■ 今後の影響について
親の死後、財産の分割をめぐる争いを機に兄弟の仲が急に悪くなり、いわゆる「相続」が「争続」となり、長い間「遺産分割」協議ができないことも数多くあります。 以前の判例に従えば、「遺産分割」の協議ができないときでも、「法定相続分」の現金を引き出すことが可能でしたが、今回の判決で預貯金が「遺産分割」の対象に含まれたことにより、今後は「遺産分割」協議が整わないケースでは、銀行が預金の引き出しに応じないということが十分に考えられます。 当てにしていた親の財産が入らないことにより、相続人が資金不足となるケース、相続税申告期限10か月を過ぎても分割ができない場合、相続税を納付できなくなるケースも想定されます。
■ 対応策
対応策として、「遺言の作成」や、最近少しずつ注目されてきました「民事信託の利用」などもありますが、全ての財産分割を決めるのは労の多いことになりますので、非常に簡単な対応策として、財産の一部を「生命保険契約」にすることが考えられます。 あまり知られていないことですが、個人契約の生命保険では、受取人に払われる生命保険金は、「受取人固有の財産」として取り扱われます。 「受取人固有の財産」は「遺産分割の対象外」となり、相続発生後、遺産分割協議の状況に関わらず、受取人が自由に保険金の請求をすることが可能です。 契約者は受取人を自由に指定でき、その変更もいつでも可能です。 そこに契約者の意思を十分に反映することができます。 預金の一部を生命保険契約に変えておくことにより、兄弟間のトラブルなど、親の生前に想定できないことに備え、相続後いつでも保険金という現金を得ることが可能となります。 親の負債が多い場合に相続放棄をしても、「受取人固有の財産」である生命保険金は受け取ることが可能なのです。 親が契約者・被保険者、受取人が相続人である場合などの個人保険の場合、保険金で受け取った額の内、法定相続人の数×500万円については相続税が掛かりません。 すなわち、相続人が4人のとき、2,000万円については相続税が掛からないことになります。 これは相続税法12条に規定されているのですが、相続税を払う相続人においても、現在、この相続税法12条があまり活用されていません。 非常にもったいないことだと思います。 このように相続という観点では、多くの良い点がある生命保険契約ですが、いくつか注意点についてお話させていただきたいと思います。
■ 生命保険を活用される際の注意点
- 一つの保険契約の受取人を子供二人にした(長男50%、次男50%)契約の場合、被保険者死亡に伴う保険請求時には、長男、次男がそれぞれ保険会社に請求できるわけではなく、二人が協議、どちらかを代表に決め、その人が保険会社に請求、保険金はその代表者の口座に振り込まれるのが一般的です。
もし二人の仲がこじれていれば、いつまでも保険金の請求ができないこともあり得ます。 要は、一つの保険契約(保険証券)に一人の受取人を設定することが、問題を起こさないことにつながります。
- 生命保険は、原則的には「特別受益」となりません。 ただし、平成16年10月29日の最高裁判決のとおり、全相続財産の内、あまりに多くの部分を生命保険契約とした場合など、その保険金の受取人とそれ以外の相続人間で、著しい不公平が認められるときには、保険金は「特別受益」とみなされ、「持ち戻しの対象」となることがあります。
すなわちその保険金を考慮して、相続人間で分割されることもあり得るのです。
以上、平成28年12月19日の最高裁判例による変更と今後の影響、その対応策について解説をさせていただき、生命保険契約の活用についてもお話をさせていただきました。
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