最終回は「クリニックならではの人事労務 後編」として、『クリニックの労務管理』をお伝えします。 M&Aの最終契約が締結されたら、いよいよ開業、診療開始となります。 従業員を1人でも引き継ぐ場合は、事前に労務管理のすり合わせを行うことが必要になります。 主に給与、労働時間、休日休暇、勤怠管理、退職についてです。 これらの労務管理は、従業員を引き継がない場合やM&Aによらない開業の場合でも、管理者としての重大な業務の一つです。
■ クリニックの労務管理とは
勤務医時代は看護師や事務スタッフ等も同じ雇われる側であったのが、これからは雇う側として労務管理をし、従業員の要求や不満を正面から受けなくてはならなくなります。 勤務医時代は「長時間労働が当然で休日出勤もよくある状況にもかかわらず、残業代等は請求していなかった」「有給休暇はほとんど取ったことがない」というお話をよく耳にします。 しかし、そのような経験を基にした労務管理では、現在の労務管理との間に大きなズレが生じることになります。 最近では「ブラック企業」という言葉が広がり、労働者の権利をインターネット等で自由に検索し情報を得ることができるため、従業員の労働条件に関する知識・意識も高くなっているからです。 また、平成26年の医療法の改正により、「医療機関の管理者は、当該医療機関に勤務する医療従事者の勤務環境の改善その他の医療従事者の確保に資する措置を講ずるよう努めなければならないこと」という努力義務規定が創設され、国も医療従事者の労働条件の改善に取り組む姿勢を示しています。 クリニックの労務管理は特に複雑、厄介と言われて久しいですが、しっかりとすり合わせをすることで開業後のクリニック運営をスムーズに導きます。
■ 労務管理の内容
「給与」は、従業員にとって一番の関心事です。 不安や不満を抱かせないためにも、引き継いだ当初は引き下げないことが基本的な対応になります。 しかし、承継前の給与が高すぎる等の理由で変更が必要となることもあります。 その場合は、1年程度の移行期間を経てから適正な給与水準に変更しますが、慎重な対応が必要です。 これとは逆に、承継前の給与があまり高くない場合は、最低賃金を上回っているかどうかを確認する必要があります。 ここ数年は政府の意向で、毎年大幅に最低賃金が引き上げられていますので、2年ほど前であれば平均的な額のパート従業員の時給が、現在の最低賃金を下回っていたということもあり得ます。 「労働時間」は診察時間と連動しますので、承継後に診察時間を変更する場合には必然的に変更となります。 午後の診察開始時間が承継前よりも遅い場合や、診察時間が長くなる場合は早番遅番制にする等柔軟な勤務体制を取り入れることも必要です。 「休日休暇」については、最近は休日の多いクリニックや、有給休暇の取得しやすいクリニックで従業員の定着率が高い傾向にあります。 平成27年7月に独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表した「労働時間や働き方のニーズに関する調査」の、正社員である以上仕事以外の時間を犠牲にしてもできる限り会社に貢献すべきだ(22.3%)に対し、正社員であっても仕事以外の時間はしっかり確保し一定の範囲で会社に貢献すべきだ(74.6%)という調査結果に表れているように、休日等仕事以外の時間も大切だと考える従業員が多いことは明らかです。 (出典元: 独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働時間や働き方のニーズに関する調査(平成27年7月)」 http://www.jil.go.jp/press/documents/20150727.pdf) また、夏季休暇や冬季休暇についても、「従業員から不満が出るので長めにする」と1週間近く休むクリニックも増えています。
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