皆さま、こんにちは。 岡本雄三税理士事務所の横山 紗也香です。 当事務所では毎年10件ほど、医療法人の設立支援をさせていただいております。 近年、医療法人を設立されたばかりの方々からご相談をいただくことが増えてきました。 実際にいただいたお声の中から、医療法人を設立する前に知っておいた方が良いことをお届けいたします。
■ 個人事業の借入金は、すべて医療法人に移行できないのでしょうか?
診療所を運営するための借入なので、「当然に医療法人に移行できる。」と考えられている先生方は多いのですが、実際はそうではありません。 多くの診療所ではより良い医療を提供するために、高額な医療機器の購入や診療所の増改築、運転資金の確保等の理由で金融機関から借入をしています。 しかし、これらの負債に関しては「負債が財産の従前の所有者が当然負うべきもの…(省略)…医療法人の負債として認めることは適当ではない…(省略)…。(出典: 医政発0531第1号平成24年5月31日)」とされており、医療法人の設立に際して拠出する財産を取得するために借入した負債のみ移行することができるとされています。 つまり運転資金や拠出しない財産を取得するための借入金は移行できず、院長が役員報酬の中から返済をしてくことになります。 参考資料: 医療法施行規則の一部を改正する省令の施行について (医政発0531第1号平成24年5月31日) https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/ iryou/igyou/dl/120531-03.pdf
■ 拠出した基金はすぐに返してもらえないのでしょうか?
基金はいつか返してもらえるお金のため、当然いつでも好きな時に返してもらえると考えられがちですが、実際はそうではありません。 仮に、1,000万円相当の金銭その他の財産(基金)を拠出していた場合、a. 決められたタイミングで決議し、b. 医療法人を設立してから現在までの利益が1,000万円を超えており、c. 決められたタイミングでなければ返してもらうことはできません。 「a. 基金の返還には定時社員総会の決議が必要、b. 貸借対照表上の純資産額が基金の総額 等を超える場合における当該超過額を限度とする、c. 基金の返還は、当該会計年度の次の会計年度に関する定時社員総会の前日まで(出典: 医療法第三十条の三十八)」と決められているからです。 平成19年施行の第五次医療法改正以降新設される医療法人の多くが「基金拠出型医療法人」と呼ばれる医療法人です。 基金とは持分なしの社団医療法人に拠出された金銭その他の財産を指し、基金拠出型医療法人は拠出者に対し基金の返還義務を負っています。 しかし、医療法人を設立する際に個人(多くの場合院長)が、医療法人を運営する上で必要なお金や医療機器等の費用(基金)を拠出していても、基金の返還義務を負う医療法人に拠出した基金の額を上回る利益が貯まらなければ返してもらえないのです。
■ 医療法人を設立したら借りてもいないのに貸付金が発生するのでしょうか?
医療法人からお金を借りたわけではないのに、返済しなければいけないお金が発生してしまうというケースがあります。 医療法人を設立する際には多くの場合、院長先生が個人事業で所有している資産と負債の一部を医療法人に拠出します。 この資産とは医療機器や棚卸資産等を指し、負債とはリース資産や借入金等を指します。 これらのバランスを考えずに拠出し、法人に引き継ぐ負債が法人に引き継ぐ資産よりも多くなると、医療法人を設立した時点で医療法人から院長先生に対する貸付金が発生してしまうのです。 参考資料: 医療法人数の推移について https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000213092_00001.html
■ いくら利益が出たのか誰でも見ることができるのでしょうか?
誰でも諸手続きをとれば医療法人の収支を見ることができます。 平成19年施行の第五次医療法改正において医療法人の公益性・公共性の観点から不特定の第三者が医療法人の決算書類を閲覧できるようになりました。 医療法人は医療法第52条2項においてa. 定款又は寄付行為、b. 事業報告書等、c. 監事監査報告書について請求があった場合には厚生労働省令で定めるところにより、これを閲覧に供しなければならないとされています。
■ さいごに
医療法人の設立は診療所の運営をしていく中で大きな節目となります。 だからこそ「こんなはずではなかったのに!」とならないように、事前に検討しておくべきことや理解しておくべきことに見落としがないかどうか、一度立ち止まって考えていただければと思います。
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