■ 医療法人化のメリット・デメリット
はじめに、医療法人化の主なメリット、デメリットを挙げてみます。
【メリット】
- 個人の所得税と住民税の負担が軽減される
- 給与所得控除が受けられる
- 退職金の支払いが出来る
- 生命保険料が損金算入出来るものがある(商品、契約形態により異なります)
- 損害保険料が損金算入出来る(商品、契約形態により異なります)
- 医療法人の事業継承対策に役立つ
【デメリット】
- 理事長先生個人の可処分所得は、医療法人と分散になるので減少する
- 管理コストの増加(厚生年金保険料負担)
- 投資制限
- 交際費の制限
- 医療法人は、配当が出来ないので内部留保金を簡単に引き出せない
当たり前のことではありますが、メリットが大きくデメリットを許容出来るのであれば医療法人を検討されるべきですし、メリットよりデメリットの方が大きければ医療法人にする必要はありません。
多くの先生方が医療法人に求めるメリットを把握せずに議論されていますが、ご自身の経営状況を把握したうえでメリット・デメリットを整理し、医療法人検討をすべきなのか確認いただくことをお勧めします。
■ 後悔しないために知っておきましょう 医療法人の仕組み
医療法人化をご検討されるときには、そのルールとも言える医療法人の仕組みの理解が必要です。 詳しくは ⇒ 【開業医の先生からの質問 医療法人化編】
医療法人のルールを知らないと、次のような問題が発生することがあります。
- 医療法人の所有権、又は、経営権を乗っ取られる
- 理事の就任限度人数を3人などと少なく設定したため、就任させたい人を理事に就任させられない
- 医療法人の種類によっては、理事長の給与(報酬)制限がある
<平成19年3月までに設立された出資持ち分ありの医療法人社団の場合>
- 医療法人の社員退任時に多額の資金が必要になる場合がある
- 残余財産の金額に応じて相続税、贈与税、譲渡税などが課税される
<平成19年4月以降に設立された基金拠出型医療法人社団の場合>
- 出資額に応じた払い戻しを請求出来なくなり、医療法人解散時の残余財産の帰属先が 国、地方公共団体、医療法人その他の医療を提供するものであって厚生労働省令で定めるもの等、になってしまう
<医療法人を設立するのではなく既存の医療法人を買い取った場合>
医療法人社団には、平成19年3月までに設立された出資持ち分ありの経過処置型医療法人社団と平成19年4月以降に設立された基金拠出型医療法人社団の2種類があり、出資金の払い戻し請求権や残余財産の取り扱いが大きく異なります。
詳しくは厚生労働省のサイトをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/houkokusho_shusshi_09.pdf
■ 医療法人の目的を決め、経営計画とライフプランニングをする
医療法人の設立の目的を漠然と「節税」と言われる先生がいますが、何のための節税なのか?が明確でないことが多いようです。
本当は「使えるお金を多くする」「財産を多くする」「家族に多くの財産を渡す(残す)」などが目的のはずなのに、目先の税金を少なくする「節税」という言葉に影響されてしまい、本当の目的を見失っているケースが多く見受けられます。
残念ながら医療法人化しただけでは、「使えるお金を多くする」「財産を多くする」「家族に多くの財産を渡す(残す)」ことは出来ません。
医療法人を使って「所得税・住民税を軽減する」ということは「所得税が超過累進課税なので、大きくなった所得の一部を医療法人に分散し、全体の税率を下げる。」ということですから、単純に医療法人にすれば先生自身の所得は減り、可処分所得も減少することになります。
医学部の学費や住宅ローンの返済など、個人の支出の多い先生は医療法人にして所得を下げてしまうと、家計が立ち行かないことになるかもしれません。
ところが医療法人を検討される際に税額のシミュレーションはされていても、経営計画やライフプランの検討がなされていないことがとても多いのが現状です。 場合によっては税額のシミュレーションさえせずに「メリットがあるとか無いとか」と議論されているケースも見受けます。
医療法人を検討される際にはまず目的を決め、税額ばかりに注目せず、経営計画とライフプランを合わせて検討することが必要です。 |