■ 支払基金・税務行政におけるICT・AI活用の推進
平成29年7月、厚生労働省は、第2回 データヘルス改革推進本部を開催し、「国民の健康確保のためのビッグデータ活用推進に関するデータヘルス改革推進計画」、「支払基金業務効率化・高度化計画」の二つの計画についてその内容を報告しました。 これらの計画では、医療・介護分野でのICT(注1)やAIの活用による業務効率化や標準化の実現を目指し、社会保険診療報酬支払基金の審査業務においては、コンピュータチェックを現在の65%から2022年には90%を目指すとしています。 社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険中央会は「保健医療分野におけるICT活用推進懇談会」の提言においても「患者・国民を中心に保健医療情報をどこまでも活用できるオープンな情報基盤(PeOPLe(仮称)(注2))」整備の核として位置づけられており、その改革に注目が集まっています。 税務行政においても、同じようにICT・AIの活用が検討されています。 平成29年6月には国税庁が「税務行政の将来像~スマート化を目指して ~」を公表し、納税者サービスの充実と適正・公平な課税・徴収の観点から、スマート税務行政を打ち出しています。 おおむね10年後の税務行政をイメージし、ICTやAI、マイナポータル等を活用し、(1)納税者の利便性の向上、(2)事務運営の最適化を目指す、とされています。 具体的には、例えば不動産を売却した方には申告の案内が配信されるサービスや、AIを活用した税務相談の自動化(相談内容の分析と最適な回答の自動表示)、AIを活用したコールセンターの機能強化などが将来像として示されています。 「納税者の利便性の向上」として「申告・納付のデジタル化の推進」が挙げられており、最近では、平成29年1月から従前より地方税において可能であったクレジットカード納付が国税でも可能となりました。
■ クレジットカードによる国税納付制度
クレジットカードによる国税納付制度は平成28年税制改正において、納税環境整備のひとつとして納税手段の多様化を図る観点から創設されました。 これまでも、税務行政手続については平成16年に国税電子申告・納税システム(e-Tax)の運用が開始され、従来の現金による納付、預貯金口座からの振替納税に加え、電子納税が可能となりました。 また、平成19年度の税制改正により国税庁長官により指定された納付受託者に国税の納付を委託することが可能となり、納税者はコンビニエンスストアで納付をすることが可能となりました。 今回、クレジットカードによる納付が可能となった税目は申告所得税をはじめ、法人税、消費税、贈与税などであり、平成29年6月からは源泉所得税についても可能となります。(表2) 利用可能金額は税額1,000万円未満、かつ、クレジットによって決済することができる金額以下です。 国税庁の統計資料より、80%超の医療法人の所得が5,000万円以下であるため、法人税額ベースでは、多くの医療法人においてクレジットカードでの納付が可能となると考えられます。(実務的には1,000万円以上の国税の納付は納付手続を複数回行うことで利用可能となる。) また、実際に国庫に納付されるのは国税庁長官が指定した納付受託者(トヨタファイナンス株式会社)が金融機関等に納付した時点となりますが、納付受託者が納付の委託を受けた日(クレジットカードの決済日)に国税の納付があったものとみなされるため、実質的に納付繰延べが可能となります。 納税者の利便性のメリットのほか、クレジットカード会社によってはポイントが付くこともあるようです。 具体的な納付方法は専用サイト「国税クレジットカードお支払サイト」へアクセスし、次の手順で完了します。
- ご利用に当たっての注意事項の確認
- 納付情報(*)の入力
- クレジットカード情報の入力
- 手続内容の確認
- 納付手続の完了(最終確認)
(*): 氏名・住所・納付する国税の税目や納付税額等、従来の納付書を作成するために必要な情報 一方、決済手数料は納税者が負担することになります。 決済手数料は納付税額が最初の1万円までは82円(消費税込)、以後1万円を超えるごとに82円(消費税込)を加算した金額となります。 例えば納税額が500万円の場合、決算手数料は41,040円(消費税込)となる計算です。 また、継続的な手続ではないためその都度手続が必要となり、納付手続が完了すると、その納付手続の取消しはできません。 誤って納付手続をした場合は、「還付等の手続を行うことになる」こと、「納付済の納税証明書の発行に3週間程度かかる場合がある」こと等に留意が必要です。 ICTの活用について現在も紙カルテである医療機関も少なからず存在し、導入費用の高さの観点から、実際の現場レベルでの活用は時間を要すると考えられます。 一方、審査支払機関や税務行政等、全国的に取り扱う件数が多く、標準化が必要な業務についてはICT導入の効果が期待されています。 今回の支払基金や税務行政の効率化では、レセプトの受付から支払までの短期間化、クレジットカードの納付による支払繰延べにより資金繰りに影響が見込まれます。
(注1)ICT: Information and Communication Technology (注2)PeOPLe: Person centered Open Platform for wellbeing 図1: クレジットカード納付の手続 (出典元:国税庁) 表1: 納付手段別の納付割合(平成27年度) (国税庁「税務行政の将来像~スマート化を目指して~」(平成29年6月23日)より作成) 表2: クレジットカード納付が利用できる税目 表3: 所得階級別法人の割合(医療法人) (国税庁 会社標本調査結果統計表「第9表 所得階級別・資本金階級別法人数」より作成)
|