株式会社リスクマネジメント・ラボラトリーで医業経営コンサルタントの活動もしている新井 常夫です。 開業されている先生の中には「税理士に全部任せていて、決算書についてはよくわからない!」とおっしゃる先生がいらっしゃいます。
決算書を単に納税計算のための書類と捉えるか、経営向上のレポートと捉えるかでクリニックの経営を大きく左右します。
もちろん、税理士も誠意をもって決算を行っているとは思いますが、全てを委ねていたとしても経営の責任をもってくれるわけではありません。
開業するならば、決算書の見方を理解する必要があるのではないでしょうか?
■ 「採算が合う」を理解する
なぜ決算書の見方を理解することが大切かと言いますと、「採算が合う」の理解に繋がるからです。
「採算が合う」とは損益分岐点以上の売り上げが上がることを言い、そのために『経費を抑える』『診療数を増やす』と考える方も多いと思います。 ですが、「採算が合う」のためにできることはそれだけではありませんし、それがベストな方法でない場合もあります。
また、クリニックの数は増えており、子どもが多い地域では小児科が2軒ならんでいるようなところもあります。 クリニック同士の競争が激化しているため、「採算の合う」経営を行う必要性は高まっています。
■ 「採算が合う」を理解するメリット
ご自身に「採算が合う」を理解していると、次のようなことを正しく判断できます。
- 内装にいくらまで掛けて大丈夫なのか?
- 医療機器は、いくらまで購入(リース)して良いのか?
- 自己資金をいくらまで入れて、銀行借り入れはいくらまでして良いのか?
- スタッフは何人、いくらの給与で採用したら良いのか?
もし、ご自身が「採算が合う」を理解していれば、このようなこともご自身で決められます。 逆にご自身で判断が難しい場合、開業支援の業者さんを頼ることになるかと思います。 ですが、全ての業者さんが「採算が合う」を考えて、アドバイスしているとは限りません。
- 「少し高いですが、患者さんへの印象が良い内装です。」
- 「少し高いですが、この医療機器の方が良い診療ができます。」
- 「この検査機器もあった方が、患者さんに喜ばれます。」
- 「先生の手持ちの現金を全て入れれば、この金額まで銀行から借り入れできますので、最高限度まで借り入れておきましょう。」
- 「スタッフは、急な欠勤や退職に備えて多めに採用すると良いですよ。」
と言われた場合、「開業専門の業者さんが言うならそうしよう!」と思いがちですが、これらの言葉には要注意です。
確かに個々に見ると業者さんの主張は正しいのですが、クリニック経営としての「採算が合う」という観点とは合っていない場合があります。
「採算が合う」という観点から考えると開業時の投資が冗費(じょうひ)になってしまうことがあります。
ですから、業者のアドバイスを鵜呑みにせず、ご自身の「採算が合う」の判断軸とも照らし合わせて決めることをお勧めします。
一部の最適化が全体の最適化とは限りません。 木を見て森を見ずにならないようにしなければなりません。
大雑把な計算ですが、例えば、ある先生が開業しようと思って、テナントを借り、内装工事を行い、銀行からお金を借り、医療機器などをリースするなどベストな物を揃えたときに、1カ月に掛かる全ての予定支出費用が700万円だとします。
【週5日、月20日診療した場合】
1カ月の予定支出費用700万円÷1カ月の診療日数20日=35万円(1日当たりの予定支出費用)
患者さんの平均診療報酬単価が8千円だった場合には、1日最低でも44人以上の患者さんを診療しなければなりません。
もし、診療圏調査の結果、予想1日平均来院患者数が35人だった場合には、採算が合わなくなってしまいます。
保険診療を中心に開業をお考えの先生は、ご自身の診療科目別、患者さんの診療単価と1日に患者さんを最低何人診療しなければならないか、をきちんと把握する必要があります。
■ 決算書はクリニック経営の健康診断書
そして、すでに開業している先生にとっての決算書は、健康診断のような効果もあります。
決算書を使って現状の問題点を洗い出し、「採算が合う」の観点で、集患・増患対策、スタッフの増員やスタッフトレーニング、医療機器などの追加や買い替えを検討する材料にもなります。
決算書を納税計算のための書類・過去の経営記録と思わずに現状の良い点・悪い点のレポートと捉え、未来のクリニック発展のために役立てる必要があります。
明るい未来のために、決算書の損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書をもとにした「採算が合う」の見方を学ばれることをお勧めします。 |