いざ開業を志すと、そのほとんどの先生は開業セミナーに足を運びます。 それとは反面、守秘を貫き、誰もわからない間に準備をしていく先生もいます。 それは、どちらかが間違っているのではなく、正解でもありません。 しかし、その開業をするために知り得た情報や知り合った人で、開業後の立ち上がりに違いが出るのは当然のことだと思います。 競合が多く市場が飽和している中にも、優良なクリニックが多数存在します。 物事に原理・原則があるように、「原理原則に従った経営を行うこと」、「当たり前のことを当たり前に行うこと」、それだけです。 理想を持って開業されることは間違いではありませんが、患者様に支持されてこそ、開業は成功します。 成功しているクリニックの共通点は、クリニックの状況を正確に、かつタイムリーに把握することです。 改善点は早急にメンテンナンスを行い、良い点はさらに向上させる。 そのような心掛けをするだけでスタッフには伝心でき、患者様へは心地よく伝わります。 開業は「新規開業」と「事業承継」の2つに分かれます。 新規開業と第三者事業承継は多額の借入金が必要となることが多く、親族間承継では落ち込んだ患者数のV字回復に努めることが求められます。 新規開業では、精密な診療圏調査を行うことで、一定の患者数が見込まれ事業計画を立てます。 しかし、経営(事業)は常に変化していきます。 開業までの間に診療圏内に競合医院が開院しているなど想定外が起こることも考えられます。 では、それぞれの開業スタイルに対し「成功」の2文字は何を意識すべきでしょうか。 税理士として開業後意識し先生方へ目指していただきたいのは、「損益分岐点をどれだけ早くクリアできるか」です。 損益分岐点とは、医業収益(売上)と経費(固定費+変動費)が同じになる、いわゆる利益が0円になる部分を指します。 例えば、慢性疾患を多く診る科目では、開業後緩やかに上昇してきた来院患者数が、損益分岐点まで達すると以後、一般的には黒字へと向かいます。 新型インフルエンザのような流感が勢いよく流行り、開業後、ものすごい勢いで患者様が押し寄せるような医院では、早期に損益分岐点をクリアし黒字になります。 よって、単月だけでも早期に損益分岐点を上回ることが1つの目標になると考えています。 この目標を達成するためには、医業収益と経費に関する「税務」、人に関する「労務」、患者様を集めるための「宣伝」の3つの要素が揃って、増収増患が見込まれるのです。 損益分岐点をクリアしたい…等、達成すべき目標が決まると、重要経営指標 Key Performance Indicator(以後KPI)分析を患者数・診療単価等から月次比較、全国比較して以後の経営に役立てていく必要があります。
KPI分析(月次)
KPI分析(全国比較)月次
それでも、「思ったより伸びない」、「損益分岐点に達しない」という場合は、現在来院されている患者様へアンケートを実施し、生の声を聴くことで、気付かなかった問題点や改善点が見えてくることが多くあります。 介助者やご親族の方が付き添いでお越しになる医院であれば、患者様だけでなく、付き添いの方に着目したアンケートも効果的です。
アンケート(例)
アンケート結果(トレイ、洗面所に関する)
?※ 結果集計は、筆者の担当クリニック また、レセコンデータを活用した「患者動態調査」の実施も有効です。 患者住所を吸い上げ地図上に置いて見ると、強い地区、弱い地区の濃淡が確認できます。 この作業は、内覧会終了後に分析すると、野立て看板やバスや駅などの広告活動に役立てられます。 開業医には、「経営に関心を持っていること。」「業績に関心を持っていること。」「客観的な視点を持っていること。」が成功への近道であり、クリニックの危険や数値上の変化を事前に察知して客観的な視点で経営者にフィードバックするのが税理士の役目だと常に思っています。 得てして人は自分のことを過大に評価してしまう傾向にあります。 自分にとって不都合な事柄をあまり重要だと取り扱わず、見過ごしてしまう。 論理的な思考を妨げ合理的な判断が行えなくなる心理バイアスがかからないように客観的な視点が重要になるのです。 開業のみを目的とせず、開業医に本当に必要なパートナーに巡り合えることをお祈りいたします。
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