まいの状況、ご趣味など、毎月どの程度の支出が必要なのか、また、今後はどのように支出が変化するのか、いわゆるライフプランも考慮した借入れの計画が必要になります。
3. 自己資金ゼロ 開業資金を全額融資で準備する状況は極力避けたいものです。 借入金の元本の返済は経費ではありません。 利益から税金が引かれた後の金額(税引き後の金額)から元本の返済に充当する必要があるため、借入残があると、「利益は出ているし多額の税金も支払っているのに、なぜか手元にお金が残らない」という状況に陥ることもまれではありません。 返済が大きな負担になることも考えられますので、自己資金の準備も重要です。
4. 返済期間の長さ 通常、返済期間を短くすると利率は低めとなり、返済期間を長くすると利率は高めとなります。 返済の利率を低くしたいがために無理して短めの返済期間にすると、運転資金が足りなくなる(ショート)リスクが高まります。 返済期間に無理がないかも視野にいれて事業計画を策定する必要があります。 融資を実行する銀行側からすれば、他人が作った事業計画書ではなく、「開業するご自身が作った精度の高い事業計画書」であれば、当然、健全な融資先と判断しやすくなるでしょう。 他人任せではない事業計画書作りが必要です。
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