■ 労働契約の終了についての、使用者の制限
「お互いの合意によって契約が成立し、お互いの合意が図れないのであれば契約は成立しない」という民法上の原則で考えるのであれば、使用者か労働者のどちらかが「この契約をやめます。」と申し出をした時点でお互いの合意はなくなりますので、雇用契約は終了します。
しかし、こういったことを使用者が濫用すると労働者は安心して働くことはできません。 そこで、民法の特別法である労働基準法は、使用者からの解約=解雇について制限を設けています。
まず、使用者の解雇権の行使は、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利の濫用にあたり無効になるとしています(解雇権濫用法理)。
使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に予告をする必要があり、仮に30日前に予告をしないと30日分以上の平均賃金を労働者に支払わなければなりません(天変地異、懲戒解雇など特別な事情がある場合を除く)。
また、下記のように一定の条件にある労働者については、その後の生活に大きな支障をきたすことから解雇することができません。
厚生労働省 「解雇」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/kaiko/kaiko.html
■ 労働者からの申し出による労働契約の終了
上記のように使用者の行使がかなり制限されているのに対して、労働者からの申し出については、申し出後2週間経過すると労働契約は終了します。 ここでは、労働基準法ではなく民法の規定を採用することになります。
例えば就業規則などで「退職する日の30日前(60日前)までに報告しなければならない。」と規定してあったとしても、法的には、申し出後2週間経過すれば出勤の必要はなくなります。
■ 労働契約に期間の定めのある場合の制限
非正規雇用の増加や人事制度の一環として、働く期間を区切って雇用する「有期雇用契約」を採用する事業所が増えていますが、使用者・労働者ともに労働契約の終了には制限があり、注意が必要です。
「労務の提供と賃金の支払い」を、期間を定めて契約することになりますので、やむを得ない場合を除いて契約期間中の解約の申し出はできません。 仮に、やむを得ない事情によって労働契約の解約をした場合に、もう一方に損害が生じたときは損害賠償の必要が出てくる可能性があります。
例えば、有期雇用契約を結んだ労働者が、家庭の事情によって退職せざるを得ない状況となった場合、その労働者の退職によって使用者側に売り上げ減少が起こったときは、その分の損害賠償や、使用者が新たな労働者を採用するためのコスト負担が必要となる可能性が出てきます。
■ 「退職願」と「退職届」の違い
様々な医療機関の労務管理を行っていく中で、労働者からの「労働契約の終了の申し出」として「退職願」と「退職届」があり、それぞれを混同されている方を見かけます。
「退職願」は、「退職させてください。」と労働者が使用者に願い出るときに使用するもの。 言い換えると労働契約の終了を初めて申し出る際に使用する書類となり、「退職届」は、労働契約の終了についてお互いが合意したのち、お互いの合意を確認する書面になります。
「退職願」と「退職届」の使い方について例を挙げますと、
- 労働者が「退職願」を提出
- 労働者の退職希望日が会社の経営に過度に支障をきたさないかどうか、業務の引き継ぎが完了できるかどうか、有給休暇の取得予定などの確認
- 決定事項をもとに、「〇月〇日に退職します。」という「退職届」を提出
となります。 前段でも述べましたが、労働者からの申し出は、申し出後2週間で有効となりますので、法的には上記の2.をする必要はありませんが、円満退社をする上ではいかに上記の2.をしっかり行うかが、その後のトラブルを防ぐ最善の方法となると考えます。
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