こんにちは。 「TOMA税理士法人」、「TOMA医療コンサルタンツグループ」の西條 玲子です。 5回目の今回は、クリニックの開業時から重要な担い手であるスタッフの確保について、どのようなことに留意したら良いか、について紹介したいと思います。
■ ソレダメ失敗事例
開業を控えた分院長のAドクター。 ある医療法人で5年ほど分院長としてお世話になりましたが、この分院の近くに開業することが決定しました。 これまで院長として地域密着で真摯に診療してこられたこともあって、「開業場所が分院のそばなら患者が来てくれる!」との自信もありました。 加えて、A先生はスタッフからもとても信頼があり、分院長に就任してからスタッフとのトラブルもほとんどなく離職率も高くない状況が続いていました。 そこで、共に働いてきたスタッフの一人である看護師に、「近隣で開業することになった。 ぜひ、一緒に新しいクリニックでがんばってみないか?」と誘ってみました。 看護師もAドクターの診療への思いに共感していたため、退職してAドクターの新クリニックで働くことになりました。
■ 理事長への相談なしに
順調にスタートしたように見えましたが、実際は相当もめることになりました。 その大きな原因は、
- 経営者である医療法人の理事長にほとんど相談なく独立開業を決めてしまったこと
- その独立開業先が分院と診療圏が重なるため、患者の多くが開業先に移ってしまったこと
- 有能なスタッフの一人である看護師を引き抜いて雇用してしまったこと
の三つにあります。 すべては事前に理事長に相談し、地域で共存していく連携体制をとる方向で話し合っていれば理事長を怒らせずに問題なく済んだことかもしれません。 Aドクターは医療法人の分院長「管理者」ですから、その医療法人において「理事」(=役員)となっているはずです。 つまりは道義的な振る舞いも当然のことながら、「理事」としての行動にも問題があります。
■ 医療法の改正
先般、医療法の改正があり、医療法人における理事の法的な位置づけが明確になりました。 たとえば、
- 退任予定の理事(医師)によるスタッフの引き抜き
- 退任予定の理事(医師)が開業予定の案内を患者に配布する
- 理事(医師)が別の医療機関に患者を誘導する 等々
このような行為は忠実義務違反、競業・利益相反取引制限違反として、損害賠償責任を追及される可能性が出てきました。 今回の事例も、開業にあたってはよく聞くケースですが、新医療法下では最悪の場合、元の勤めていた先から損害賠償で訴えられることになるかもしれません。 開業にあたっては、お世話になった医療機関と、どうやって連携をとっていくかということも念頭におく必要があります。 余談ですが、現在、勤務先で理事として、いわゆる名義貸しのような行為をしている場合も要注意です。 理事の損害賠償責任リスクが増大しているとも言われており、理事ではあるが特段何もしていないなどの場合は理事としての「任務懈怠」と判断されてしまうこともあるかもしれません。 身に覚えのある方は今のうちに専門家に相談してみてはいかがでしょうか?
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