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m3コンシェルジュ 坂下 信也

リスクマネジメント・ラボラトリー

坂下 信也

皆さま、こんにちは。 m3.com上において、株式会社リスクマネジメント・ラボラトリーのコンシェルジュを務めている坂下 信也です。

ご存知の先生方も多いかと思いますが、今年4月1日から「働き方改革関連法」が順次施行されます。 それに伴い、開業医や勤務医の先生方を取り巻く環境はどう変わっていき、どう対応すべきなのでしょうか。

そこで、社会保険労務士としても医療機関に関わらせていただいている、わたくし坂下が、『働き方改革』全般について、今回から3回シリーズでとりあげてみたいと思います。

1回目の今回は、ゴールデンウィークを例に、「長期連休中の医療機関対応」について考えてみます。

【医療機関の『働き方改革』】
第1回 ゴールデンウィーク最大10連休!
医療機関への影響は?

【医療機関の『働き方改革』】

第1回 ゴールデンウィーク最大10連休!
医療機関への影響は?

さて、「平成」が2019年4月30日に終わり、新しい年号が5月1日から始まります。 国は、新年号と新天皇即位を祝う目的で、5月1日を「即位の日」として祝日に決めました。

同時に、5月1日が祝日になったことから、法律によって4月30日と5月2日が「休日」に、5月6日が「振替休日」になり、暦の上では4月27日から5月6日まで最長10連休となる企業も出てくるようです。

しかし、医療業界の場合、患者さんのことを考えると、医療機関すべてが「長期間休診」という訳にもいかず、「この連休の間も必要な医療機能が提供できるよう、地域の実情に応じて充分な体制を講ずるように」と、厚生労働省から達示が出たのはご承知の通りです。

そこで気になるのが、先生方が経営している医療機関や勤めている病院等がゴールデンウィーク中に診療を行った場合、一緒に働いているスタッフは「休日出勤」という扱いなのか、それとも「通常の勤務」扱いなのか…ということです。 それによって、休日出勤手当や割増賃金が発生する場合も考えられるからです。

※ 勤務医の先生方の中には、「自分たちは年俸制だから直接関係ないよね。」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、一緒に働いているスタッフが対象になるため、業務への影響は少なからず出てくると思われます。

 

■ 「国民の祝日」と「国民の休日」は違う?

国は、国民の祝日と休日について、「国民の祝日に関する法律(通称『祝日法』)」で定めています。

それによりますと、第2条に、元旦や成人の日など16の祝日が規定してあり、第3条には、「国民の祝日が日曜日に当たるときは、その日後においてその日に最も近い「国民の祝日」でない日を休日とする。 また、その前日及び翌日が「国民の祝日」である日(「国民の祝日」でない日に限る。)は、休日とする。」と規定してあります。

つまり、二つの祝日の間にある平日は「休日」に、祝日が日曜日のときはその後の一番近い平日が振替「休日」になるということです。 振替「休日」は馴染みがありますが、祝日の間の平日が「休日」になるのは、今回初めて知った方も多いのではないでしょうか。

従って、今回のゴールデンウィークの場合、「祝日」は4月29日、5月1日・3日・4日・5日、「休日」は4月30日、5月2日・6日となります。

就業規則で、「祝日」と「休日」の取り扱いがどうなっているかで、ゴールデンウィーク中の対応や有給休暇の取得・対応方法も異なってきますので、まずはこの違いをご理解いただければと思います。

[ 2019年4月26日から5月7日のカレンダー ]

※ 病棟勤務など24時間体制でシフトによって働く方は、週もしくは月によって勤務と休みが設定されてカレンダーに関係ないため、今回は、外来勤務などカレンダーに関係する勤務の方で考えてみたいと思います。

 

■ カレンダーの「休み」の日 = 休日出勤?

では、カレンダーが「休み(祝日・休日を含む)」だとして、自分たちが働く職場は「休み」となるのでしょうか?

結論から言いますと、就業規則や雇用契約書にどう規定されているかで、医療機関ごとに「休み」の取り扱いが変わってきます。

仮に先生方が、経営または勤務している医療機関の就業規則が、例の「厚生労働省モデル」(図1)の通りになっている場合、その職場の「休み」は、4月28日・29日、5月1日、5月3日~6日となります(図3)。

一方、雇用契約書が例の「厚生労働省モデル」(図2)の通りになっている場合は、就業規則の例にある「日曜日と重なったときは翌日」という文言がありませんので、5月6日は「勤務扱い」となり、その職場の「休み」は、4月28日・29日、5月1日、5月3日~5日となります(図4)。

また、どちらのケースも、契約上は4月30日、5月2日が「勤務扱い」になる可能性が高いということになります。

図1
就業規則の例(厚生労働省モデルより抜粋)

休日
 第20条 休日は、次のとおりとする。
  1. 日曜日
  2. 国民の祝日(日曜日と重なったときは翌日)
  3. 年末年始(12月30日~1月3日)
  4. 夏季休日(8月13日~8月15日)
  5. その他会社が指定する日
2. 業務の都合により会社が必要と認める場合は、あらかじめ前項の休日を他の日と振り替えることがある。

図2
雇用契約書・労働条件通知書の例(厚生労働省モデルより抜粋)

休日
  • 定例日:毎週 日曜日、国民の祝日
  • 非定例日:月当たり5日、その他(12月30日から1月3日)
 ※ 詳細は、就業規則第24条~第25条、第27条~第28 条

[ 厚生労働省モデルの「就業規則」を採用している職場のカレンダー ](図3
[ 厚生労働省モデルの「就業規則」を採用している職場のカレンダー ](図3)

[ 厚生労働省モデルの「雇用契約書」を採用している職場のカレンダー ](図4
[ 厚生労働省モデルの「雇用契約書」を採用している職場のカレンダー ](図4)

 

■ ゴールデンウィーク中に働いた場合、「休日出勤手当」などの賃金が発生する?

就業規則や雇用契約書で、職場の「休み」が確認できました。 では、ゴールデンウィーク中にスタッフが働いた場合、その日の賃金は発生するのでしょうか?

※ 「日給・時給」の場合は働いた分の賃金が発生しますので、「月給」の方で考えてみます。

先ほどの「モデル就業規則」の医療機関を例に話を進めます(図1,5)。
 休み: 日曜日、国民の祝日(日曜日と重なったときは翌日)
 1日の勤務時間: 8時間
 1週間の勤務時間: 40時間

例1
4月30日と5月2日に勤務した場合
その日はもともと「休み」ではなく、またこの1週間はこの2日間しか働きませんので、原則休日出勤手当などの賃金は必要ありません。

例2
4月29日、5月1日、5月3日~6日に勤務した場合
その日は「休日出勤」となりますので、働いた分の賃金が必要になります。 なお、5月5日は「法定休日」出勤となり、法定休日(多くは日曜日)に勤務をした場合、35%の割増賃金が発生します。

図5
基本給: 172,000円(時給換算: 1,000円) 法定休日を日曜日とした場合
基本給: 172,000円(時給換算:1,000円) 法定休日を日曜日とした場合

例1 の場合
・ 賃金は発生しないので172,000円のまま

例2 の場合
・ ゴールデンウィーク中、5月1日(所定休日)のみ勤務した場合
172,000円 + (1,000円/h × 8時間) = 180,000円

・ ゴールデンウィーク中、5月5日(法定休日)のみ勤務した場合
172,000円 + (1,000円/h × 1.35 × 8時間) = 182,800円

一部の医療機関では、1か月単位や1年単位の「変形労働時間制」を採用しているところもあります。 休日出勤手当や割増賃金の発生の仕方もその内容によって変わってきますので、事務担当者もしくは社会保険労務士等の専門家に確認してみてください。


・  1か月単位の「変形労働時間制」
通常、1週間に40時間を超えないように労働時間を設定しなければならないところを、1か月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以内となるように設定できる制度のこと。

あらかじめ労働日および労働日ごとの労働時間を設定することにより、特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間を超えたりすることが認められる。

・  1年単位の「変形労働時間制」
1か月を超えて1年以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以内となるように設定できる制度のこと。

 

■ 「就業規則」や「雇用契約書」が無い場合

スタッフ10人以上の事業所は、就業規則を作って管轄の労働基準監督署に届け出を行わなければなりません。 そして就業規則は、スタッフの目の届く場所に置いておかなければなりません。

また、スタッフが10名未満であっても、採用時や労働条件の変更時は、雇用主側はスタッフに対して書面で労働条件の通知をしなければなりません。 そのときに提示をするのが「雇用契約書」あるいは「労働条件通知書」です。

もし仮に、その両方が整備されていなかった場合は、今回のゴールデンウィーク中の扱いも「今までの慣習に従う」ことになるでしょう。

例えば、今まで祝日も振替休日も休診していた場合は、4月28日から5月6日までは「休日」となり、その間に勤務したスタッフに対しては「休日出勤扱い」となり、賃金が発生することになると考えられます。

 

■ ゴールデンウィークまでに確認すべき対応

就業規則や雇用契約書等があったとしても、その内容と慣習が一致しない場合も考えられます。

例えば、「就業規則の休日」、条文のところに「国民の休日」が含まれていなかったとしても、慣習として休診となっていた場合、スタッフは「今回のゴールデンウィークも休みだ!」と思い込んでいたり、出勤指示をしたとしても、「ゴールデンウィークに出勤するのだから手当がもらえる。」と認識するスタッフもいたりすると思いますので、しっかりとした周知が必要です。

また、次回で詳しく触れたいと思いますが、今年度から「有給休暇取得の義務化(計画的付与)」が始まります。 有給休暇はあくまでも労働日に取得できる権利ですが、ゴールデンウィークが出勤日となっていても、「連休を取りたい」と思うスタッフも出てくるでしょうから、後でトラブルにならないようにシフト管理に注意する必要があります。

m3コンシェルジュ 坂下 信也

いかがでしたでしょうか?

一言で「休日」と言っても、就業規則等にどう定められているかで対応が大きく異なってくるため、早めの確認が必要です。

また、ゴールデンウィークはちょうどレセプト請求の時期も重なるため、医療事務スタッフの出勤の必要性や管理についても同様に早めの確認が必要です。

さらにゴールデンウィーク期間中は、「売上の低下」や「人件費の負担増」が予想されるため、資金繰りに影響が無いように事前に手を打っておく必要があります。

特に開業医の先生方で、「ご自身の想いや現状」と「就業規則」等の内容に相違がある場合は、これを機に顧問の社会保険労務士等に相談してみるのも良いかもしれませんね。

当社、株式会社リスクマネジメント・ラボラトリーや、わたくし坂下に、お気軽にご相談ください。

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