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m3コンシェルジュ 小野 博史

リスクマネジメント・ラボラトリー

小野 博史

皆さま、こんにちは。 m3コンシェルジュ、株式会社リスクマネジメント・ラボラトリーの小野です。

今回から3回シリーズで、開業時の労務手続きについてご紹介します。

勤務医の先生方は、普段労務管理に直接携わることはまれで、事務部門が担っているかと思います。

ところが、開業なさると経営者として人を雇うこととなり、労務管理は避けて通れない重要な仕事となります。 人を雇うにあたりまず何をしなければならないのか、またどんな注意点があるのでしょうか。

執筆は、m3.comに掲載されており、東京(本社)・名古屋・大阪・福岡・シンガポールに拠点があり、医療機関経営支援の専門事業部を持つAGSグループAGS税理士法人/株式会社AGSコンサルティング)野崎 社会保険労務士にお願いしました。

それでは、どうぞ。

開業時の労務手続きについて 第1回
開業時に届け出が必要な労働保険・社会保険・労働基準法上必要な書類について

開業時の労務手続きについて 第1回

開業時に届け出が必要な労働保険・社会保険・労働基準法上必要な書類について

普段、開業を検討されている先生とお話をする機会が多いのですが、「自分で労務関係の書類を作ろうと本やネットで勉強したけれど、こんなに複雑で種類が多いとは思わなかった。」という声をよく聞きます。

そこで、開業時に必要な労働保険(労災保険・雇用保険)、社会保険(健康保険・厚生年金保険)、労働基準法上必要な書類について、3回に分けてお伝えします。

書類の届け出先ですが、労災保険と労働基準法上必要な書類は「労働基準監督署」、雇用保険は「ハローワーク」、社会保険は「年金事務所」です。 今回は「労働基準監督署」と「ハローワーク」に届け出をする書類について説明します。

 

■ 労働基準監督署への届け出書類

労働基準監督署には「保険関係成立届」・「概算保険料申告書」・「36協定」「適用事業報告」の届け出をします。

[1] 保険関係成立届

はじめに、「保険関係成立届」は、1人でも雇用して開業するのであれば届け出をしなくてはなりません。 週1日、1時間のパートさんだけ雇用する場合も同じです。

保険関係が成立した日から10日以内に、クリニックの所在地を管轄する労働基準監督署に届け出をします。 この“保険関係が成立した日”ですが、例えば、4月1日に開業予定で、3月15日から研修を行う場合は、その日が“保険関係が成立した日”です。

開業日より前の場合もありますので、注意が必要です。

[2] 概算保険料申告書

「概算保険料申告書」ですが、保険関係成立日からその年の年度末までに、職員に支払う賃金総額の見込み額に、労災保険率と雇用保険率を掛けた額を概算保険料として、保険関係成立日から50日以内に申告、納付をします。

どちらも毎年度見直しが行われ、平成30年度のクリニックの労災保険率は「3/1,000」、雇用保険料率は被保険者負担率と事業主負担率の合計で「9/1,000」です。

なお、労災保険料は全ての職員が対象ですが、雇用保険料は雇用保険に未加入の職員を計算から除きます。

[3] 36協定

「36協定」とは、労働基準法第36条に基づく労使協定で、一般的に“さぶろく協定”と呼ばれ、職員に時間外労働(残業)や休日労働をさせる場合、必ずこの協定を締結して、労働基準監督署に届け出をしなければなりません。

この協定無しで職員に残業等をさせることは、労働基準法違反(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)となります。

また、「労働者の過半数で組織される労働組合もしくは、労働者の過半数を代表する者(管理監督者を除く)との間で、この協定を結ぶ」とされています。 もし、開業時に1人しか職員がいない場合は、その1人の職員が過半数代表者です。

日本語としておかしな感じもしますが、手続き上はそのようにして、協定を作成・締結します。

「36協定」には次の事項を記載しなければなりません。

  1. 時間外労働の発生事由
  2. 時間外労働の業務の種類
  3. 時間外労働を行う職員の数
  4. 延長できる労働時間
  5. 「36協定」の有効期間

このうち、5.の有効期間については、1年間とするのが望ましいとされています。

また、協定は届け出日から効力を発揮します。 3月15日から研修を行っていて、4月1日に「36協定」の届け出をした場合、3月15日~3月31日の間に残業等をさせていたら、労働基準法違反となります。

「36協定」は〇〇日以内に提出しなければならないといった期限はないですが、出来るだけ早く届け出るようにしてください。

[4] 適用事業報告

「適用事業報告」とは、職員(=労働者)を雇い入れたという事実を、労働基準監督署長に報告するための書類です。 「保険関係成立届」と同様に、1人でも職員を雇い入れたら提出の義務が発生します。

「適用事業報告」も「36協定」と同様に提出期限はありません。 労働基準監督署に届け出をするその他の書類と比べると、重要度が低く思われがちな書類なので、届け出を忘れるケースもあるようですが、法律上、当然に届け出が義務付けられていますので、怠らずに作成、届け出をします。

 

■ ハローワークへの届け出書類

次に、ハローワークには「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」の届け出をします。

[1] 雇用保険適用事業所設置届

「雇用保険適用事業所設置届」は、採用した職員が雇用保険の適用を受けるために必要な書類です。

雇用保険の適用を受けることで、失業給付や育児休業給付を受給できるようになる(但し、受給資格を得ること)ので、職員にとってはとても大切な保険です。

職員を雇用してから10日以内に、クリニックの所在地を管轄するハローワークに届け出をします。

原則、労働者を1人でも雇い入れたら、届け出の義務が発生しますが、雇用保険に加入するには、次の条件を満たしていることが必要です。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  2. 継続して31日以上雇用される見込みのある者がいること

したがって、常勤職員を雇い入れるなら、当然に雇用保険の加入義務が発生しますが、週3日、1日5時間のパート職員を2人雇って開業する場合、1.の条件を満たしていないので、雇用保険には加入できません。

この場合、「保険関係成立届」と「概算保険料申告書」は届け出なければなりませんが、雇用保険関係の書類の届け出は必要ありません。

その後、常勤職員を採用したり、パート職員の労働時間を増やして1週間の所定労働時間が20時間以上になったりした場合、その時に「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」を届け出ます。

なお、「雇用保険適用事業所設置届」には、「保険関係成立届」を届け出た時に付与される「労働保険番号」を記載する欄がありますので、労働基準監督署で所定の届け出をしてから、ハローワークに行きます。

[2] 雇用保険被保険者資格取得届

「雇用保険被保険者資格取得届」は、提出する際に雇用契約書の写しが添付資料として必要です。

雇用保険は、一度加入すると被保険者(雇用保険加入者のこと)ごとに「雇用保険被保険者番号」が付与され、資格取得届にはこの番号を記載するか、雇用保険被保険者番号が記載された「雇用保険被保険者証」を添付します。

事前に「雇用保険被保険者証」を持っているか否かを職員に確認してみてください。

次回は、年金事務所に届け出をする書類(社会保険)についてご説明します。

m3コンシェルジュ 小野 博史

いかがでしたでしょうか?

所轄部署に届け出る必要のある書類は、さまざまなものがあります。 ひとつひとつ確実に行っていきたいですね。

今回執筆をお願いした野崎 社会保険労務士が所属しているAGSグループAGS税理士法人/株式会社AGSコンサルティング)では、医療機関経営について総合的なコンサルティングを行っています。

お悩みの先生は、ご相談されてみるのも良いかと思います。

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