■ 受託者はどのように決めるか?
家族信託において、最も重要な役割を担うのが受託者ですが、ここで今一度、家族信託における登場人物についておさらいをしておきましょう。
- (1) 「委託者」
自分の財産の管理を他人に依頼する人。
- (2) 「受託者」
委託者から財産の管理を依頼される人。
- (3) 「受益者」
委託者が受託者に預けた財産から生み出される利益を受け取る人。
ということでした。 通常、「委託者」と「受益者」は同一人物としますから、家族信託とは、
『 「委託者」が「受託者」に財産の管理をお願いする行為 』
とまとめることができます。
ですので、家族信託において実際に財産を管理する立場の人 = 最も重要な立場の人は「受託者」である、ということになります。
「受託者」は、「委託者」の財産を、責任をもって管理、運用していかなければなりませんから、その能力がない方や、やる気のない方、責任感のない方にお願いすることはできません。
では、誰が受託者に最適なのか。
通常、「委託者」の財産を将来的に相続によって引き継ぐ方が「受託者」になります。 「受託者」が「委託者」の子どもになるケースが多いのはこのためです。
子どもが複数いる場合には、その中で、最も「受託者」の業務を遂行するのに適任の方(1名)がなる場合のほか、複数名の方が同時に「受託者」になるケースもあります。
(※「受託者」の人数に制限はありません。 ただし、人数が多いと受託者の業務遂行に支障をきたす場合があります。)
複数名の子どもの中から受託者を一人に絞る場合には、長男や長女といった自然と兄弟の中でリーダーシップを発揮できる立場の方や、遺産を多めに受け継ぐことが決まっている方、事業の承継がある場合にはその承継者などを選任するケースが一般的です。
(例)
■ 受託者の業務とは?
次に、受託者に就任した方は具体的にどのような業務を遂行していくのか、というお話をします。
具体的な受託者の業務は、実は「信託契約の内容による」ことになります。 家族信託は委託者・受託者間の契約行為であり、その契約内容は原則自由です。
とはいえ、一般的には信託の目的によって受託者の業務内容も必然的に決まってきます。
具体的には、収益不動産の管理・運用を目的とするのであれば、入居者とのやり取りや管理会社とのやり取り、家賃の受け取りや建物の修繕の対応などです。
今まで委託者がやっていたことを、そのまま受託者が引き継ぐ内容で契約書を作成し、実際の業務を受託者が引き継ぐ形となります。
そのほかにも、信託によって委託者が保有する預金を受託者に信託しておくことも重要です。 なぜなら、委託者が認知症などになってしまい、意思表示ができなくなると、銀行の窓口から預金の引き出しができなくなってしまうためです。
こうなってしまうと、いくら銀行に資産があっても、活用することはおろか、引き出しすらできなくなってしまい、後見制度を利用しなくてはならない状態にもなってしまいます。
しかし、あらかじめ家族信託によって受託者の口座に資金を移動しておけば、委託者が認知症になってしまったとしても、預金を自由に引き出すことが可能となります。 (※ 通常、家族信託を行う場合には、預金についても信託財産に含め、委託者の生活、介護、医療費として利用する旨を契約内容として含めておきます。)
このように信託契約に定めた業務のほか、法律上、受託者に求められる業務として、税務署への信託財産の届け出や、年に1度の税務署への「信託財産の状況の報告」などがあります。
なお、これらの業務を受託者から税理士などの専門家に委託できるように、信託契約の内容として、信託業務の一部を第三者に委託できる旨の規定を盛り込んでおくことが一般的です。 |