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コンシェルジュ 宮地 孝郎

リスクマネジメント・ラボラトリー

宮地 孝郎

こんにちは、m3.com上において、株式会社リスクマネジメント・ラボラトリーのコンシェルジュを務めている宮地です。 最近は、第三者からクリニックを引き継ぐ、【第三者承継】で開業するケースが多くなりました。 新規と承継は、どちらが良いかと聞かれます。

承継の場合は、ローコスト開業・医療法人でのスタート・有床での開業が可能などのメリットが並べられますが、新規・承継どちらも本質的な判断基準は患者数がどれくらい期待できるかではないでしょうか。

求められる地域であれば新規開業でも当初から多くの患者数が期待できます。 承継であっても地域の人口は減少、承継元の患者数も近年、著しく減少しているのであれば期待はできません。

第三者承継を検討される場合には様々な情報に錯乱してしまうことがあるので、今回は『第三者承継の教科書』と題して川庄公認会計士事務所の渕上さんにお願いしました。

それではお願いいたします。

第三者承継の教科書

第三者承継の教科書

皆さま、こんにちは。川庄公認会計士事務所の渕上です。 理事長(院長)がご高齢になり事業を承継したいが、親族に後継者がいないため、事業を買取ってくれる人を探す開業医が増えてきました

競合過多な地域では承継開業を希望される先生も多く、お互いにニーズがあるため、第三者承継は今後、益々増えるのではないかと感じています。 同様に失敗や後悔をするような話も伺います。

本日は見極めるポイントを見ていきたいと思います。

 

(1) 1日当たりの来院患者数

現在の来院患者数を把握することによって、どのくらいの収入を見込めるかおおよそ把握することができます。

  • 新規開業の場合
    診療圏調査などを活用し、あくまでも見込みの来院患者数で検討。
  • 承継の場合
    現時点の来院患者数を実績にて予測可能。

事例1: 新規開業の場合
開業1年目の売上高 1000万円 (診療圏調査結果と大幅にかい離)
開業5年目の売上高 4800万円 (認知までに年数を要す)

事例2: 第三者承継の場合
承継前 最終年の売上高 8000万円
承継後 1年目の売上高 7000万円

極端な事例ではありますが、承継の場合には実績の数字と大きくかい離がなく、新規開業の場合には、認知されるまでに時間を要すことがわかります。

ここが承継開業の最も大きなメリットですが、全てが円滑にいくわけではありませんので、その他にもポイントを見てみましょう。

 

(2) 診療方針・コンセプト

科目が同じであっても承継元と全く同じ診療(治療)方針になることはありません。 前院長と診療方針が変わることで、離れていく患者さんも少なくありません。 前売上高をリカバリーするためにも、専門的な診療や自費診療を導入するなど戦略性が必要となります。

 

(3) 土地・建物の所有者は誰か

今後のキャッシュフローに大きく影響する項目です。 組み合わせは様々存在します。



BとCの場合には、新たな借入金・法人の場合は借入金を継続して返済が必要です。 また前理事長の退職金で支払うなどで営業権(のれん代)を上乗せして払うケースもあるので、新規開業と変わらない借入金が発生することも大いにあります。

築年数の古い建物を承継する場合は、頻繁に修繕が必要となるケースもあるので、資金計画に盛り込んでおくことも必要です。

 

(4) 現状の医療機器の状態

医療機器の場合は、新旧で価値は異なりますが、継続して使用できるものであれば初期のコストの面では大きなメリットです。 しかし医療機器の状態・保守料・契約状況を確認しておかなければ思わぬところで、資金繰りの誤算が出るかもしれません。 しっかり確認しておいてください。

 

(5) 現在の職員への対応

個人事業を引き継ぐ場合は、新規開業の手続きと同じとなるため現在のスタッフを引き続き雇うか否かは面接等をして判断できます。

一方、医療法人を引き継ぐ場合は医療法人として雇用しているため、一般的には継続雇用が前提となり、職員の年齢・資格・患者さんへの接し方などの働き方などの現状も把握しておく必要があります。

人の悩みが付きものなのが医療経営です。 人材確保が約束されている反面、長年の社内文化ができていますので、悪い文化が根付いている場合には改善するまでに、苦労されることがあるでしょう。

ただ新規開業に比べ人材採用の間接コストを考えると、職員がいることは承継のメリットと言えるかと思います。

 

(6) 個人開業医か、医療法人か

  • 個人開業の場合
    ・ 事業内容の引き継ぎが可能
    ・ 通常の新規開業と同様、保健所への届出書、社会保険事務所への保険医療機関指定申請書など多数の書類の作成・届出が必要
  • 医療法人の場合
    ・ 事業内容の引き継ぎが可能
    ・ 理事長交代を行い、保健所へ理事長変更の届出をすれば引き継ぎをすることができる。

 

(7) 医療法人の場合、「持分ありの医療法人(経過措置型医療法人)」か「持分なしの医療法人(基金拠出型医療法人)」のいずれか

  • 経過措置型医療法人(持分あり)
    利益が剰余金として年々蓄積されているため、出資金の評価が上昇している可能性あり。
  • 基金拠出型医療法人(持分なし)
    出資持分の概念がないため、前理事長の役員退職金が承継の金額となるが多い。

 

(8) 病床の有無

ニーズとしては多くありませんが、病床が必要にもかかわらず承継元の医療法人に病床がない場合は新たに病床の申請をする必要があります。

しかし、都道府県では基準病床数が決まっているため、すでに基準病床数を超えていれば申請しても保留となってしまいます。

よって、病床が必要な診療を検討している場合は、承継元の病床の有無についても確認してください。

  • 個人事業
    病床を有している診療所から承継しても、新規開業と同じ扱いのため、申請が必要
  • 医療法人(病床なし)
    病床がない場合は新たに病床の申請が必要
  • 医療法人(病床あり)
    病床を有している場合はそのまま引き継ぐことが可能

 

■ 医療法人を承継する場合の留意点 (チックリスト)

医療法人は個人とは別人格≒理事長(代表者)の変更があっても医療法人は同一人格となります。 医療法人を承継する場合は、その医療法人の過去についても責任を取らないといけない場合もあるので注意してください。

[チェック項目]
チェック項目

一般企業でもM&A後に実は買収した企業には多額の負債があったなどで業態が悪化する企業もあります。

承継後に「実は・・・」ということがないように、仲介業者の見極めも重要ですが、上記の点を踏まえて紹介前に以上の項目は確認依頼をしてください。

コンシェルジュ 宮地 孝郎

いかがでしたでしょうか?

ご縁や相性が左右する第三者承継ですが、承継開業の大きなメリットは、患者数が見込めることです。 ただ新規開業にはない、落とし穴があるのでチェックリストを活用していただければと思います。

いずれは開業する先生ご自身もご勇退を迎えます。 「患者数 = 事業譲渡できる価値」になります。 継続して価値の高いクリニックにするための、開業準備を行って下さい。