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m3コンシェルジュ 渡邉 邦広

リスクマネジメント・ラボラトリー

渡邉 邦広

皆さま、こんにちは。 m3コンシェルジュ、リスクマネジメント・ラボラトリーの渡邉です。

最高裁の判例が出された翌12月20日の新聞に、「相続に関して最高裁が判例を変更」についての記事が掲載されておりましたので、ご覧になられた先生方もいらっしゃると思います。

今回は、その変更内容をご説明し、今後の影響とその対応策について、お話をさせていただきたいと思います。

相続に関して最高裁が判例を変更
平成28年12月19日の最高裁判例
今後の影響とその対応策について

相続に関して最高裁が判例を変更

平成28年12月19日の最高裁判例
今後の影響とその対応策について

■ 今回の変更内容

最高裁大法廷は12月19日、これまでの最高裁判例を変更して、「預貯金は遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」との決定を出しました。

すなわち、これまでは、不動産・株式などの財産は「遺産分割」の対象、一方、預貯金は昭和29年及び平成16年最高裁にて「法定相続分」で分割との判断を出しておりましたが、今回の判例で、預貯金も「遺産分割」の対象となる旨を示しました。

「法定相続分」の分割とは、相続人が配偶者と子供二人の場合、配偶者1/2、子供が各1/4(合計1/2)というように、民法900条に記載された分割割合通り分割する方法。


■ 今後の影響について

親の死後、財産の分割をめぐる争いを機に兄弟の仲が急に悪くなり、いわゆる「相続」が「争続」となり、長い間「遺産分割」協議ができないことも数多くあります。

以前の判例に従えば、「遺産分割」の協議ができないときでも、「法定相続分」の現金を引き出すことが可能でしたが、今回の判決で預貯金が「遺産分割」の対象に含まれたことにより、今後は「遺産分割」協議が整わないケースでは、銀行が預金の引き出しに応じないということが十分に考えられます。

当てにしていた親の財産が入らないことにより、相続人が資金不足となるケース、相続税申告期限10か月を過ぎても分割ができない場合、相続税を納付できなくなるケースも想定されます。


■ 対応策

対応策として、「遺言の作成」や、最近少しずつ注目されてきました「民事信託の利用」などもありますが、全ての財産分割を決めるのは労の多いことになりますので、非常に簡単な対応策として、財産の一部を「生命保険契約」にすることが考えられます。

あまり知られていないことですが、個人契約の生命保険では、受取人に払われる生命保険金は、「受取人固有の財産」として取り扱われます。 「受取人固有の財産」は「遺産分割の対象外」となり、相続発生後、遺産分割協議の状況に関わらず、受取人が自由に保険金の請求をすることが可能です。

契約者は受取人を自由に指定でき、その変更もいつでも可能です。 そこに契約者の意思を十分に反映することができます。 預金の一部を生命保険契約に変えておくことにより、兄弟間のトラブルなど、親の生前に想定できないことに備え、相続後いつでも保険金という現金を得ることが可能となります。

親の負債が多い場合に相続放棄をしても、「受取人固有の財産」である生命保険金は受け取ることが可能なのです。

親が契約者・被保険者、受取人が相続人である場合などの個人保険の場合、保険金で受け取った額の内、法定相続人の数×500万円については相続税が掛かりません。 すなわち、相続人が4人のとき、2,000万円については相続税が掛からないことになります。

これは相続税法12条に規定されているのですが、相続税を払う相続人においても、現在、この相続税法12条があまり活用されていません。 非常にもったいないことだと思います。

このように相続という観点では、多くの良い点がある生命保険契約ですが、いくつか注意点についてお話させていただきたいと思います。


■ 生命保険を活用される際の注意点

  1. 一つの保険契約の受取人を子供二人にした(長男50%、次男50%)契約の場合、被保険者死亡に伴う保険請求時には、長男、次男がそれぞれ保険会社に請求できるわけではなく、二人が協議、どちらかを代表に決め、その人が保険会社に請求、保険金はその代表者の口座に振り込まれるのが一般的です。

    もし二人の仲がこじれていれば、いつまでも保険金の請求ができないこともあり得ます。 要は、一つの保険契約(保険証券)に一人の受取人を設定することが、問題を起こさないことにつながります。
  2. 生命保険は、原則的には「特別受益」となりません。 ただし、平成16年10月29日の最高裁判決のとおり、全相続財産の内、あまりに多くの部分を生命保険契約とした場合など、その保険金の受取人とそれ以外の相続人間で、著しい不公平が認められるときには、保険金は「特別受益」とみなされ、「持ち戻しの対象」となることがあります。

    すなわちその保険金を考慮して、相続人間で分割されることもあり得るのです。

以上、平成28年12月19日の最高裁判例による変更と今後の影響、その対応策について解説をさせていただき、生命保険契約の活用についてもお話をさせていただきました。

m3コンシェルジュ 渡邉 邦広

いかがでしたでしょうか?

平成28年12月19日の判例については、相続のとき、もめずに分割協議ができれば、何ら問題が生じるものではありません。

ただし、先ほども同様なことを述べましたが、今、仲の良い兄弟でも、将来結婚して子供ができ、兄弟の内一人が死亡してしまえば、遺産分割協議にその子供が入るケースや、親の生前に一人が父親から多額の援助を受けた場合などは「特別受益」を考慮した相続分割を他の兄弟から要求されるケースなど、様々なケースが想定されるのです。(民法903条 特別受益)

予想ができない将来ではありますが、想定できる範囲内で、もめる可能性をできるだけ排除していくことが相続の基本です。

なお、相続対策や生命保険契約については、専門家に相談の上、対応されますようお願いいたします。


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