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m3コンシェルジュ 佐久間 洋

リスクマネジメント・ラボラトリー

佐久間 洋

皆様、こんにちは。 m3コンシェルジュ、株式会社リスクマネジメント・ラボラトリーの佐久間です。

今回から隔月で6回に分けて『クリニック開業時の「しまった」事例』についてお届けします。

執筆はm3.comに掲載されている、「TOMA税理士法人」のヘルスケア事業部の皆様にお願いしました。

TOMA税理士法人のヘルスケア事業部は「医療・介護の経営支援」に特化した部署を設けて25年以上、病院・医院、施設を取り巻くあらゆる問題に対応した経営&税務のコンサルティングを提供されております。

一回目の今回は「開業費」についてです。 それでは、どうぞ。

クリニック開業時の「しまった」事例
1/6回目 開業費

クリニック開業時の「しまった」事例

1/6回目 開業費

  皆さま、こんにちは。 TOMA税理士法人ヘルスケア事業部です。

  今回より、クリニック開業時の「しまった!」事例を、隔月にて6回にわたってご案内していく予定です。  第1回目は、「開業費」にまつわる事例をお伝えいたします。

 

■ 開業費がない!?

  クリニック開業1年目のA先生が、確定申告の相談にいらっしゃいました。 A先生は大変にチャレンジ精神旺盛な方で、クリニック開業の一連の手続きや交渉もほぼ独力でやりとげたとのこと。 クリニック開業・経営に関する書籍にもかなり目を通したとのことでした。

   勤務医時代にも確定申告は自分で行っており、開業後クリニックの経営が軌道に乗るまでは自分で確定申告を行い、経費を抑えようと考えていたそうです。 クリニック経営について猛勉強された成果が出たのか、当初の予想以上に患者数が伸びていました。

   そんな中、経理処理を自分で行わなければならないことが想像以上の負担で、確定申告を自力で行うことが難しいと判断し、確定申告は税理士に依頼しようと思い直したそうです。

   資料を一通り拝見しましたところ、さすがによく勉強されているだけあって、開業後の日計表、出納帳などもしっかりしており、領収書の整理もきちんとされていました。

   しかし1つ気になる点が…

   開業前の費用が内装や医療機器といった、いわゆる減価償却資産しか見当たりません。 「開業費となる領収書はありませんか?」と聞いてみたところ、「開業費って、開業後のものしか認められないのでは?」とのご返事。

   どうやら、法人の開業費との混同があったらしく、開業後に支出したものでないと開業費にならないと思い込んでいたようでした。

   個人事業における開業費についてご説明させていただき、早速、開業費に計上できる費用の領収書を集めてもらいました。 幸いにも、比較的大きな金額の費用については、開業時の書類をひとまとめにした保存箱に保管されておりました。

   ただ、交際費、消耗品費など比較的少額の領収書については残っておらず、A先生もいつどこでどんな支出があったかを記録していなかったことから、残念ながら領収書のない支出は経費計上できないこととなりました。

   「もしかすると、捨てた領収書の金額を合計したら、専門家に相談した場合の報酬よりも高くなっているかもね。」とA先生は苦笑されていました。

 

■ 開業費のポイント

1. 開業費とは?

  個人事業における開業費とは、個人事業(不動産所得・事業所得等)を開始するまでに開業準備のために特別に支出する費用を指します。 開業のための費用ならば該当するため、開業を考えた日以降の支出であれば、開業費に計上できる可能性はあります。

   「開業の何年前までの支出までしか認められない。」といった期間制限はありません。 もっとも、あまりにも古い経費は、本当に開業のための費用であるか疑いを持たれやすいため、しっかりとした根拠資料を揃えておくことが重要です。

   法人にも開業費はありますが、こちらは「法人の設立後事業を開始するまで」の間に支出する費用のことをいいます。 同じ「開業費」という名称であってもその範囲が異なるため、混同が生じやすいところと言えます。

   個人事業か法人かによって会計処理や税務的取扱いが異なるものは他にもありますので、他院の事例等を参考にされる際は、個人であるか法人であるかを必ず確認する必要があります。

2. 開業費の償却

  開業費は、原則として5年間での均等償却となります。 しかし、開業費の大きな特長は、支出した金額の範囲内の任意の金額を、その年における償却費として計上することができることです。 償却をゼロとしても、残額を一度に償却しても構いません。 所得調整ができるため、たいへんに使い勝手のいい経費です。

   クリニック開業当初には、事業所得が低くなる、あるいは赤字になることも珍しくありません。 開業当初には開業費をあえて償却せず、翌年以降に回してしまう方が税務上得策であることが多いです。(いつ償却すべきか個々の事情によりますので、詳しくは専門家にご相談ください)

   なお、このように任意償却をするためには支出した開業費の額を確定申告書に記載することが要件となっています。 専門家に依頼せずにご自身で確定申告を行う際はこの点を特にご注意ください。

3. どのようなものが開業費になるか

   例として、開業のために支払った以下のものが開業費になります。
  • 開業セミナー参加費用、書籍購入費用
  • 開業前に支払ったクリニック家賃、水道光熱費
  • 開業のためのWebサイト作成費、チラシ作成費
  • 打合せのための飲食代や交通費
  • 挨拶のための手土産代
  • 文房具等の事務消耗品費

   もちろん、これ以外にも様々な費用が考えられます。 勤務医時代の支出であっても、開業のための支出はしっかりと把握しておきます。 なお、開業前の支出であっても、資産計上した上で減価償却すべきものや、他の勘定科目で処理すべきものも多々あります。 開業前の支出全てが開業費となるわけではありませんので、お気をつけください。

4. 保管と記録が重要

  開業費に限りませんが、経費として認められるためには領収書が必要です。 また、領収書だけではそれが本当に開業のために支出したものであるか判断できません。 支出の内容や相手先などは、支出の都度しっかりと記録しておき、それが開業費に該当することを説明できるようにしておきます。

5. まとめ

  開業費は、任意の時期に任意の金額を償却できるため、税務上たいへん便利なものです。 しかしそのためには、領収書の保管と内容の記録が必要となります。 開業後は領収書を保存していくことになりますが、勤務医時代は領収書を保存する意識があまり無いかもしれません。

   開業を決意されたならば、とりあえず開業関連の支出の領収書はまとめて保管しておいてください。 領収書と記録があれば、開業費に該当するかどうか不明である場合には専門家に判断してもらうこともできます。

   開業にあたっては、気をつけるべき事項が多数ございますので、お早めに専門家に相談されることをお勧めいたします。

m3コンシェルジュ 佐久間 洋

いかがでしたでしょうか?

開業費のみならず、知らないことでの機会損失はできるだけ避けたいものです。

ご開業を検討される際は税務面での相談先を早めに決められると良いかもしれません。

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