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m3コンシェルジュ 高橋 睦

リスクマネジメント・ラボラトリー

高橋 睦

ご開業をされている先生方から、人事や労務についての「困った!悩んだ!」というようなお話をお聞きになったことはありませんか? いつまでもいろいろあるのが「人」のこと、「人事」のことです。

今回は「こんなときどうすればよいですか?(全4回)」シリーズ 労務編-第1回をお届けいたします。

「こんなときどうすればよいですか?」
労務編-第1回
従業員の解雇と退職

「こんなときどうすればよいですか?」労務編-第1回

従業員の解雇と退職

今回は、医療機関で実際に起こった事例を基に、労務の基礎知識の確認と対処方法を解説いたします。 労務編-第1回は「従業員の解雇と退職」についてお伝えいたします。


■ 事例1 懲戒解雇と普通解雇は、何が違いますか?

とある医院にて医薬品の在庫が合わなくなる事態が発生しました。 防犯カメラを設置してあり監視を続けていたところ、従業員Aが薬品棚の前で怪しい行動をするところを遠目であるが録画にて確認できました。 すぐに、Aを問い詰めましたが物証はなく、Aは認めませんでした。

院長はAが信用できなくなったとして、できれば普通解雇ではなく、懲戒解雇にしたいと思いました。 普通解雇と懲戒解雇の違いは何ですか?

通常は、「普通解雇」なのか、それとも「懲戒解雇」なのかを意識することはあまりありません。 しかし、懲戒解雇と普通解雇は本質的に大きく異なるものですので、両者の違いをしっかり認識する必要があります。

懲戒解雇とは、懲戒、つまり特定の行為に対する「制裁」として行われる解雇です。 懲戒には減給や停職など、様々な種類がありますが、その中で一番重いのが懲戒解雇です。

これに対して普通解雇は、労働者に「制裁」を与えるためではなく、成績不良や適格性の欠如等を理由に雇用契約を終了させようとするものです。

普通解雇についても客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性がなければ無効となる(労働契約法16条)という制約がありますが、懲戒解雇も「制裁」として行われるという観点から、やはり制約が働きます。

労働契約法15条は、会社が労働者を懲戒する場合について、当該懲戒が、懲戒にかかる労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とすると定めています。

院長は警察にも相談しましたが、はっきりと盗むところが撮影されていない状況では、証拠は不十分であるとの見解でした。

したがって、院長としては不本意ながら、普通解雇とし平均賃金の30日分の解雇予告手当を支払う、解雇の形を取りました。

 

■ 事例2 能力不足の理由で内定の取り消しできますか?

医療専門学校在籍の生徒を面接し、内定を出しました。 実際の勤務は、卒業後の4月からでありましたが、人手不足もあり、また早く仕事に慣れてもらうためにも、2月からアルバイトに来てもらうことにしました。

ところが、実際に仕事をさせてみると、まったく間に合わないことが判明しました。 能力不足の理由で内定の取り消しはできますか?

医院が採用内定を通知し、該当の学生が承諾の意思を示した段階で「労働契約」が成立します。 口頭だけですと「言った、言わない」ということがあるかもしれませんので、トラブル防止のために通常は内定通知書を学校等に交付することになっています。

例えば、学生が重大な嘘をついていた、大学を卒業できなかったといったケース以外は、医院側の事情で一方的に内定を取り消すことは労働契約違反となります。

即戦力を期待する医療機関の経営者は、ついつい自らが求める水準に達していない労働者を能力不足と判断しがちです。 同じ給料を払うならもっと見合う人が他にいるかもしれないと思いがちです。

ところが、裁判所が解雇を認めるところの能力不足の労働者とは、著しく成績が不良なため、もはや活躍の場がなく、辞めてもらうより他に方法がなさそうな労働者のことです。

自らが求める水準に達していない程度の理由では、労働者を追い出すことは認められません。 したがって、このような事例の場合では、能力不足を理由として内定の取り消しはできません。

 

■ 事例3 退職日は従業員の指定する日で認めなければならないのですか?

当院の規定では、退職する場合は、退職する1か月前までに退職届を提出することになっていますが、従業員から次の勤務先が決まったので、2週間後に退職したいと申し出がありました。 認めるべきでしょうか?

労働基準法20条では、使用者側からの雇用契約の解約( 解雇 ) について、最低の予告期間を設けていますが、労働者側からの解約( 退職 ) に関しては、何等、制限を設けていません。

また、民法627条で「 各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができ、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する 」ことになっています。 労働基準法は、民法に対する特別法として、使用者により厳しい制限を課している訳です。

業務引継や人員補充の観点から就業規則に30日前の退職申し出規定を設けて早期の申し出を促すことは差し支えないものと言えますが、当人があくまで民法の定めに沿って14日後の退職等を主張される場合には、そうした民法の定めが優先するものと考えられます。

したがって、従業員から退職の申し出があった場合は、職業選択の自由(憲法22条)や奴隷的拘束の禁止(憲法18条)の観点からも、事業主から強制的に退職日を変更することはできません。 従業員から退職の意思表示があれば、2週間を経過すると労働契約は終了することになります。

ただし、就業規則の規定で、「退職申出時期についての減額」の定めがある場合には、退職金を減額することは可能となります。

m3コンシェルジュ 高橋 睦

いかがでしたでしょうか?

今回は「従業員の解雇と退職」についてのお話でしたが、自分が想像していた以上に雇用者は守られていることを実感しました。

「人」のこと、「人事」のことの問題は、まだまだ他にもありそうですよね。 実際に起きてしまったこと、これから起こりそうなことについての情報を共有していただくことと、専門家に依頼してアドバイスを受けていただくことをお勧めいたします。

次回は「こんなときどうすればよいですか?」労務編-第2回をお届けします。

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