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全3回⇒6回シリーズ「院長先生の相続・事業承継」

第3回目 「医療法人のM&A」

m3コンシェルジュ 佐々 宏人

リスクマネジメント・ラボラトリー

佐々 宏人

新年明けましておめでとうございます。 m3コンシェルジュ、株式会社リスクマネジメント・ラボラトリーの佐々と申します。 本年も皆様のお役に立てるような情報を発信してまいりたいと思っております。 よろしくお願いいたします。

今回は「院長先生の相続・事業承継」シリーズ最終回「医療法人のM&A」です。

執筆は、東海3県を中心に500件超の医療機関を支援している医療特化の会計事務所、税理士法人ブレインパートナーの上條佳生留税理士です。

先般出版された「院長先生の相続・事業承継・M&A」より、あるドクターと税理士の会話形式で事例をお届けします。

それでは、どうぞ。

■ 医療法人を手放す決断をしました。 どのように進めたらよいでしょうか?

  • 院長
    「うーん…。 医療法人を手放す決心をしたものの、買収相手のこともそうだけど、金額面でも適正価格なのかどうか。 また、患者さんやスタッフのことを思うとね、本当に不安なんだよ。」
  • 税理士
    「日常的なテーマではないだけに、それは当然のお気持ちですよ。」
  • 院長
    「そもそもM&Aにはどんな手続きが必要なのかも全く知らないし、誰に相談していいのかもわからなくてね。 とにかく不安は募るばかりだよ。 新聞なんかで見ると仲介業者などの成功報酬はかなりの金額みたいで、我々にはその金額が実態に見合ったものなのかどうなのか、という判断は難しいからね。

    例えば財務面もそうだけど歴史面、将来性などが十分に考慮されて、少なくともこちらが不利になることのない適正評価になっているのかということが一番の気がかりなんだよ。 本当にどうしたらいいのかな?」

【解説】
医療法人のM&Aは一般的に、(1)秘密保持契約 (2)マッチング (3)基本合意 (4)出資持分譲渡契約 の流れで行われます。 この中で一番時間がかかるのは、何と言っても譲る側である院長がM&Aを決断してからマッチングまでの期間です。

そして一番神経を使うのは秘密保持です。 うわさが流れると従業員への誤解を生み、患者さんへ不安を与えるなどの悪影響が生じることを念頭におかなければなりません。

買い手探しは、会計事務所、銀行、仲介業者を通じて承継してもらう医師を探すことが多いのですが、金額的な条件が折り合わず最終の契約まで数年かかってしまう例もあります。 M&Aは売り手と買い手の双方に利益がないと成立しません。

この取引自体が純然たる第三者間での譲渡ですから、「売り手は高く売りたい、買い手は安く買いたい」という利害の一致点である市場価格が譲渡価格となります。

1. 譲渡価格を決めるポイント

まずは、譲る側の意思表明が出発点です。 そして、「譲る側が受け取れる金銭評価はいくらなんだろう?」ということが関心事になります。

具体的には、譲る側の理事長は、医療法人が持っている全ての金融資産から、従業員の退職金の支給見込額を控除した残りの部分を自身の退職金とし、医療法人の資産の中味をいったんカラにします。 生命保険契約や車両などは退職金の現物支給としてもよいでしょう。 そして、理事長交代前に自身の退職金の支給額を確定しておきます。

この時点で医療法人の時価は、設備や医療機器等を除いてゼロに近い状態になります。 ここに営業権を加算するのが最も一般的な方法です。 資産の中に建物がある場合、売る前に耐震補強をしておくことで、買い手もつきやすくなります。

2. 営業権の価格の算出基準

営業権の価格の考え方としては以下の通りです。 ただし、ここに挙げるのは例であり、前段で説明したとおり唯一の方法ではありません。

1. 診療報酬基準
 診療報酬の6カ月分

2. キャッシュフロー基準
 (税引後当期利益 + 減価償却費)× 3年分

3. 純資産基準
 資産の時価 ― 負債の金額

3.  M&Aのポイント

譲り受ける先生の側から見ると、実際は黒字経営ですが、前理事長の退職金計上により赤字スタートとなることが多く、「欠損金の繰り戻しによる還付」を使うことにより納税の負担が軽減されますので、それにより承継当初の資金繰りも助かるのではないでしょうか。

M&Aを進める上で大事なポイントは、医業のM&Aに強い会計事務所を先に決定しておくことです。 専門知識が不十分であることは交渉する上で大きなハンデとなり、常に不安が伴います。

また、できるだけ個人の持ち出しを少なくしたい、できれば個人で借り入れをしたくない、買取資金そのものを医療法人で借りられないだろうか、などの考えがある場合は、早期の段階で専門家を交えた銀行との打ち合わせが必要になります。 譲る側、譲られる側双方の会計事務所同士でコンセンサスを得て進めることが、実は一番低コストで安全確実であると言えます。

もうひとつ重要なことは、労務の諸手続きです。 承継時の労働保険や社会保険などの様々な手続きは非常に複雑です。 これらを院長先生が独力で行うのは困難を極めます。 専門家である社会保険労務士に、労働基準監督署、ハローワーク、年金事務所等の手続きをまとめて依頼すれば、問い合わせや届出の手間が省けます。

また社会保険労務士は労務管理の専門家でもあります。 承継時に就業規則、給与規定などの見直しをする場合は特に慎重に行う必要がありますので、適切なアドバイスを受けるとよいでしょう。

M&Aの手法は、当事者双方にとって利益となるべき重要な経済行為です。 実務的に言えば、そのことを実現するための法律行為、契約行為ということになります。 体系だった利害調整の中で最も大切なことは、「部分最適」であってはならないということです。 売り手買い手双方にとって、「全体最適」であることが目指すべきゴールでしょう。

税務会計に精通した会計事務所がそのコーディネーター役を担い、そのプロセスの中で必要に応じて専門家の知見を取り入れ、適宜ご判断いただくような流れを作ることが理想です。

m3コンシェルジュ 佐々 宏人

いかがでしたでしょうか?

ともすると「部分最適」になってしまうM&A。 「全体最適」を目指すためにも、M&A等医療アドバイス経験の豊富な税理士法人ブレインパートナーに相談してみてはいかがでしょうか?

尚、「院長先生の相続・事業承継」は3回シリーズの予定でしたが、お蔭様でお問い合わせをとりわけ多くいただきましたので、3回延長しまして6回シリーズにてお届けいたします(次回は4月からスタートいたします)。 どうぞ、よろしくお願いいたします。

  ⇒ 税理士法人ブレインパートナー へ相談