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m3コンシェルジュ 佐久間 洋

リスクマネジメント・ラボラトリー

佐久間 洋

保険医療機関を経営されている先生方にとって、「消費税」は多くの国民が考える以上に影響のある税制です。 保険医療機関の特徴として多くの場合「消費税非課税」の売上の割合が高いため、消費税申告の際、医療機関として受け取った消費税額から控除できるのは支払った消費税額の一部のみとなります。 残りは医療機関が負担している形になり、これがいわゆる「損税問題」となっています。

開業時に何もしなければ消費税課税事業者とはなりませんが、開業時に課税事業者を選択することも可能で、選択するか否かで消費税の損税負担額が大きく異なることがあります。

今回は、「続・クリニック開業時の『しまった』事例」の4回目として、「開業時の消費税課税事業者選択と固定資産購入」についてお伝えします。

執筆は「医療・介護の経営支援」に特化した部署を設けて25年以上、病院・医院、施設を取り巻くあらゆる問題に対応した経営&税務のコンサルティングを提供している「TOMA税理士法人」のヘルスケア事業部の方々にお願いしました。

「続・クリニック開業時の『しまった』事例」 第4回
開業時の消費税課税事業者選択と固定資産購入

「続・クリニック開業時の『しまった』事例」 第4回

開業時の消費税課税事業者選択と
固定資産購入

皆さま、こんにちは。 TOMA税理士法人ヘルスケア事業部です。

今回は続・クリニック開業時の「しまった」事例第4回として、「開業時の消費税課税事業者選択と固定資産購入」について お伝えします。

■ 税額が増加してしまった!

新規開業したA先生。 初年度は医療機器の購入が多く、支払う消費税の額もかなり高額となる見込みでした。 先輩開業医の「開業当初に消費税課税事業者を選択したら還付を受けられた。」との経験談を参考にして消費税課税事業者を選択。 これにより、初年度はめでたく消費税が還付されました。

課税事業者を選択すると、2年目も課税事業者となるが、2期目にも追加で医療機器を購入したため、2期目の消費税納税額はほぼゼロとなりました。

課税事業者選択を取りやめる届出もしっかりと期限内に税務署へ提出。 自由診療収入は年間1,000万円に満たないため、「3期目以降は消費税免税」と思っていたところ、申告後に税務署から3期目も課税事業者であるとの指摘が・・・

税務署からの連絡によると、4期目も消費税の納税義務があるらしい。 あわてて3、4期目の消費税納税額をざっと計算してみたところ、1年目の還付額を超える納税となる見込み。 4期通算で見ると納税額はかえって増えており、これではわざわざ課税事業者を選択した意味がない・・・。

経験談を参考にしたのに、一体どうして?

■ 改正前の経験に基づいたアドバイスに要注意

数年前までは確かにこのケースでも3、4期目の納税義務はありませんでした。 消費税法では課税事業者を選択した年を含めて2年間、つまり開業後1、2期目は免税事業者に戻れない、という定めがあります。

ところで、消費税の計算の仕組みを大雑把に言いますと、その期に受け取った消費税から支払った消費税を控除したものが納税額となります。 高額の資産購入などにより、支払った消費税額が多額となる場合には、消費税が還付されることもあります。

そのため、医療機器を購入する初年度にあえて課税事業者を選択し、消費税の還付を受ける。 引き続き2期目も課税事業者となるが、納税額が1期目の還付額より少額であれば2期通算で得、という仕組みでした。

過去に開業された先生の場合、開業当初2年間分の税額を比較した上で課税事業者の選択をしたものと思われます。 その時はそれで正しかったのですが、近年消費税法の改正があったことには注意を要します。

■ 改正後の注意点

消費税法の改正により開業当初に課税事業者を選択した上で高額の固定資産を購入した場合、免税事業者に戻るのに改正前よりも時間を要するケースが出てきました。

この高額の固定資産を「調整対象固定資産」と言いまして、建物・建物附属設備・器具備品などの固定資産で、税抜価格100万円以上のものが該当します。

改正の内容をこのケースに即して言うと、「開業後1、2期目に調整対象固定資産を購入すると、購入した期の期首から3年間は免税事業者に戻れない。 」というものです。

例えば1期目に調整対象固定資産を取得した場合、3期目も課税事業者となります。 このケースでは2期目にも調整対象固定資産を取得したため、4期目まで課税事業者となったわけです。

近年の改正により、開業当初に課税事業者を選択することで、以前より1年ないし2年、納税義務が延長されることになりました。 より医療機関に不利となっていますので、開業時のシミュレーションの際に、免税事業者に戻るまでの数年間を考え、慎重に有利不利判定を行う必要があります。

なお税法に限らず、法律は年々改正されていきます。 過去の経験談も非常に参考になりますが、法律が絡む部分ではあらかじめ各分野の専門家に相談しておくことをお勧めいたします。

m3コンシェルジュ 佐久間 洋

いかがでしたでしょうか?

ここ数年の税制改正の方向は「消費税」、「所得税」、「相続税」、と先生方の周りは重税の方向に舵が切られています。 一方で「法人税」「贈与税」などは軽減の方向です。

これらの税金とどのように付き合うかで先生の「可処分所得」、長期的に見れば「将来の老後資金」に大きな影響が出ることになります。

毎回このシリーズでお伝えしていますが、医療機関経営と税務の両方に精通したアドバイザーの存在は欠かせませんし、セカンドオピニオンも重要です。

ご開業されている先生もこれからご開業の先生も、まずは多くのアドバイザーと出会い、先生が納得できる考え方のアドバイザーを見つけておくことをお勧めします。

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