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コンシェルジュ 高橋 睦

リスクマネジメント・ラボラトリー

高橋 睦

皆さま、こんにちは。 m3.com上において、株式会社リスクマネジメント・ラボラトリーのコンシェルジュを務めている高橋 睦です。

個人診療所を開業した先生方からは患者数の確保、医療法人の設立をされた先生方からは資金繰りや従業員の人間関係、職場環境の改善など「経営者」ならではのお悩みを打ち明けられることがよくあります。

開業をするということは、経営者になるということです。 知らなかったがために「あの時にやっておけば良かった!」と後悔することのないよう、事前に検討しておくべきことは何かを、一度立ち止まって考えていただければと思います。 (初回の内容はこちら・2回目の内容はこちら

執筆は医療機関・介護施設の税務・経営コンサルティングを専門としている岡本雄三税理士事務所の稲熊 修氏にお願いしました。

それでは、どうぞ。

【医療法人、ここが知りたい!】 第3回
やってみよう!就業規則の作成と社会保険の手続き

【医療法人、ここが知りたい!】 第3回

やってみよう!就業規則の作成と
社会保険の手続き

皆さま、こんにちは。 岡本雄三税理士事務所の稲熊 修です。 毎年10件ほど、医療法人の設立支援をさせていただいております。

近年、医療法人を設立されたばかりの方々からご相談をいただくことが増えてきましたので、その際によくご質問いただく就業規則の作成と社会保険の手続きについてお伝えしていきたいと思います。

 

■ やってみよう!就業規則の作成

医療法人の設立をされた先生からご相談をいただき、就業規則の作成をご支援いたしました。 職員の服務規律、昇給や賞与の査定、退職金に関するルールが曖昧なのでトラブルが起きる前に就業規則を作っておきたいとのご要望でした。

【先生のお悩み事例】

事例 1) 先輩看護師が後輩看護師にパワハラをしているようだ。

 ⇒ 禁止事項を明確にする。

≪解説≫
クリニックは女性が多く派閥が形成されやすい環境です。 仕事を教えない、無視する、罵倒するなどが実際に起きてしまうことも少なくないようです。 このようなスタッフがいることで周りの職員が退職してしまったというお話をよく聞きます。

禁止行為を明確にすることで、職員への注意や指導もしやすくなり、改善されなければ退職を勧告することも容易になります。

≪ご提案した就業規則の記載例≫
職務上の地位や優位性を背景に業務範囲を超える言動により、他の職員に精神的及び身体的な苦痛を与えてはならない。



事例 2) 化粧や身なりが派手になりメディカルスタッフとしてふさわしくないのだが、どのように伝えようか。

 ⇒ 採用時に就業規則を伝える。

≪解説≫
採用後、数か月で身なりが変わることもよくあることです。 就業規則がある場合は採用時に就業規則を告知していたかが重要になります。 これから作成するのであれば完成した際にクリニック全体に周知させることが必要です。

≪ご提案した記載例≫
服装、毛髪、化粧、爪については、患者に対してメディカルスタッフとして清潔感のあるものでなければならない。 マニュキュアやペディキュアは禁止とする。



事例 3) いつも業務を終了後、雑談をしてからタイムカードを押しているが、どのように指導しようか。

 ⇒ 採用時に就業規則を伝える。

≪解説≫
この場合も採用時に就業規則を告知していたかが重要です。 また、どのタイミングで打刻するかについてもルールが必要です。

≪ご提案した記載例≫
職員は業務終了後、速やかにタイムカードを打刻しなければならない。 特別な事情なくユニフォームを着替えた後に打刻をしない、業務終了から時間が経ってから打刻しない。



就業規則に記載する事項は1. 絶対的必要記載事項(労働時間、賃金、退職に関する事項で必ず記載するもの)、2. 相対的記載事項(退職金や安全衛生、表彰などルールを作る場合に記載するもの)、3. 任意記載事項(服務規律を中心に職場独自のルールを記載するもの)と3つあります。

岡本雄三税理士事務所では、クリニックにおける働き方や人間関係のトラブルなど蓄積した事例をもとに、特に任意記載事項を充実させた就業規則の作成を行っています。

 

■ やってみよう!社会保険の手続き

既に法人を設立してから顧問契約をいただく先生からは、健康保険と厚生年金保険のセットでは保険料の負担が大きいとお話を聞くことがあります。

個人経営の診療所が医療法人を設立した場合には、社会保険の加入が必要になります。 社会保険とは、広くは健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険の総称となっておりますが、一般的には健康保険と厚生年金保険の2つを示しています。

健康保険の保険料は給与額が高いほど保険料も高くなる仕組みですので、報酬が100万円を超えることが多い理事長や理事は、保険料が非常に高くなり負担は大きくなります。

ところが、社会保険の仕組みを事前に理解し適切に申請手続きを行えば、保険料が一定額の医師国民健康保険と厚生年金のセット加入ができる方法があります。

それが、健康保険適用除外制度です。

健康保険と医師国民健康保険とでは、負担する保険料と保険給付の仕組みが違います。

健康保険は事業主と従業員とが折半で保険料を負担しますが、医師国民健康保険は事業主が保険料を負担する義務を負いません。

窓口で支払う一部負担金については、健康保険と医師国民健康保険では変わりませんが、出産手当金や傷病手当金などの保険給付は、健康保険の方が充実しています。

健康保険と医師国民健康保険のどちらかを選択する場合には、経営上事業主が負担する保険料を重視するのか、従業員の福利厚生などを重視するのかを、従業員の方の意見も聞きながらじっくりと検討し決めていくことが重要です。

健康保険適用除外制度」の要件は下記の通りです。

  • 医師国民健康保険組合に加入している個人経営の診療所が医療法人の設立をする
  • 常勤の(常勤の方と比して勤務時間が3/4以上のパートタイムを含む)が5人未満である

申請手続き方法」は下記の通りです。

  • あらかじめ医師国民健康保険組合に「適用除外承認申請書」を提出して承認を受ける
  • 個人経営の診療所が法人登記を行う
  • 管轄の年金事務所に「適用除外承認申請書」を提出する

ここで注意が必要なのは、手続きに期日があることです。 適用除外申請は「事実が発生した日から14日以内」に厳格に行わなければなりません。

参考: 愛知県医師国民健康保険組合「加入条件及び必要書類」
http://www.aichi-isikokuho.or.jp

 

■ さいごに

医療法人の設立は診療所を運営していく中で大きな節目となります。 労務管理の面でも賃金や退職金、福利厚生など法人として各種規程を作る絶好のタイミングではないでしょうか。

コンシェルジュ 高橋 睦

いかがでしたでしょうか?

開業した先生は言わば経営者です。 「経営者」として増え続けているクリニックの中でも際立てるような、患者様に信頼してもらえるクリニックを作っていかなくてはなりません。

そのためにはご自身の診療の質を上げることだけではなく、同じように患者様と接する機会のあるスタッフの接客の質も上げていかなくてはなりません。 そのためには就業規則の作成やスタッフとのコミュニケーションの場を意識して増やし、スタッフの教育やマネジメントを行う必要があります。

ですが、人の活動量には限度がありますし、初めて開業する先生がほとんどですので、診療の時間を減らさずに慣れていないことを行うのは容易ではありません。

それに加えて、会計処理の業務も発生します。 スタッフの社会保険料や預かった源泉徴収税の支払い手続きなど、開業前に知っておかなくては、忙しい日々の中で混乱してしまうことがたくさん起こります。

スタッフも先生ご自身も働きやすいクリニックにするため、1度開業前に知っておいた方が良いことを専門家に確認することをお勧めいたします。

今回、執筆をお願いした岡本雄三税理士事務所や当社リスクマネジメント・ラボラトリーでも数多くのクリニック経営のご相談に乗っております。 聞きたいことやお話したいことがある先生はお気軽にご相談ください。

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